魔導国家マーレン

みんなの寝相


 エレノアの過去に決着を付けた俺達は、次の旅へと向かう。


 あまり派手ではなかったものの、きっちりと落とし前を付けさせたエレノアは復讐に捕われる事無く前へ前へと進んで行くことになるだろう。


 と言うか、俺との旅の中で復讐についてはあまり拘らなくなったから、今更な気もする。


 最初は刺し違えてでも殺すつもりだったのだろうが、そんなヤツらのために自分の人生を使うのがアホらしくなったんだろうな。


 復讐の炎が消えることは無いが、あくまでもそれは次いで。


 エレノアは過去よりも未来を選び、俺の手を取ってくれた。


 俺はその手を決して離してはならない義務がある。


 例え神が俺達の間を引き裂こうとも、神を殺して世界を敵に回そうとも、俺はエレノアのそばに居るつもりだ。


 最初の頃は俺もエレノアよりも、レベル上げに注力していたんだがな。人とは変わる生き物である。


 もちろん、レベル上げ、放置ゲー理論を持ってして世界最強になる目標は変わっていないが、その目標のために相棒の手を離す選択肢は無い。


 レベリングと相棒。


 どちらを一つだけを選べと言われたら、俺は迷わず相棒の手を取る。


 そのぐらいには、俺の覚悟は決まっていた。


 まぁ、そんな選択肢を迫るようなやつが来たら、そいつを殺せばいいんだけどね。


 エレノアは“私とレベリング、どっちが大事なの?!”とか言う面倒臭い女では無いのだ。


「やっぱりリエリーは家を壊していたわね。涙目ながらシャーリーに謝っていたわ」

「想像通りすぎて笑えたな。シャーリーさんも呆れてたし」


 そんなわけで、エレノアの人生の新たな門出となったその日、俺達は取り敢えずシャーリーさんをリエリーの元へと送り届けた。


 これから先の旅は、またエレノアとの二人旅になる。


 シャーリーさんも家の管理の仕事があるので、これ以上の旅は続けられない。


 という事で、シャーリーさんをアークヴにあるリエリーの家に送り届けようとしたのだが........家がなくなっていた。


 どうやらシャーリーさんが家に居ないことで、加減を忘れたリエリーがやらかしたらしい。


 おバカ過ぎる。


 ビックリしたよね。リエリーの家に行ったらリエリーの家が無いんだもの。


 最初はなにかあったのかと心配したが、リエリーが半泣きになりながら家の修復をしているのを見て全てを察したよ。


 期待を裏切らないリエリー。流石である。


「今頃叱られているんだろうな。シャーリーさんは、可愛いからって全てを許してくれる訳でもないし」

「ふふっ、そうね。でも、多少叱ったら抱きしめてくれるはずよ。少なくとも、私が子供だった時はそうだったわ」


 家が壊れたのを見たシャーリーさんは、呆れながらも取り敢えず帰ってきたことを報告。


 そしてリエリーと共に家の修復を手伝う事にした。


 俺達も手伝おうかと思ったのだが、シャーリーさんはこれを頑なに拒否。


 どうやら、リエリーへの罰としてリエリー一人で家を直させるらしい。


 しかし、ちゃっかりリエリーを慰めながら家の修復のお手伝いをしているシャーリーさん。


 アレだな。子供が不注意でご飯を零してしまったから、取り敢えず叱るよりも先に一緒に片付けをして、子どもが落ち着いてから叱るみたいな。


 子供が動揺している時に叱っても意味は無い。何が悪かったのかとか、何に叱られているのかとか、頭の中が混乱している時は何も分からないのだ。


 ちゃんと落ち着いて、頭の中を整理できてから叱る。


 リエリーも子供では無い(滅茶苦茶子供っぽいけど)し、今回ばかりはさすがに反省するだろう。


 家のみならず、シャーリーさんの私物の一部まで壊してるっぽいからな。


 リエリーはちょっとおバカな所もあるが、愚かではない。


 どこぞのオネェとか、酒飲みのジジィとか、誰彼構わず喧嘩を売る奴とかとは違うのだ。


 え?迷子はって?


 フロストは定期的に失踪しなければ、割と常識人だと思うよ。既に冒険者ギルドも居場所が把握出来ていなくて、かなり困っているらしいけど。


「リエリーも少しは反省するでしょうし、暫くはあの街は静かになるかもしれないわね」

「だといいけどな。毎日毎日爆発音で起こされてみろ。ストレスのあまりブチ切れそうだ」

「ふふっ、ジークって寝ている時に起こされるのがかなり嫌いよね。よくそれで旅をしようと思ったものだわ」

「命に関わる時に起こされるのは仕方がないとは思うけど、何も無い時に意味もなく起こされるのは嫌だね。睡眠は生物の基礎となる部分のひとつだよ。植物だって寝てなきゃ生きていられない」

「私の寝相が良くて良かったわ。寝相が悪くてジークを殴っていたら、きっと嫌われていたわね」

「安心しろ。その時は、魔術でしばりつけてたから」


 エレノアの寝相はとてもいい。俺を抱き枕にしている為か、まるで動かず俺をただただ抱きしめる。


 俺はたまにゴソゴソ動くらしいが(天魔くんちゃん調べ)、エレノアは本当にピクリとも動かないそうだ。


 俺に抱きついて、首元に顔を埋めながら寝る。


 監視として立っていた天魔くんちゃんが“死んでないよな?死んでないよね?”と不安になるぐらいには、寝相がいいのである。


「俺の寝相はどうなんだろうな?」

「少なくともジークが動いたからって私が起きる事は無いわよ。いい方なんじゃないかしら?悪い人は本当に悪いらしいからね」

「リエリーは何となく寝相が悪そうなイメージだな。ほら、元気ハツラツだし、布団とか蹴っ飛ばしてそう」

「あー、想像できるわね。シャーリーはそれを見て、布団を被せてそうだわ」


 すごく想像できるな。その光景。


 既に寝静まったリエリーの様子を見に来たシャーリーさんが、リエリーの蹴っ飛ばした布団を見て微笑みながら布団をかけてあげてそう。


 なんかすごい心が暖かくなる光景だ。


 尊い。


「シャルルさんとデッセンさんはどうなのかしらね?」

「父さんと母さんか........2人の寝室に行ったことがないから分からんな。でも、寝相が悪くて起こされたって話は聞かないから、最低限寝相はいいんじゃないか?」

「確かにそうね。シャルルさんもデッセンさんも、布団を蹴飛ばしたりしているような光景は浮かばないわ。寧ろ、最初は2人少し離れて寝ているけど、段々とお互いに近づきそうね」

「それ、多分冬の間だけだぞ。夏は暑くて近づかないやつだ」


 俺の親に夢を見すぎだエレノア。


 二人は確かに息子から見ても仲睦まじい夫婦だが、流石にそこまで理想に溢れた寝方をする程では無い。


 多分。


「師匠は?」

「あの人は椅子の上で腕を組みながら寝てそうね。と言うか、寝ずに魔術の研究とかしてそうだわ。一応人間としての行動が残っているから、最低限は寝ているでしょうけど」

「確かに。寝ているよりも起きて魔術の研究をしている方がしっくり来るな」


 師匠はその種族上、睡眠がほぼ必要ない。


 アンデッドでも多少の休息は必要らしいが、人間よりも活動時間は長いそうだ。


 寝ている暇があるなら研究。寝るなら椅子の上で。


 うーん。想像にかたくない。


「ウルは........あー、ウルは抱き枕を抱きしめながら寝てそうだな。しかも、師匠との思い出の品に囲まれてそう」

「........そうね。ウルは間違いなくそうなるでしょうね」

「デモットは........お行儀よく寝てたな。ベッドの上で布団を掴みながら」

「こう、腕を曲げて布団の裾を掴みながら寝てたわね。あれはとても可愛かったわ」


 こうして、俺とエレノアは今まで出会った人達の寝相を想像しながら魔導国家マーレンを目指すのであった。


 こういう何気ない会話が、俺は1番好きである。




 後書き。

 シャー×リエあると思います。いや、リエ×シャーか?

 それはそうと、みんなが多分好きな魔術のコメントを読んだのですが、違うそうじゃない。ほら、あれだよ。古だよ‼︎(ほぼ答え)

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