匂いはポートネス


 魔境での狩りの仕方を思い出しながら、あれこれ試し始めた俺達。


 魔境での狩りは慣れている。


 かつては森そのものが魔物であった場所で森林を燃やし尽くしたり、ドデカイ音と振動でおびき寄せてヒャッハーしてきたのだ。


 効率効率効率。


 最近はダンジョンという天国に甘えてしまっていたため忘れかけていたが、昔はこうしてどれだけ効率よく魔物を狩れるのかという事ばかりを考えて、あれこれ実験していたものである。


 懐かしい感覚だ。そうだよ。魔境の狩りは、とにかく片っ端から試しては効率を求めていたじゃないか。


 そんな効率を求めまくって実験をしていく中で、一つあることに気がついた。


 この魔界の魔物、とにかく鼻が利くらしい。


 ほかの魔境に比べて襲われる回数が多いなとは思っていたが、どうやら奴らは俺たちの匂いをしっかりと辿れるらしい。


 悪魔の匂いを覚えて餌とでも思っているのか、悪魔の匂いを模した魔術をばら撒くと食い付きがかなり良かった。


 特に肉食恐竜系の魔物があっちこっちからやってきてくれる。


 ティラノザウルスみたいなやつとか、アロルスとか、その他にも小型の肉食恐竜とか。


 とにかく肉食系の魔物があっちこっちからやってくるのだ。


 これでも結構な数の魔物が釣れるのだが、1つ問題がある。


 それは、草食恐竜系の魔物は寄ってきてくれないという事。


 奴らは別に悪魔を主食としている訳では無いので、悪魔の匂いに興味が無い。


 そんなわけで、俺とエレノアは匂いに関する実験を行っていた。


「トリケラプスのような温厚な魔物を興奮させて、こっち側に引き寄せるような匂いか........そんなのあるのか?」

「ちょっと分からないわね。私達はそもそも鼻が利くわけじゃないわ。さらに言えば、アロルスのような魔物までおびき寄せる必要があるわよ」

「同時におびき寄せられる匂いか........」


 匂いがこの魔境において効率的な狩りを齎してくれることは判明した。となれば、あとは草食、肉食問わず寄ってきてくれるような素晴らしい匂いを作れればいい。


 しかし、鼻が利く訳でもなく、そもそも草食恐竜の好む匂いすら分からない俺達には、どんな匂いを作ったら寄ってきてくれるのかなんて分かるはずもなかった。


 音や振動で興奮して突撃してくるだけなら良かったんだがな。流石にそこまで馬鹿では無いらしい。


 臆病な性格の魔物は厄介だ。こういう時、まとめ狩りがやりにくくて困る。


「仕方がない。相談してみるか」

「誰に?」

「そりゃ、匂いと言えばポートネスだろ?あいつの権能は匂いに関する権能だ。悪魔と人を見分けられるほどに鋭い嗅覚を持つ彼女なら、何か閃をもたらしてくれるかもしれん」

「あぁ、悪魔の匂いを作った時もポートネスにお願いしてたわね。そうね。確かにポートネスが適任だわ」

「ある程度植物を集めて楽しそうに実験している所悪いが、ちょっと手伝ってもらうとするか。ほら、護衛料とでも思ってもらおう」

「随分と高くつきそうな護衛料ね」


 という事で、やってきました。ポートネスの家。


 悪魔達からは病院とすら呼ばれるポートネスの家をノックすると、助手をしているロザリーが出てくる。


 彼女がこの村に来てから既に3週間。随分とこの村には馴染んだようで、最近はよく女性悪魔と仲良く話している姿を目撃していた。


 尚、男連中はみんなこの姉妹を狙っており、現在は抜け駆け禁止令が出されているらしい。


 その話を聞いたウルは、かなり呆れていたな。


“これだからウチの馬鹿どもは........”と呟きつつも、どこか楽しそうであった。


「あ、ジークさんにエレノアさん。どうかされたのですか?」

「ポートネスはいるか?ちょっと手伝ってもらいたいことがあってな」

「いますよ。呼んできますね」


 ロザリーはそう言うと、パタパタと走ってポートネスを呼びに行く。


 しばらく待っていると、若干不機嫌そうなポートネスが出てきた。


 実験の邪魔をされてご立腹の様子だ。気持ちはわかるよ。俺も自分の意思とは関係なくレベリングの邪魔をされたらイラッとするし。


「今、いいところなんだけど」

「随分なご挨拶だな。そんな態度で急病人の前に立つなよ?」

「分かってるさ。君たちだからこういう態度を取ってる。ジークもエレノアも意外と研究者という種族を理解しているからね。それで?冷やかしに来たなら帰るよ」

「待て待て。ちょっと手伝って欲しいことがあってな」


 俺はカクカクシカジカで、ポートネスに匂いについての相談をした。


 草食恐竜が誘われそうな匂いって知ってたりする?もし知らなかったら、ちょっと付き合って貰える?と。


 ポートネスは少し悩んだ後“少し待ってて”とだけ言って扉の向こうに消える。


 このまま出てこなかったら家を破壊して引きずり出すが、そんな事は冗談でもしないだろう。


 だって早く実験したいだろうしね。


「なにか心当たりでもあるのかしら?」

「ポートネスは結構色々なことを観察しているから、どちらにも有効的な匂いに心当たりがあるんだろうな。匂いの権能、中々に侮れない性質だ。やっぱり、強さと言っても一括りにはできないよな」

「そうね。単純な腕力だけで強さを推し量るのはダメね。ジークも私も確かに力という意味での強さは持っているけど、それ以上に強いものだってあるわ」

「........例えば?」

「努力かしらね?要は、結果が出ない中でも粘り続けられる根性と言うべきかしら?これもひとつの力と言えると思わない?」

「言えるだろうな。辛い時間を耐えれるというのも、ひとつの強さだ。多くの悪魔は、それを理解していない。この村は別だけどな」

「この村は、そんな違った強さを持った者たちが集まって出来た村なのよ。お互いよ強さの違いを認め、尊重し合えるいい村だわ」


 強さと言っても、一括りにできるほど単純なものでは無い。


 我慢強い、力が強い、頭がいい、文才に秀でている、芸術的。


 これらもある意味強さと言えるわけだ。人類大陸の場合、この強さを認めて賞賛されることが多いが、力の強さだけを求める悪魔からすれば何の役にも立たないゴミ同然。


 だから、文化において発展が遅いのかもしれない。


 単純な強さだけを求めても、生活が豊かになるとは限らないのだ。


 生存においては最も重要な要素ではあるだろうけどね。


 特に、魔界は生息する魔物が単純に強い。


 強さを求め続けなければ、彼らは生き残ろ事が出来なかったということも考えられる。


 大陸に生存する魔物の強さによって、形成される文化や進行度が違う。


 論文に書いて発表したら、そこそこ評価を貰えそうだな。


 エレノアと“強さ”の定義について話していると、ポートネスが戻ってくる。


 そして、その手には、木の実が握られていた。


「それは確か........」

「アカルビの実だ。トリケラプスなどの草木を食べる魔物が好んで食べていた木の実でありながら、肉食系の魔物も食べていたのを見た。死体の匂いからも木の実の匂いが微かに感じられたから、あの地ではどの魔物も食す食べ物だと思うよ」

「よく見てんな。全く気が付かなかったぞ」

「凄いわね。素直に尊敬するわ」

「ふふん。私の鼻は世界一を自負しているのさ。ほら、さっさとこの匂いでも再現して実験してみな。再現したあとは確かめてやるからさ」


 ほら帰れと言わんばかりに、俺に木の実を渡して“しっし”とやるポートネス。


 俺とエレノアは、褒められて照れている素直じゃないポートネスにお礼を言うと、早速この木の実の匂いを再現してみることにするのであった。


 これで魔物が釣れたら最高だな。

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