エレノアしすぎ


 エレノアによって草食恐竜ダンジョンに転移してきた俺は、15分ほどエレノアに遊ばれるとようやく落ち着きを取り戻す。


 流石にずっと頭を撫でられたり、匂いを嗅がれたり、頬をムニムニされ続けられたら冷静になる。


 だって、俺よりやべーやつがそばに居るのだから。


 人が取り乱している時に更に取り乱したやつが隣にいると冷静になるとは言うが、まさか俺よりも更にやばい行動で冷静にさせてくるとは流石エレノア。


 俺の事をよく分かっている。


 ただ、俺が冷静になってからも続けるのはどうなの?単純にエレノア自身が楽しみたいだけでしょこれ。


「落ち着いた?」

「........とても不本意ながら」

「あら、失礼な言い方ね。私はジークの為を思ってやったというのに」

「絶対私欲が混ざってたぞ。寝る時も俺で遊ぶくせに、まだ遊び足りないのか?」

「それはそれ、これはこれよ」


 そんな胸を張って言わないで。ドヤ顔で“えへん”とやられても困るだけだよ。


 さて、レベルリセットと言うとんでもない世界のイタズラに翻弄された訳だが、べつに俺自身が弱くなった訳では無い。


 むしろ、強くなっている。


 人間の進化条件が心理顕現の取得とは思ってなかったが、これはこれで有難い。


 基本的に上位種族と言うのは下位種族よりも圧倒的な力を持つ。ゲーム的に言えば、二次転職をして基礎ステータスが伸びたと言えるだろう。


 この世界、ステータスの確認はできないけど。


 レベル1の時点でレベル338の俺だった頃より強いとかバグかな?進化については分かってないことも多いからなんとも言えないが、以前の力を引き継いだままさらに強くなったという感じなのだろうか。


 まぁ、弱くなるよりはマシなので良しとしよう。むしろ、レベリングがさらに出来ると考えれば悪くない。


 レベルリセットのインパクトが強すぎただけで、冷静に考えればメリットしかないのだ。


「とりあえず第一階層に来たけれど、どうしましょうか。今の力なら、ボスに挑んでもいいと思うのだけれど........」

「なら最初からボスに挑んでみるか?死にはしないし、なんなら一撃で終わらせられそうな雰囲気があるけどな」

「ふふっ、なら行きましょうか。ちょっと気になってたのよね。レベル1が絶望級魔物を倒した場合、どれほどレベルが上がるのか」

「それは確かに気になるな。少なくともレベル300ぐらいまではあっさりいけると思うぞ。まぁ、上位種になって必要経験値が上がったら分からんが」


 ゲームあるある。上位種とか2次転職すると何故か必要経験値が爆増する。


 最近は少ないが、昔のゲームではよく見られた光景だ。三次転職をした後の必要経験値を見て普通に白目を向いた思い出があるね。


 ほら、某ポケットなモンスターで進化しない時と進化した時の最大レベルまでの経験値が違うみたいな。


「それも含めての検証よ。私が先にやってもいいかしら?」

「もちろん。どちにしろ後で俺もやるしな」

「ならボスのところまで行きましょうが。楽しみだわ。私の魂は、一体どんな世界を見せてくれるのかしら」


 そう言ってニィと笑ったエレノアの顔は、とても凶悪でとても美しかった。




新人類ハイヒューマン

 人間の上位種。器用貧乏と言われがちな人間とは違い、万能になった人間。実は、人類種の中で最も進化が難しい代わりに、進化した際の恩恵がいちばん大きい種族でもある。

 進化条件はレベル100以上尚且つ、心理顕現(悟りを得て魂を世界に顕現させる力)を手に入れること。

 寿命もほぼ不老に近く、古代から生きる者もこの世界には存在している。しかし、大半の場合が人類大陸には居ない。彼らにとって、人の大陸は窮屈すぎるのだ。




 第五階層にやってきた俺とエレノアは、昨日ぶりのボス魔物アルゼンチノルスと対面していた。


 ハローアルゼン君。今日も君の経験値を頂きに来たよ。後、実験台になってくれ。


「まずは少し遊びましょうかね。自分の体がどんな風に動くのか確認しなきゃ」

「油断はするなよ?」

「ふふっ、もちろん。油断はしないわよ」


 エレノアはそういうと、ゆっくりとアルゼン君に向かって歩き始める。


 アルゼン君はエレノアを敵として認識すると、口を大きく開けてブレスの構えを取った。


 そういえば、こいつに攻撃を許したことがないな。


 戦いにおける基本は先手必勝。先に殴って相手に何もさせずに一方的に勝つのが、最も美しい勝ち方である。


 少なくとも、俺達はそう師匠に教わってきた。


「ギェェェェェェ!!」

「来なさい。正面から受けてあげるわ」


 ゴウ!!と放たれるブレス。


 地面を貫通してしまうほどの魔力の塊がエレノアを襲い、凄まじい音を上げる。


 以前ならば、何らかの防御魔術を展開しなければならなかっただろう。しかし、今のエレノアは上位種として生まれ変わったのだ。


「んー、身構える必要すらなかったわね。この程度なら────」


 パァン!!


 いつもの如く、軽快な音と共にブレスが霧散する。


 おいおいマジかよ。エレノアのヤツ、遂にはデコピン一つでパァンできるようになったぞ。


 ゴブリンのような弱い魔物相手ならまだしも、相手は絶望級魔物。それも、渾身のブレスだ。


 それを軽く指を弾いただけ掻き消せるとか、次元があまりにも違いすぎる。


「終わりかしら?なら次は私の番ね」


 刹那。エレノアの姿が掻き消える。


 気づいた時にはアルゼン君の真横にエレノアは立っており、肩をほぐすかのようにグルグルと回していた。


「えい」

「グギェ?!」


 ゴキィ、と、嫌な音が聞こえる。


 うわぁ、あの肉厚な足がどう見ても曲がってはならない方向に曲がってしまっている。


 しかも、腰も入ってないような軽いパンチでへし折れるとかヤバすぎるだろ。


 これは今後の手合わせは気をつけないとな。下手をすると、普通に死ねる。


「かなり強化がされたわね。軽く殴っただけなのに。さて、最後はメインと行きましょう」


 エレノアはそう言うと、倒れ込むアルゼン君に向けて自身の世界を見せつける。


 急激に気配が大きくなり、思わず俺も圧倒されるほどの圧がダンジョンを満たした。


「心理顕現。我、炎の真髄を悟ったもの也」


 それは、エレノアの悟り。


 何となく予想はついていたが、やはりエレノアは炎について何かを悟ったらしい。


 最高にエレノアしてるね。それでこそ俺の相棒だ。


 世界が徐々に姿を見せ始めると同時に、第五階層そのものが燃え始める。


 あ、これはやばい。俺も巻き込まれるし、魔術でどうこうできるレベルを超えている。


 ここから先を見たかったが、これ以上ここにいると俺も死ぬ。


 エレノアのやつ、多分全く手加減してないぞ。俺が逃げられるだろうと分かってるから、一切加減をしてない。


「しゃーない。見たかったけど待避だな」


 俺はそうつぶやくと、転移魔術を行使してダンジョンの外に出る。


 念の為、入口からもある程度離れておこう。加減知らないエレノアは、場合によってはダンジョンの外まで破壊を齎す可能性がある。


 そんなことを思いつつ少し待っていると、ゴゴゴゴゴゴと、不穏な音がダンジョンから聞こえてきた。


 念の為にダンジョンの外に待避して、更にはダンジョンの入口からも離れたというのに........


「第五階層からここまで炎が来るとかマジかよ。えっぐい魂を持ったもんだ」


 俺はそう呟くと、何重にも防御魔術を重ねて入口を塞ぐ。


 流石に外への被害が出るのは不味い。主に、環境破壊的な意味で。


 どれほどの被害になるのか分からないからこそ、俺は防御魔術を張る必要があったのだ。


 そして、エレノアの炎がやってくる。


 ゴォォォォォォオ!!


 魔力防御(炎に対して)一番効果のある魔術を使っていたのだが、なんと一瞬で半数以上の防御魔術が破られた。


 どんな威力をしてたらこうなるんだ?エレノアするにも限度があるだろ。


 これ、一応今の俺が出せる最大レベルの防御魔術なんですけど。


 防御魔術をさらに倍プッシュ。すると、ようやくダンジョンから溢れ出た炎は収まり、静けさが戻ってきた。


「........やりすぎたわ」

「だろうな。やりすぎだ。ダンジョンの外まで炎が来てたぞ」

「ごめんなさい。本気を試したくて........」

「まぁ、俺も後で試すからお互い様さ。もしもの時は逃げてくれよ?」

「そうするわ」


 転移で戻ってきたエレノアは、まさかここまでの威力とは思ってなかったのか少しばかり自分でも驚いた顔をしているのであった。





 後書き。

 人間の進化条件について一つトラップが。

 レベル100だと基本心理顕現を得られないとか言う、クソバグ。誰だよこんな人間作ったやつは。(スキルで取得する(レベル100以下でも)可能性があるからレベル条件がある)

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