食物連鎖
進化したとしてもやはり才能が変わる訳では無い。
剣に関しては圧倒的に下手であったエレノアは、進化して新たな種族に生まれ変わっても剣が下手であった。
少し残念そうにしていたのを見るに、剣術を使ってみたかったんだろうな。
正直、あんなへなちょこな剣でも今のレベルなら並大抵の魔物を倒せるだろう。しかし、自分と同等かそれ以上の相手にはまるで歯が立たない。
実践で使えるかと言われれば、明らかにNOである。
本当に不思議だよ。身体能力が悪いわけでも無いし、ナイフなんかはしっかり使えるというのに。
なぜ普通の剣だけは使えないのだろうか。
そんな摩訶不思議なエレノアの才能に首を傾げながらも、俺達はさらに森の奥へと進む。
今のところ、アロルス以外は見たことがある魔物ばかり。もう少し味変が欲しいなぁなんて思っていると、少し開けた場所を見つけた。
木々が生えていない広場のような場所。そこには、三体程の魔物がゆっくりと寝そべっている。
「トリケラプスですね。小さな魔物がいるのを見る限り、家族のようです」
「ちっこいのを見るのは初めてだな。今まで見てきたやつは全部大人だったし」
「へぇ。あれがトリケラプスの子供なのね。ちょっと可愛いわ」
殺伐とした森の中で穏やかに眠る三体のトリケラプス。
どっちが父親でどっちが母親なのかは分からないが、両親は子供を守るように身体で囲んでいる。
魔物の家族を見たのはこれで二度目だが、やはりおやは子供を守るように動くんだな。
フェニックス家族もママフェニックスがピィーちゃん達を、翼で抱きしめながら寝てたりしてたし。
元気にしてるかなピィーちゃん家族は。大きくなったら会いに行くつもりだし、また一緒に遊ぼうね。
そんな魔物の中の家族愛に少しホッコリしていると、遠くからドスンドスンと大きな足音を立てて何者かがやってくる。
またしても登場、アロルス(大人)君。
どうやらこの森はアロルスがかなり多く生息しているらしい。
「グヲォォォォォ!!」
「プェェェェェ!!」
トリケラプスを見つけたアロルスはご丁寧に“今から襲うぞ”と言わんばかりに咆哮を上げ、アロルスの接近に気がついたトリケラプス家族は慌てて起き上がると“ツノで刺し殺すぞ”と言わんばかりに対抗する。
おぉ!!アロルスvsトリケラプスの勝負だ!!
大怪獣バトルが見られるぞ!!
太古の地球で行われていた食物連鎖。見た目が似ているだけで生態が違うかもしれないが、地球に生きてきた俺からすれば胸熱なマッチアップである。
いつもならどちらかが死ぬと経験値が無駄になるとか言って、空気も読まずに療法ぶちのめしていたところだが、この時ばかりはそんなことを忘れてロマンを追い求めてしまった。
だって見たいじゃん!!図鑑でしか見た事がないトリケラトプスとティラノサウルスの戦いが見られるんだぞ?
相手はティラノサウルスではなくアロサウルスだが、そんなことは関係ない。
ロマンがそこに広がっているのであれば、是非とも見てみたいと思ってしまうのが男と言う生き物なのだ。
「ジーク?」
「ん?どうしたエレノア。俺は今からこの戦いを見るので忙しいんだ」
「そう。いつもならここで両方滅ぼすのだけれど、ジークが見たいと言うなら大人しく観戦しましょうかね。どうやらジークにとってこの戦いは心をくすぐるものがあるみたいだわ」
「あ、あのジークさんが経験値よりも観戦を優先するだなんて........悪魔の名乗りすら聞かずに相手を殴るように人なのに」
「おぉ!!これが魔物同士の対決!!楽しみだね!!」
俺が経験値よりもロマンを優先していることに驚くデモットと、珍しいなとは思いつつも“ジークなら有り得るか”と勝手に納得して大人しくこの戦いを見守るエレノア。
そして、俺と同じテンションで楽しそうにこの戦いを眺めるポートネス。
そんな観客がいるとは知らず、トリケラプス家族とアロルスの戦いが始まった。
「グヲォォォォォ!!」
先手を取ったのはアロルスだ。その巨大な身体からは想像できないほどに素早い動きを見せつけ、爆速でトリケラプス家族に接近。
しかも、相手が子持ちだと分かっているのか、家族を守ろうと前に出たトリケラプスを無視して後を攻撃しようとしている。
随分と賢い個体だな。今まで見てきたアロルスの中でも、1番頭がいいかもしれない。
「プェェェェェ!!」
爆速で我が子に向かってくるアロルスを見たトリケラプス家族は、子供を素早く後ろに隠しながらもう一体の親が前線を張る。
大きく口を開けて噛み付こうとしたアロルスに向かって角を突き刺そうとするが、それを見たアロルスは口を閉じて後ろへ下がった。
「なんと言うか、随分と頭のいい個体のようね。本能ではなく、ちゃんと考えて戦っているように見えるわ」
「奇遇だな。俺もだ。デモット、アロルスは頭がいいのか?」
「いえ。多分あの個体が特殊なだけかと。おそらく、長年孤独に生きてきた個体なんじゃないですかね?1人で生き抜くとなると必然と経験や知識が身につきますから」
「そこら辺は魔物や人も変わらないのかもな。違う点があるとすれば、人は他者にもその知識を与え魔物は与えないって事ぐらいか」
「うはー!!カッケー!!」
賢く立ち回るアロルスと、それに対応するトリケラプス家族。
おそらく、タイマンなら既にアロルスが勝利を収めているが、二対一という数の差を上手く埋められないように思える。
下手に自分から突っ込むと、角を突き刺されるから攻めづらい。さて、アロルスはどうやってこの状況を突破するのだろうか。
やけにテンションが上がっているポートネスと一緒に盛り上がりながら、その戦いを眺めているとアロルスが背を向けて走り始める。
なんだ。攻めきれないと思って逃げるのか?
そう思った矢先、アロルスは驚くべき行動に出た。
バキバキバキ!!と、なんと近くにあった気をへし折って口に咥えたのだ。
そして、突撃。
トリケラプスはまたしても角で迎え撃とうとするが、今回はそう上手くは行かない。
「グルゥ!!」
アロルスは口にくわえた木を振り回すと、トリケラプスに思いっきり木を叩きつけたのだ。
バキン!!と木がへし折れ、顔面に木を食らったトリケラプスは隙を晒す。
その隙にアロルスは大きく飛び上がると、トリケラプスを上から押さえつけて硬い皮膚を無理やり噛みちぎったのである。
すげぇ!!ちゃんと道具を使うということを理解して実行出来る個体だ!!
これには思わず俺達も盛り上がる。
少し退屈そうに見ていたエレノアすらも、この時ばかりは“おぉ!!”と盛り上がっていた。
「魔物を下に見ている訳では無いけど、ここまでしっかりと臨機応変に戦える魔物も珍しいわね。特に、本能に生きる魔物ばかりが生息する魔界では貴重な個体なんじゃないかしら?」
「すげぇな。攻めきれないから道具を使うってことをちゃんと理解してる。使った道具は単純だけど、実践で使えるのが既にすごいぞ」
「ほへーこれは初めて見ましたね。こんな行動を取る個体もいるとは驚きです」
「すげー!!これが魔物同士の戦い!!」
きっちり首すじを噛みちぎって相手の動きを止めさせたアロルスは、下敷きとなったトリケラプスはもう脅威では無いと判断し流れに任せて残った二体を襲いに行く。
目の前で家族が血塗れになった影響か、僅かに反応が遅れた二体はあっという間に組み伏せられ、気がつけばアロルスが勝利を収めていた。
「これが魔界の食物連鎖。中々いいものが見れたな」
「結構迫力があったし、最後の最後に面白いものが見れて満足ね。途中は退屈だったけど、最後はとても楽しかったわ」
「で、ジークさん、この後どうするんですか?」
え?そんなの決まってるだろ?
もちろん、食物連鎖に飲み込まれるんだよ。
俺は第九級黒魔術“黒一閃”を使うと、勝利の雄叫びをあげていたアロルスの頭を撃ち抜くのであった。
後書き。
普段はあまり書かない魔物vs魔物の世界。ジーク達が見てないだけで、これが世界の日常です。
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