温泉


 楽しい時間とはあっという間に過ぎ去ってしまうものである。


 俺達のパーティーに出席してくれた人達と話しながら上手く場を回していると、あっという間に日が沈み夜が来てしまった。


 料理も殆どなくなってしまい、来客の人々もお腹が満杯になったのか料理には手をつけづ会話を楽しむ。


 となれば、そろそろ温泉にでも入って来客用の家に入ってもらう時間だ。


「はぁー、気持ちいいわねん。こういう機会は中々ないから、心地がいいわん」

「ホッホッホ。老いたジジィには染みるわい。そうは思わんか?グランドマスター」

「あの問題児達の家と聞いた時はどんなやべぇ家なのかと心配したが、割と普通で安心してる。庭にダンジョンがあったのは........まぁ、いつもの事だ。もう気にしてない」


 食事が終わったとなれば、次は温泉。


 マリーや剣聖、グランドマスターはもちろん、今日集まってくれた男連中はみんなこぞって温泉へと入る。


 もちろん、女性は一人もいない。男たちの方が風呂に入る時間が短いはずなので、先に入ってもらうことにした。


「やぁ、どうだい?エレノアが作った温泉は」

「悪くないのぉ。毎日通いたいぐらいじゃ」

「これだけでお金が取れるわねん。旅館でもやってみたらどうかしらん」

「疲れが取れる。仕事できたつもりが、しっかりと楽しんでいるよ」

「それは良かった。と、言うかマリーは男の方で入ってくれたんだな。女性と一緒に入るとか言い出したら、追い出すところだった」

「心は女でも体は男よん?それに、男湯に入れた方がいいじゃないのん。イケおじたちの裸が見られるわん」


 とんでもねぇやつだ。


 見ろよ。隣でくつろいでいた剣聖とグランドマスターがドン引きして少し離れている。


「........手ぇ出したら燃やすからな」

「大丈夫よん。そこら辺の分別は着いているわん。オリハルコン級冒険者になる前は、普通の冒険者だったのよん?裸を見た程度で興奮するほど若くはないのよん。ジークちゃんだって、エレノアちゃんの裸を見た程度じゃ興奮しないでしょう?」

「まぁ、そうだな」


 冒険者になると、いやでも外で一夜を過ごすことがある。


 特に旅をしてきた俺達は、一日の汚れを落とすために水浴びや着替えをするのだ。


 そして、その際に異性の目を気にする事はない。


 最初こそ俺もエレノアも多少意識してしまっていただろうが、そんな暇があるならさっさと着替えて体を休めたり周囲の警戒に時間を使うべきなのだ。


 これは俺達だけに言える話ではなく冒険者全般に言える話であり、例え相手のことをどれだけ思っていようが仕事中に発情したりする事は殆どない。


 冒険者はそこら辺の切り替えをしっかりとしないと死ねる職業なのだ。


 そして、ベテランになればなるほど、職業病が出て異性の裸を見たとしても興奮することがなくなってくる。


 もう6年以上も冒険者をしている俺とエレノアも、下着姿で水浴びとかしていても特に興奮とかはしなかった。


 多分、そういう雰囲気にならないと無理なんじゃないかな。冒険者とは大変な生き物だ。


「あー、あるよな。冒険者特有の職業病。常に周囲を警戒したりとか、魔物と戦う際にどうしても素材の場所は傷つけないようにとか考えちまうのも職業病だ。引退してグランドマスターとなった今でも、その癖が治らないんだから大変だぜ」

「ホッホッホ。儂も似たようなことがあるのぉ。何せ、酒を飲んで酔っ払っていても周囲への警戒を怠れん。冒険者とは常に警戒を続ける生き物じゃろうて。睡眠も浅いしの」

「分かるわん。寝ている時に大きな気配を感じると目覚めてしまうわよん。大変よねぇ........ゆっくり寝たい時ですら起きてしまうから、この体に染み込んだ週間とは恐ろしいものだわん」

「全くだ」


 俺はその後、ビル爺(親父の父)やブルテンお爺さん(お袋の父)とも色々と話をしながら、のんびりと温泉を楽しむのであった。


 親父がブルテンお爺さんに背中を流され、ガチガチに固まっていた姿を見るのは面白かったね。


 なんと言うか、底知れない圧を感じたよ。




【メイドちゃん、執事君】

 天使ちゃんと悪魔くんのメイド&執事バージョン。基本性能はほぼ同じだが、掃除や庭の管理のために使える魔術が少しだけ違っていたりする。

 普段は悪ノリが多い悪魔くんだが、執事となったことでちゃんと真面目キャラを演じる有能ぶり。メイドちゃんは割といつも通り。どっちも可愛い。




 男達が温泉から上がり、次は女性陣が温泉へとはいる。


 体を洗い、温泉へと入ったエレノアはゆっくりと体を休めながらワイワイと騒ぐ客人たちを眺めていた。


「ホッホッホ。こんなにも可愛く優しい伴侶があのバカ息子にできるとはねぇ。こんなにも年老いたババァで申し訳ないよ」

「いえいえ。そんなことはありませんよ義母様おかあさま。十分可愛らしく美しいではないですか。人の美しさとは、何も見た目だけが全てでは無いのですよ」


 デッセンの母、アン婆と話すシャルル。


 流石に義理の母相手をもみくちゃに可愛がるのは躊躇われたのか、普段のように抱きついたりはしていない。


 シャルルは見た目で人を判断しない。その心が綺麗であれば“可愛い”と言って可愛がるのだ。


 でなければ、見た目がお世辞にも可愛いとは言えない飛蝗族のギルドマスター相手に“可愛い可愛い”と言いながら全力で頭を撫でるわけも無い。


 もちろん、見た目が可愛い子も可愛がるが。


「シャルルちゃんのご家族は凄いねぇ。美人さんばかりな上に、公爵家のご令嬢。家のバカ息子はとんでもない宝石を見つけたのだねぇ」

「ふふふ、そんなことはありませんよ。冒険者になりたいと我儘を押し通し、家でをしたドラ娘ですから。それに、宝石を見つけたのは私の方ですよ。デッセンは私を第一に考えてくれて、何より私を大切に思ってくれていますから」

「ホッホッホ!!久々に会ったバカ息子があれほどまでに丸くなっているとは思わなかったよ。歳は取るもんだねぇ。こんな年になった今でも、子供の成長を感じるのだからね」

「分かります。ジークも少し見ない間に成長していますからね。エレノアちゃんも。そうだ。明日はデッセンの料理を食べてみませんか?ジークにお願いすれば、多分準備してくれますよ。というか、準備させます」

「ホッホッホ!!それは楽しみだねぇ!!息子の手料理なんて、今の今まで食べたことなどなかったからね。孫の手料理の方が先に食べたぐらいだ。楽しみにしておくかね」


 その会話を聞いていたエレノアは、ジークに伝えておこうと思うと隣にシャーリーが入ってくる。


 エレノアは何も言わずにシャーリーにもたれ掛かると、静かに呟いた。


「ごめんなさい。シャーリー。あなたの綺麗な身体が........」

「お気になさらず。お嬢様。この傷跡は私の名誉なのですから。むしろ、“よくやってくれた”と褒めて欲しいです」


 シャーリーの体には、見ていて痛ましい程の傷跡がいくつも残っている。


 この傷は、おそらく拷問された時にできた傷なのだろう。


 エレノアは心の奥底で静かな殺意を持ちながら、シャーリーのため、両親のために必ず祖父母を殺すことを決意する。


 愛した両親を殺した祖父母。叔父はともかく、あの二人だけは確実に殺す。


「ありがとうシャーリー」

「ふふっ、いいのですよ。私はジーク様と仲良くしているお嬢様を見るのが嬉しいのです。それだけで、この傷に意味はあったと思いますよ」

「そう。それは良かったわ」


 エレノアはそう言うと“次はジークと一緒に温泉に入りたいな”と思いつつ、なんとも言えない恥ずかしさを紛らわす為にプクプクと湯船に泡を浮かべるのであった。




 後書き。

 ジークはレベリング中毒者で性欲が薄め+職業病。エレノアは裸よりも匂い派。

 多分、一番ジークとエレノアの裸を見て興奮しているのは天使ちゃん。天使ちゃん(メイドちゃん)はむっつりすけべ。

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