魔界大戦:天魔軍vs公爵級悪魔


 ジークとエレノアがほぼ同じ時刻に開戦を告げた時、主人であるジークの魔力が大きく渦巻くのを感じた天魔くんちゃん達も動き出していた。


 ジークの主戦力でありながら、その実力はオリハルコン級冒険者を大きく凌駕する魔術“天魔”。


 ジークは男の子と女の子の性格を併せ持つことから、“天魔くんちゃん”と呼んでいるが、正確には魔術の名前は“天魔”である。


「........(主人達が始めましたか。それでは、私達も始めるとしましょう。準備はいいですか?)」

「「「........(了)」」」


 ジークの魔力を開戦の合図とし、天魔くんちゃん達が狙うのは公爵級悪魔達。


 大公級悪魔に続く悪魔たちの中でも強者の存在であり、魔界に八名しか存在しない絶対的強者の一角。


 もちろん、現在の天魔くんちゃん単体の力では、公爵級悪魔を倒すことは出来ない。


 ジークやエレノアが噛ませ犬扱いしてボッコボコに殴り飛ばしたとは言えど、あの公爵級悪魔は最弱。


 まだ経験も足りず、そして能力的な相性も天魔くんちゃんと絶望的に悪かった。


 エレノアの遊び相手を務める天魔くんちゃん達だ。並外れた耐久力と、高い戦闘指数を持っているのはもちろんである。


 が、今回の相手達はそうもいかない。


 倒し損ねて今後の作戦に影響が響いても困るので、念の為に7つの公爵級悪魔を相手に20体程の天魔くんちゃんが割り当てられている。


 その内の一つ。公爵級悪魔の中でも中堅程の強さを持つと言われているババゼラが、彼らの相手だ。


「........(それでは始める。各員、配置につけ)」


 纏め役の白魔術が主人格となっている天魔くんちゃんが、天に剣を掲げる。


 そして空に描き出すは、主人と同じく天使の不協和音。


「........(宣戦布告だ。受け取るがいい)」


 割とノリノリで強者のような風格の演技をしながら、剣を振り下ろすと白い光が街を包む。


 第九級白魔術“天輪:四重奏リング:カルテット”。


 天使の輪が奏でた不協和音が、光と共に全てを滅する。


「........(やはり逃げられたか。大人しく死んでくれれば、私達の手間も省けるのに)」

「何者だ貴様ら........!!我が街を破壊するとは、いい度胸をしているな」


 が、しかし。


 公爵級悪魔ババゼラは、この一撃を察知して上手く逃げていた。


 天の光が全てを浄化する前に、ババゼラは即座に街から退避。


 そして、今、天魔くんちゃんの前に現れる。


「........(我々は天魔くんちゃん。とは言っても、声は出せないから多分通じてない)」

「........なんだその奇妙な動きは。舐めているのか?」

「........(ほら、通じてない)」


 悪魔と何度も対峙している天魔くんちゃんは、いつものやり取りをしてやはり分からないか........と落胆する。


 これがジークやエレノアならば、会話をするかのように分かるだろう。


 だが、初見で手を振り回したり、自分を指さしたりする天魔くんちゃんを見て、何が言いたいのか分かる者はいないだろう。


 2年ほど天魔くんちゃんシリーズと一緒にいるデモットですら、未だに複雑な会話は難しかったりする。


「........(声の実装を........いやでも、主人割と私達とこうして会話するのが好きなんですよね)」


 声の実装をしてくれたら初見の相手とも会話ができるとは思うものの、ジークやエレノアは天魔くんちゃんとのジェスチャーの会話を楽しんでいる節がある。


 自分たちの主人はあぁ見えて、変なところでこだわりが強い。


 きっと今後も声の実装はされないだろう。そっちの方が趣があるという理由で。


 天魔くんちゃん立ちからすれば、主人が喜ぶならなんでもいいので実はあまり気にはしてないが。


「........(それに、今から死にゆく者に話しても無駄ですか。総員、攻撃開始)」

「「「「........(レッツゴォォォォ!!)」」」」

「ぬっ?!増援だと?!」


 一応、名乗りはしたぞという事で、纏め役であった天魔くんちゃんは隠れさせていた仲間達に総攻撃を支持する。


 ババゼラは一瞬虚をつかれて体が固まったものの、その後素早く対応に回ろうとして、攻撃を受けた。


 背中に衝撃が走る。


 痛みはそこまででは無いが、体制を崩されるには十分な威力。


 天魔くんちゃんは、相手が体制を整える前にこの勝負に決着をつけるつもりだ。


 そこに武士道も騎士道も存在しない。


 勝った奴が正義。


 経験値にできるのであれば、そこに正義も誉も存在しない。


 ジークがそうであるように、天魔くんちゃんもまた、生粋の経験値狂なのである。


「グハッ、このッ!!」


 背中に衝撃を受けたババゼラは、自身に攻撃を打ち込んできた天魔くんちゃんのひとりに視線を向ける。


 が、それは別の天魔くんちゃんに隙を与えるという事。


 連携に関してはそこら辺の軍隊よりも圧倒的な天魔くんちゃん達は、その隙を決して逃さない。


「........(背中がら空き)」

「ウグッ!!」


 悪魔は基本的に、その地位を掛けた一対一の勝負がメインだ。


 魔物を狩る時には一対多を強いられることもあるが、これ程までに高度な連携を取る事はまず無いのである。


 悪魔の中にある弱肉強食の世界は、所詮一対一の話。


 真の弱肉強食は、そもそも数で圧倒して相手を叩き伏せる。


「........(脇腹)」

「ゴフッ」

「........(左足)」

「ヌゴッ!!」

「........(背中)」

「ガハッ!!」

「........(腹)」

「ウボッ........!!」


 一人の天魔くんちゃんに対応しようとすると、残りの天魔くんちゃんがつかさず攻撃を仕掛けてくる。


 周囲を全て吹き飛ばさんと権能を使おうとすれば、その僅かな隙に確実に攻撃を当ててきて権能を使う瞬間を封じてくる。


 しかも、大きな隙を見せて誘っても絶対に乗ってこない。


 確実に反撃されないタイミング、反撃されない方向からの攻撃しかして来ないのだ。


 なんと見事な徹底具合。


 普段はジークやエレノアに頭を撫でられれば、“ほわぁぁぁぁぁぁぁ!!”と内心喜びまくっている少し残念な天魔くんちゃんだが、戦闘になればジークやエレノアよりも冷酷で残酷だ。


 絶対に相手を殺すだけの為の戦法。


 その作られた目に温かさは無い。


「........(終わり。天よ響け)」


 そして相手が弱り、確実に逃げられないその瞬間に天の不協和音が鳴り響く。


 二度目の不協和音は、たった一人の悪魔を滅ぼすためにその大きな音を奏でるのだ。


「ば、バケモ─────」


 ゴウ。


 光が大地までも貫き、小さな深淵を作り出す。


 何もさせて貰えず、見事なまでにフルボッコにされたババゼラは、最後の言葉も残せずにこの世から姿を消す事となった。


「........(これで終わり。みんな怪我はない?)」

「........(問題ないよー)」

「........(ふふん。余裕。主人に作られたこの身体が傷つくことは........うんまぁ、エレノア姐さんとやり合わない限り早々ない)」

「........(あの人を枠組みに入れたらダメだよ。全部が狂っちゃう)」

「........(いい人だし、主人の事をとても理解している素晴らしい人なんだけど、手合わせになると容赦ないからね。何度私達の体が吹っ飛ばされたことか)」


 無事に、公爵級悪魔をフルボッコにして勝利を収めた天魔くんちゃん達。


 纏め役の天魔くんちゃんは、誰一人として怪我人が出ていないことを確認するとその場で静かに待機する。


「........(次はそうもいかない。気を引き締めてね)」

「「「「........(はーい!!)」」」」


 返事だけはいつもいい。が、たまに変なやらかしをする。


 纏め役も楽じゃない。天魔くんちゃんはそう思うと、頭を抱えたくなるのであった。

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