新居(来客用)


 師匠にお前は馬鹿だと言われ、俺の魔術研究のやり方が一般的ではなかったことを知らされてから1週間。


 そろそろ頼んでいたもう1つの家も完成している頃なのではないかという事で、俺とエレノアは竜のダンジョンのある国にして、一番近い街アブサル帝国フラルの街へとやってきていた。


 相も変わらず平和でのどかなこの国に、俺とエレノアの家がある。


 エルフ国にいた時はリエリーの家にお邪魔していたし、今は実家に泊まっているので殆ど使っていない家ではあるが管理だけはしっかりとしていた。


 最初は天使ちゃんと堕天使くんを配置しておいたのだが、どうせならもっと家を管理する人にふさわしい感じにしようという事で形を色々と弄った結果、メイドちゃんと執事くんが誕生。


 できる限り人に近づけて作ったメイドちゃん達は、今日も家の管理をするために掃除や草取りを頑張ってくれている。


「久しぶりだな。正直、戻ってくるとは思ってなかった」

「酷いじゃないかギルドマスター。ブラックドラゴンの肉を食べあった仲だって言うのに」

「そうね。酷すぎるわ。悲しさのあまりないてしまいそう」


 久々に会ったのは、フラルの街のギルドマスター。


 亜人種飛蝗族のかなり珍しいとされる亜人であり、この街の人々に愛されている人である。


 その某仮面を被ったライダーのような見た目こそ少し圧を感じるが、“自分は怖くなかったかな?大丈夫だったかな?”と、裏では頭を抱えながら可愛らしい口調で話す人なのだ。


 泣き真似をするエレノアと、少ししゅんとして俺を見て、今もちょっと焦ってるしな。


 お袋が見たら滅茶苦茶可愛がりそうなタイプの人である。


「それで、家はできたの?」

「もちろんだ。また設置しに行くのだろう?計測や設置に必要な知識がいるから、また私達もついて行かせてもらう。家がしっかりと建てられた姿を見るまでは、私達の仕事だ」

「もちろん。俺も頼もうと思っていたところだし助かるよ。それが終わったらまたブラックドラゴンのお肉でも食べる?」

「いや、あの肉があまりにも美味すぎて、暫くほかの肉が食えなかった。出来ればオーク肉とか一般的な肉の方が有難いかも........」


 少し申し訳なさそうに下を向きながらそういうギルドマスター。


 確かにそれは分かる。俺達は色々な肉や食べ物を味わってきたが、舌が肥えということは無いものの、くっそ美味いものを食べた後に屋台の串焼きとかは正直物足りなさを感じることもあった。


 俺とエレノアは深く頷くと、ギルドマスターの言葉に同意する。


「あー、一度舌が肥えるとほかのものがあまり美味しく感じないとは言うものね。確かに分からなくはないわ」

「分かる。一日二日はその味を思い出しちゃって物足りなくなるよな。分かった。ちょっとグレードを落として、レッサーワイバーンの肉にしよう。あれも美味しいには美味しいけど、ブラックドラゴンとかと比べると劣るしな」

「すまない。2人の善意を無駄にしてしまって」

「いいよいいよ。気にしてないから。そんなことまで気にしていたら、旅なんてできないよ」

「全くね。その中、助けて貰っておきながら“ありがとう”の一言も言えないような輩がわんさかいるのよ?ギルドマスターは全然優しい方よ。優しすぎて心配なぐらいだわ」


 本当にギルドマスターはこういう所が真面目だな。


 真面目すぎて疲れちゃうよ。でも、その性格があるからこそ、街の人々に愛されているかもしれない。


「ありがとう。そう言ってくれると気が楽になるよ。ところで、アークヴの国へ行くと聞いたが、エルフ達との衝突とかはなかったのか?」

「リエリーが居たから問題なかったわ。エルフ種唯一のオリハルコン級冒険者の人気は凄まじいわね。それに、長老会に殴り込みに行ったらしいわよ?」

「なんか暴れたとは言ってたな。特には問題なかったけど、1回長老の1人に絡まれたぐらいか。あれは楽しかった」

「た、楽しかった?」

「エルフとバチバチにやり合ったりするのかなーと思っていたら、全くそんなことも無く平和だったからね。一人ぐらいあぁいう馬鹿が出てきてくれた方が、旅として面白いじゃないか。ちなみに、その長老は気絶させて長老会に“おいコラお宅の馬鹿が絡んできたんだが、どないなってんねん”って圧を掛けて長老会から追い出したぞ」

「今頃は権力を無くして困っているでしょうね。生まれてこの方権力の味わいを知っていたのだから」


 権力の味を知ると戻れなくなると言うし、俺達も本当に気をつけなければいけない。


 もちろん、時として権力の行使は必要だ。が、乱用しまくって権力の上で胡座をかくのは自分をダメにする。


 立場上、偉ぶる時も必要だが、それ以上に自分達はただの人間という事を理解しておかないとな。


 明日は我が身。ちゃんと使い所を理解して、権力をチラつかせながら街を歩くようなまねはしてはならない。


 俺達のエルフの国での話を聞いたギルドマスターは、若干引き気味になりつつもゆっくりと頷く。


「そ、そうか。そのエルフも馬鹿な真似をしたのだな」

「ちゃんと冒険者ギルドに許可を取ってからダンジョンに潜ったって言うのに、“エルフの神聖なる場所に潜るな!!”って難癖をつけてきて手まで出してきたんだから当たり前だよ。言うだけならまだしも、手を出すのはねぇ?」

「そうね。流石に一線を超えていたわ」

「馬鹿なエルフも居たものだな。っと、着いたぞ。ここが頼まれていた家だ。こちらは東にある国のような家ではなく、世界各地で使われているような一般的な家で問題ないとの事だったから、こんな感じになってしまったが良かったか?」


 ギルドマスターと話しながら歩いていると、俺達の家(来客用)が見えてくる。


 でっか。家というか、最早お屋敷だな。これ程にまで大きな家を設置するとなると、相当な広さを確保しなければならない。


 まずは魔術で周辺の木々を切って整地しないとな。真隣に立てるつもりは無いから、少し離れた場所に立てるとしよう。


 と言うか、これをたったの三ヶ月で作り上げられるってギルドマスターは本当に建築に関してはすごいんだな。


 毎度思うが、なんでこの人ギルドマスターなんてやっているんだろうか。建築一筋でも全然食っていけると思うんだよ。


「不満な点や気になる点があれば、今すぐに直そう。小さな部分であれば直せるのでな」

「いや、文句の付けようがないぐらい素晴らしい家だよ。うわっ、見ろよエレノア。こんな小さな装飾までされてるぞ」

「本当ね。細かい装飾だわ。しかも、しっかりと丁寧に作られたのが素人目にも分かるわね。たった三ヶ月でこれを作り上げられるなんて、ギルドマスターとそのお仲間達は凄いわ」

「ふふっ、楽しそうだな」


 しばらく外を見て回った後、次は中を見て回る。


 内装も滅茶苦茶しっかりとされており、文句をつけたくても付けれない程には完璧であった。


 一階は大きな広場のような場所となっており、料理場やその他必要な施設が備わっている。そして二階からは個室となっていて、一人部屋から4人部屋までしっかりと作り込まれていた。


 ちなみに、三階建てなのでくっそ広い。メイドちゃんと執事君をもう1人ずつ増やさないと管理が大変そうかもしれんな。


「ありがとうギルドマスター。これは追加で料金を払っておくよ」

「そうね。その方がいいわ」

「いや、予算内に全て収まっているから問題ない。私たちへの報酬も受け取っているしな」

「いや、それとは別に感謝料みたいなものだよ。俺達はそれだけ満足しているんだって言う感謝の現れさ。やっぱりブラックドラゴンを出そうかな........?」


 こうして、俺はギルドマスターとそのお仲間の人たちにチップを払うと、家を設置して我が家が完成した。


 あとは、温泉回りとか庭の整備とかすれば完璧かな。ベッドとかの家具は既に揃えてあるから設置するだけでいいし。


 両親には準備で1週間ほどは帰らないと言っているし、その間に満足いくように頑張るとするか。

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