弟子の成長は泣ける
絶望級魔物ブラキオルスを相手に互角以上の戦いを見せるデモット。
破滅級魔物を相手にするのが精一杯だった俺達の弟子が、遂に絶望級魔物を相手にできるだけの強さを手にしたという事実は俺とエレノアを喜ばせた。
すごいよデモット。ブラックドラゴンよりは少し弱い相手だが、それでもお前はまた1つ大きな壁を越えたのだから。
アトラリオン級冒険者には及ばずとも、既にオリハルコン級冒険者たちを大きく凌駕するだけの実力。
レベル100は既に超えていたはずだが、一体この数ヶ月でどれだけお前は頑張ったんだ。
「分身の動きも滑らかになっている。一回改良を加えたっぽいな。それに、色々な経験をさせたのか動きもいい。1人で完璧に連携をこなしているぞ」
「私とジークの戦闘方法を合わせて二で割ったかのような戦い方よね。分身はジーク、立ち回りは私。私達の弟子って感じがするわ」
「魔術を交えた近接主体の戦闘に、それを補助する分身。確かに俺とエレノアを合わせたかのような戦い方だな」
俺は数の暴力で相手を圧倒する戦闘スタイル。圧倒的な魔力にものを言わせて魔術を乱発し、相手に何もさせずに勝つと言うのが俺のやり方。
対するエレノアは、圧倒的な個の力によって相手を押しつぶす戦闘スタイル。その優れた身体能力と武神マリーにすら認められた天性の肉体捌きで、相手をねじ伏せて勝つ。
俺とエレノアの戦闘スタイルは、それぞれ自分の強みを最大限生かすために構築されたものであり、自分の弱点を長所で無理やり埋めるやり方だ。
では、デモットはどうかと言うと、デモットの場合はそのふたつのいい部分を掛け合わせたやり方をしている。
しかも、実践的なレベルにまでそれを極めているのだ。
俺もやろうと思えばできなくは無いし、エレノアも同じようなことは出来るだろう。
しかし、ここまでの連携は生み出せないし、ここまで器用な戦い方は俺もエレノアも実践レベルではできないだろう。
俺達は自分の不得意をある程度克服しつつ、自分たちの長所でそれを補う。
対するデモットは、器用すぎるためか俺達のやり方をいい感じに全部採り入れていた。
ウチの子天才かよ。才能は正直微妙とか言っていたけど、やっぱりデモットは天才だわ。
「このやり方を極めれば、数的有利を必ず作りだしつつ相手をぶん殴る理不尽が誕生するな。分身の数を増やしつつ、同じように戦えるように教えてあげるか」
「魔力の問題はレベルをあげればそれでいいものね。後は思考力の問題だけど、デモット頭がいいからすぐにものにできるでしょうし」
「俺もエレノアも脳筋思考な部分があるからな........深く考えずに押し潰すやり方の方が楽だしほかの状況にも備えられるんだよね」
デモットは頭がいいから多分、このやり方が成立してるんだろうなぁ。
お勉強ができるとかそういう話ではなく、単純に頭の回転が早いのだろう。
だから、こんな複雑な戦闘が成立している。
あれ?弟子の方が賢くね?
「デモットの頭があったら、
「お陰で私達の弱い部分が分かったじゃない。力任せな思考が何も全て悪い訳では無いのよ」
出来ればスマートな戦い方も身につけたいなーとは思いつつ、俺の頭では無理だなと早々に諦める。
あれはデモットだけに許された、デモットだけの戦い方。
自分の才能を最大限に活かす方法を考えた結果辿り着いた、デモットだけの戦闘方法なのだ。
「........っらァ!!」
「────」
普段見せないような勇ましい表情で、渾身の一撃をブラキオルスに当てたデモット。
その一撃を食らったブラキオルスは、大きく身体を揺らすと膝から崩れ落ちる。
「闇よ、天高く貫け。
そして、ブラキオルスが確実に避けられない体制になったことを確認したデモットは、その瞬間を待っていたかのように発動時間が僅かに長いながらも強力な一撃をブラキオルスに向かって放った。
あれは新しくデモットが作った魔術かな?魔法陣の情報量と魔力量からして、恐らく第八級魔術。
ただ、一撃の威力を追求した単体用の魔術だろう。
俺やエレノアの様な素早く動き回る相手ならば当てるのは厳しいが、相手が動けない状態なら必殺の一撃になってくれる。
使い勝手はあまり良くないが、色々と状況を組み立てることで効力を発揮する魔術だな。
「やるじゃない」
「凄いじゃないか。絶望級魔物を遂に単独で倒せるようになったんだな」
これには俺もエレノアも褒めるしかない。
最初は破滅級魔物にすらボコられる程の強さしか無かったただの悪魔は、人類が討伐不可能と定めた強さを持つ絶望級魔物と同格の強さを持った魔物に勝利を上げたのだ。
僅か2年で。
元々レベルが高かったと言うのと、悪魔としての種族の強さがあったとは言えど、これは素晴らしい快挙である。
知識、魔術、武術。
これら全てを使ったデモットだけの強さを見つけて、ここまで来たのだ。
「フゥ........」
「デモットー!!」
ブラキオルスに勝利し、頬から流れ落ちる汗を拭くデモットに突撃する俺。
俺は人の成長とか見ても感動しない人種だと思っていたが、どうやらそうでも無いらしい。
俺の目元は僅かに潤み、可愛い可愛い俺の弟子の姿が滲んで見えていた。
泣けるよ。泣かせてくれるよ。
2年間、デモットを教えてきて一番感動した瞬間だよ。
エレノアも若干涙ぐんでおり、それはまるで自分の子供が強く成長した姿を見た時のような気持ちであった。
「え?ジークさ────わっぷ!!」
「凄いじゃないか!!ブラキオルスまで1人で倒しちゃうなんて!!しかもたったの2年!!デモット、お前は俺達の自慢の弟子だよ!!」
「よくやったわデモット。凄いじゃない」
デモットに抱きつき喜びを露わにする俺と、いつの間にか後ろに回って頭を撫で回すエレノア。
デモットは知らぬ間に帰ってきていた俺達に若干混乱していたが、何となく状況を察すると嬉しそうにニヤける。
「えへへ。本当はお二人と手合わせするまで隠したかったんですけどね。ウルさんが教えちゃいましたか」
「いつから倒せるようになったんだ?」
「最近ですよ。トリケラプスを相手にしても物足りなくなるまでやり続けて、一週間前に挑戦したばかりです。初めて倒せた時はとても嬉しかったですけど」
そりゃそうだろ。自分の成長を大きく感じられたはずだしな。
俺やエレノアだって、自分の成長を大きく感じた時は嬉しいのだ。
色々と苦労して魔術の研究をしたり、俺達にボコされたりしてきたデモットはもっと嬉しいだろう。
俺達も師匠にボッコボコにされた後、初めて戦った魔物が思いの外弱くて“あれ?俺達強くね?”となった時は喜んだものだ。
それと同時に、師匠の底がしれない事にも驚いたが。
「今日は豪華にパーティーだな!!何が食べたい?なんでも作ってやるぞ!!」
「私も手伝うわよジーク。折角なんだし、手の込んだものでも食べる?」
「あ、それならジークさんがよく作る肉と野菜を煮込んで、スパイスで味付けしたやつが食べたいです。あれ、すごく好きなんですよ。しばらく食べられなくて、自分で作ってたんですがちょっと味がイマイチでして........」
あー、なんちゃってカレーね。
肉と野菜を煮込んでそこにスパイスをふんだんに入れることで作る、なんちゃってカレー。
ちなみに、味は全然カレーに近くないが、風味は微妙にカレーっぽさがあるので俺はそう呼んでいる。
親父が作っていたやつを改良したやつでもあるな。
「よーし分かった!!お肉はどれがいい?」
「えーと、ジークさんのおすすめで」
「よし分かった。ブラックドラゴンの肉を取ってくる!!新鮮な方がいいだろうしな!!」
「え、今から────」
その後、爆速でブラックドラゴンを処理し、俺とエレノアはデモットの為に丹精込めたなんちゃってカレーを作って夕飯を振る舞うのであった。
美味しそうに食べるデモットの顔が可愛すぎて、親バカならぬ師匠バカに2人ともなっていたのは言うまでもない。
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