魔界大戦:ノリノリ悪魔王


 大公級悪魔に戦争をしかけたことにより、悪魔王にも宣戦布告を叩きつけることとなった俺は、素早く次の目標へと向かって転移する。


 しかし、その先にあったものは、もぬけの殻となった大公級悪魔の街であった。


 マジかよ。ほぼ時間をかけていないと言うのに、既にこの街にいたはずの悪魔達が回収されてしまっている。


 判断が早いな。あまりにも早い。


 大公級悪魔の街に住む悪魔達の正確な数は知らないが、凡そ30万程とウルが言っていた。


 移動させたのだ。


 俺達が仕掛けてから僅か数分程度の間に、その全てを。


 この調子では、襲撃を先送りにしたほかの街も既にもぬけの殻となっている事だろう。


 流石はウルと師匠を相手にして生き残ってきた王だ。判断が早い。


「残念。こいつらの経験値はエレノアに譲ることになりそうだな。ま、予想はしていたからいいけども」

「ジーク。既に逃げられていたわ」

「こっちもだ」


 予想はしていたし、別に最悪の状況ということでも無い。


 俺は転移で合流してきたエレノアからの報告を聞くと、空を見上げる。


 中々思いどおりには行かないものだ。


「倒せたか?」

「問題なかったわよ。早く討伐することを目的としていたから、相性のいい悪魔を選んだしね。殴りがいは........まぁ、微妙だったわ。これなら、あの特殊個体ダンジョンで暴れていた方が楽しいわね」

「普通は耐えられないのよ。エレノアの拳は。あの傷だらけの王者スカーキングとか、その他の特殊個体がおかしいだけなの」

「ジークも耐えられるじゃない」

「受け止めた腕がへし折れても死なない事を、“受け止めている”と定義するならね?」


 俺は魔術と観音ちゃんによって相手を押し潰したが、エレノアはその身体能力だけで相手を圧倒していたんだろうな。


 途中で魔力の波を感じたから、魔術か心理顕現は使ったんだろうけど、恐らくは相手の強さがある程度把握出来たから用無しになって燃やしただけだ。


 殴ってて楽しい奴とは殴り合うが、つまらなかったら即座に切り捨てる。


 エレノアとは、そう言う子なのである。


「この感じじゃ、天魔くんちゃんの方も取り逃がしがありそうだな。戦闘が長引いて、逃げられた可能性が高そうだ」

「防御に回られると仕留めるのは大変だものね。天魔くんちゃんは特に、私やジークのように好き勝手に暴れられる訳でもないし」

「決められた分の行動しかできないからね。それでも自分で考えて、しっかりと戦ってくれるけど」


 天魔くんちゃんは、俺が搭載した魔術しか使えない。


 当たり前だ。そういう魔術なのだから。


 与えられた役割しかこなせないから、相性の差がはっきりと現れてしまう。


 俺の使える魔術全てを引き出せるように改良してみたいが、理論上不可能に近いんだよなぁ........


 今はとりあえず手札を増やす事を優先して、色々と実験してみるか。


 天魔くんちゃんの明確に弱い部分を何とかしようと思いながら、俺とエレノアは次の行動に移る。


 大公級悪魔の討伐ができず、悪魔王と合流されたのであれば直接悪魔王を叩くしかない。


「大陸の中央部。そういえば、まだあそこでは狩りをしてなかったな」

「どうせこの戦争の余波に巻き込まれて滅茶苦茶になるわよ。一切出力を加減してないんだしね」

「態々思考力と魔力の確保の為に、要らない魔術は全部切ってるからな。お陰で、今魔界を観測したらやばいぞ?魔力の波で滅茶苦茶になっているはずだ」

「酔って吐くなんてレベルじゃないでしょうね。人類大陸なら、これだけで死人が出るかもしれないわよ?」

「さすがにその二次被害は笑えないな。ここ、魔界だから関係ないけど」


 俺とエレノアはそう言うと、魔界の中央部に向かって移動を開始する。


 宣戦布告をたたきつけ、無事にその布告を受け取ってくれたのだ。


 ならば、正面からやり合うとしよう。


 数百年前に師匠たちが出来なかったことを成し遂げて、俺達は師を超えるのだ。




【魔力の波】

 魔術を使った際に発生する、空気中の魔力の揺れ。普段は全く気にならない程度であるが、ジークやエレノアレベルが使う魔術となると、波が大きくなり世界を揺らす。

 流石にこれだけで死ぬのは無いが、海の波に揺られているのとほぼ同じ感覚なので、弱い人はとことんダメ。

 酔って吐いたり、気分が悪くなったりするので注意。




 ジークとエレノアが宣戦布告を投げつけた頃。


 悪魔王ソロモンは、その宣戦布告の合図をしっかりと受け取っていた。


 鎖に繋がれていたはずの配下たちが一斉に消え去り、そしてそれに伴って凄まじい魔力の波がやってくる。


 悪魔王とて経験したこともないようなその波は、ここ数百年の間の退屈さを刺激するには十分である。


「ほう?ついに動き出したか。この魔界にやってきた人間達が、私に宣戦布告してきたな?」


 二箇所の大公級悪魔の街を同時襲撃となれば、今までのやり方とは明らかに違う。


 悪魔王からしたら使えない雑魚でしかない、伯爵級悪魔や侯爵級悪魔を狩るのではなく明らかにこちらに向かってメッセージを投げかけるような殺戮。


 この魔界に来た招かれざる客達は言っているのだ。


“準備が出来たから、お前を殺す”と。


「あの頭のおかしな骸骨と、それに唆された裏切り者との戦争から数百年。実に退屈であった。何度、我がこの暇を呪ったのか分かりもしない。だが、今回は楽しめそうだな」


 悪魔王は、その強さのあまり日々が退屈であった。


 時に大公級悪魔が挑みに来たものの、正直相手にすらなりはしない。


 ウルとノアはかなり楽しめたが、戦闘が長引きすぎて引き分けとなってしまった。


「今回は勝敗が決するかもしれんな........出来れば、強き者と楽しい殺し合いを演じたいものだ」


 悪魔王はそう言うと、自身の権能を発動させる。


 次の瞬間、大陸中に散らばっていた悪魔王の鎖に繋がれた悪魔達が姿を現した。


 悪魔王の権能、“支配する鎖デーモンチェイン”。


 自身が支配できると思った個体を鎖でしばりつけ、自身の配下にしてしまうと言う王にふさわしい権能。その他にも様々な機能があり、その強さはその他の悪魔達を圧倒する。


 己の意思が硬い相手や、その支配から逃れることを望んだものには弱いが、それでもなお強い権能と言えるだろう。


 多くの悪魔達は、この支配の元にひれ伏し頭を垂れてきた。


「お呼びでしょうか王」

「どうやら、私に戦争を仕掛ける輩が居るらしい。数百年前の戦争を、再現したいのだろうな」

「なんと........!!今すぐにでも私めがその者を始末────」

「貴様。私の楽しみを奪うつもりか?別に貴様から殺しても良いのだぞ?」


 呼び出された大公級悪魔の一言に、悪魔王の機嫌が悪くなる。


 悪魔王は楽しみたいのだ。大公級悪魔の街に襲撃を仕掛ける頭の悪い連中が、この大公級悪魔殺されるとは思わないが、万が一はある。


 ビリビリと全身が震えあがるほどの圧をその身に受けた大公級悪魔は、このままでは本当に殺されると思い頭を下げた。


「し、失礼いたしました........」

「分かれば良い。それに、どうやら彼らは挑戦者として来たらしい。ならば、私は王らしく出迎えてやるとしよう。全員、今からちょっと会場を作るぞ!!」

「........へ?」


 一瞬、何を言っているのか理解できなかった大公級悪魔出会ったが、悪魔王は既にノリノリである。


「何を呆然としているんだ。せっかく挑戦者が来るのだぞ?いわば客人だ。それらしい姿と場所が必要だろう!!なぁに、暇すぎて準備していたやつがある。貴様らはそれを配置して、それらしい顔で並んでおけばいいのだ!!」

「は、はぁ。分かりました」


 こうして、ジークとエレノアがこの場へとやってくる前に、悪魔王は急いでセッティングを始めるのであった。





 後書き。

 悪魔王も悪魔なので、ちゃんとこう言うお約束は守るタイプ。

「我が名は〜」とか名乗ったら、ちゃんと最後まで聞いてくれる。どっかの空気の読めない経験値の悪魔とは違う。

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