何気ない日常


 悪魔の村にやってきてから、一週間が経過した。


 俺とエレノアはこんな短い期間に悟りを得ることなどあるはずもなく、悪魔の村で魔術を教えている。


 最初こそ客人として余所余所しい態度をとっていた村の悪魔たちだったが、俺達が色々な仕事を手伝い魔術のすばらしさを普及するにつれて話しかけられることも多くなった。


 今では、人間の街と同じように気軽に俺達に話しかけてくれる悪魔も多くいる。


 もちろん、レベリングだって怠らない。


 毎日のように草食恐竜が溢れるダンジョンに足を運んでは、滅びの隕石を降らせ続けた。


 多分、あの階層の恐竜達は三桁以上滅んでいる。


 何度でも復活してくれからね。滅んでくれても困りはしない。


 欲を言うなら、もっと早く復活して。絶望級魔物を大量に狩れるダンジョンはあそこしかないんだ。


 ちなみに、デモットは悪魔なので最初から普通に受け入れられている。


 特に子供たちの人気が凄まじく、毎日子供達の遊びに付き合っていた。


 特にナレちゃんがデモットと一緒に居るな。懐いているとかもはや通り越して、あれはちょっと好きになってるレベルだと思う。


 ほかの子供達にデモットが構っていると嫉妬しているし、デモットから全く離れようとしない。


 なんて罪深い男なんだデモット。


 一人の少女を狂わせてしまうなんて。


 そして、ナレちゃんは男を見る目がある。少なくとも、何処ぞの骸骨に恋をする元大公級悪魔よりは。


「おぉ!!できた!!出来ましたよ先生!!」

「お、頑張ったかいがあったな。おめでとう。今日から魔術師とな乗れるぞ」

「やったー!!」


 そんなほのぼのした日常を過ごす中、今日も俺とエレノアは悪魔達に基礎的な魔術を教えていた。


 俺が魔術の素晴らしさを実演しただけあって、今この村では魔術を覚えることがブームとなっている。


 今第一級水魔術水生成クリエイトウォーターを覚えた彼女も、そんなブームに乗っかった一人であった。


「魔術を教わって僅か二日で第一級魔術を習得できるなんてね。やっぱり、悪魔の魔力操作は人類とは比べ物にならないぐらい練度が高いわ」

「そりゃ師匠が警戒するわけだ。デモットとそうだったが、魔術習得のスピードが早すぎる」

「特に、権能が弱い悪魔ほど習得が早かったのは意外ね。微妙に強い権能を持った悪魔ほど、苦戦を強いられているわ」


 喜びながら水を生成しまくる女性の悪魔タルラを横目に、俺達は悪魔達の強さを再確認する。


 そもそもの魔力操作における才能の違いがあるのか、人類種よりも圧倒的に魔術の習得速度が早い。


 そして、エレノアの言う通りとこで使うんだよと思うような弱い権能を持った悪魔ほど習得が早かった。


 タルラはアレックスが言っていた“指先から水をチロチロと出すだけの権能”の持ち主。


 第一級魔術の方が多く水を生成できるのだから、あまりにも可哀想すぎる。


 権能格差がここまで酷いとは。流石に同情してしまうレベルだよ。


「使えない権能ながら色々と試行錯誤したらしいから、それが力になったのかもな。微妙に使える権能に頼るんじゃなくて、そのほかの魔力の使い道とかを考えてたらしいし」

「その中の訓練で身についたものなのかしらね?」

「デモット!!できた!!」

「おぉー!!流石ナレちゃん!!もう第二級魔術を覚えたなんて凄いじゃないか!!」


 大人の悪魔達に魔術を教えていた俺の横で、ナレちゃんが新たな魔術を披露してデモットに褒められる。


 デモットはナレちゃんの頭を優しく撫で、ナレちゃんはそれはもう天使のような笑みで喜んでいた。


 可愛い。


「ふふっ、可愛いわね。デモットに褒められたいがために、こっそり私達に魔術を教えてくれと頼んできた甲斐があったようね」

「滅茶苦茶恐れられてたけどな。デモットぐらい懐かれなくてもいいけど、もう少し心を開いてくれてもいいんじゃないかとは思ってる」

「あら、出会い頭に殺そうとしていたのは私たちよ。それは贅沢な悩みというものだわ」


 確かにそれもそうか。


 俺もエレノアもデモットに止められなければ、普通にナレちゃんを経験にしていただろうからな。


「それにしても、片角の悪魔はほぼ全ての属性を覚えられるのは驚きね。例に漏れず、白と黒の両方を覚えるのは無理みたいだけど」

「権能を持たないってことは、それはつまりどの属性にも染っていない魔力を持っているって事だ。ある意味、俺達人類に1番近い存在と言える。得意苦手はあるようだけど魔術に関しては、片角の悪魔の方が適しているらしい」


 悪魔に魔術を教えて分かったことの1つ。


 片角の悪魔は黒、白魔術を除き全ての属性魔術を覚えることが出来る。


 やはり黒魔術、白魔術はどちらが片方しか使えないらしいが、それ以外の基礎となる四属性そして無属性魔術の全てが使えることが発覚した。


 つまりは、俺やエレノアと同じという事だ。


 片角の悪魔も魔術という手段を持っていたら、街を追放されずに済んだんだろうな。


 そんなことを思っていると、ナレちゃんと同じく片角の悪魔の女性であるエールズさんが俺達に話しかけてきた。


 彼女はほかの悪魔達よりも特に魔術について真剣に学ぼうとしている人であり、かなりの努力家である。


 少なくとも俺が見た限り暇をしている時間は、俺がかつて使っていた魔術基礎の本を思い出して書いたメモをずっと読みながら魔術訓練に取り組んでいた。


「先生、本当にありがとうございます。お陰でもっと村の役に立てますよ」

「エールズさん。第一級魔術は覚えられたか?」

「はい!!これで少しは畑仕事が楽になりそうです!!........あまり大きな声では言えませんが、片角の悪魔はこの村でも肩身が狭いんですよ」

「........そうなの?この村は、そういう差別があるようには見えないけど」


 エレノアが首を傾げる。


 エレノアの言う通り、この村では差別があるとは思えない。


 弱い悪魔が基本的には集まっているし、悪魔の風習に囚われない者達が多く集まっているのだ。


 肩身が狭い思いをする必要がどこにあるというのだろうか。


「差別はありませんよ。この村は本当に優しい村です。ですが、やはり権能を使える悪魔と使えない落ちこぼれではどうしても自分達を比較してしまうのですよ。相手が気にしていなくとも私達が気にしてしまうのです」

「あぁ........そういう肩身が狭いか。分からなくは無いけどね」

「どうしても比較してしまうわよね........気持ちはわかるわ」


 なるほど。気持ちは分かる。


 自分と同期の社員が滅茶苦茶優秀だと、たとえ自分が平均以上でも劣等感が生まれるみたいな。


 あぁ、ちょっと思い出したくない前世を思い出してしまう。


 元気にしてるのかなぁ。同期でキャリアを積んで大企業に行ったアイツは。


「これからは少しでも村の役に立てそうでとっても嬉しいです。ウル村長の為に、頑張ります!!」

「その意気だよ。でも、頑張りすぎないようにね。何事も程々が丁度いいんだよ」

「そうね。最初から全力疾走だと後でバテるわ。程々にしておきなさい」

「はい!!程々に頑張ります!!」


 うーん。不安だ。


 やる気があるのはいいが、そのやる気がから回ってしまわないか心配である。


 こういうタイプは最初だけやる気が続く人と、継続的に続けられる人に別れるのだが彼女はどちらなのだろうか。


「一応、ウルに言っておくか。エールズさんが頑張りすぎないように」

「そうね。その方がいいわ」


 こうして、自分の悟りを探す日々は続く。本当にこんな何気ない日常の中で何かを悟る日が来るのだろうか?


 師匠と同じには成りたくないなぁ。

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