フラン叔母さん
お袋がまさかの公爵家の娘だったと言う話を聞き、驚きを隠せないながらも俺達は屋敷の庭を歩いていく。
門番とのやり取りは凄まじく穏便で、お袋がアステル公爵家の者と分かる首飾りを見せると、あっという間に通してくれた。
もちろん、その客人である俺達も。
門番をしていた騎士はそこそこ強いな。金級からミスリル級冒険者ぐらいの強さがある。
様々な国を巡ってきたからわかるが、金級冒険者以上の実力を持つ者になるとガクッと数が減るのだ。
その数少ない貴重な戦力を門番として使えるところを見るに、この公爵家はそれなりの戦力を持っているのかもしれない。
まぁ、残念な事にオリハルコン級冒険者1人で全てを賄えてしまえる程度ではあるのだが。
たった一人で国のパワーバランスをぶっ壊す存在がオリハルコン級冒険者だ。前世とは違い、個が軍を圧倒できてしまうのがこの世界なのである。
そう考えると、実力がオリハルコン級冒険者と同等と噂されているジュラール帝国の剣帝と魔帝が居るあの国の戦力は大国としてふさわしいよな。
戦ったことも見たもこもないから、なんとも言えないけども。
そんなことを思いながら、昔を懐かしみつつ庭を歩くお袋の後ろを着いていく。
そして、しばらく歩くと庭の管理をしているであろう麦わら帽子を被った1人の女性が見えてきた。
白いワンピースに身を包みながらどこか気品を感じるその女性は、庭の手入れに集中しているのか俺達には気づかない。
そんな彼女に、お袋は声をかけた。
「相変わらず1人でこの庭の管理をしているのですか?」
「ん、そうだよ。だって他の人には任せられないじゃん。前にも雇ったことはあったんだけど、私のこだわりを理解してくれなくて辞めちゃったよ」
「貴方が凝り性なんですよフランお姉様。そんなんだから未だに結婚出来ないのでは?」
「はー?失礼な。そんな口を聞く子........」
振り返ると、誰がどう見ても俺のお袋の姉には見えないほどに美人な女性が現れる。
お袋よりも黒みがかった赤いショートボブな髪が揺れ、背の低い少女のような人である。
え、これが姉?妹じゃなくて?
「どうやら母さんが突然変異した訳じゃなくて、この家族全員が特殊なようだな」
「らしいわね。全世界の女性が羨む家系だわ。だってこの方がシャルルさんのお姉様なのでしょう?どう見ても妹にしか見えないわよ」
お袋よりも年齢が行っていると考えると、最低でも30代後半。
少し年齢が高めならば、四十代に当たるはず。
なのに見た目はリエリーと同じように、10歳過ぎの少女にしか見えない。
頭がバグりそう。これがお袋の妹とか信じられないよ。
やはり、俺が全く成長しなかったのはお袋の血筋のせいか。もう諦めてはいるし、エレノアの抱き枕になるのも悪くないとすら思っているから大きくカッコよくなりたいとは思わないが。
フランと呼ばれたお袋の姉は、お袋を見て数秒固まった後涙を浮かべながらお袋に抱きつく。
その姿は、姉に甘える妹にしか見えなかった。
「シャルルちゃーん!!帰ってきたんだね!!」
「長い間帰って来ず申し訳ありません、フランお姉様。本当は結婚する前に1度帰るつもりだったのですが、どうしても面倒くさくて」
「うわーん!!シャルルちゃんだ!!相変わらず可愛いシャルルちゃんだー!!」
「お、落ち着いてくださいフランお姉様」
フラン叔母さんに抱きつかれ、どうしたらいいか分からずうろたえるお袋。
こんなお袋は初めて見た。いつも堂々としているあのお袋が、自分の姉にどう対応したらいいのか分からずに困り果てている。
「ふふっ、この家に帰れば、シャルルさんも1人の家族なのかしらね?旅から帰ってきたジークと同じように見えるわ」
「そうか?いや、シャーリーさんと出会ったときのエレノアもこんな感じだったし、そんなもんか」
「シャルルちゃん!!シャルルちゃん!!」
「フランお姉様?そろそろ離してください。苦しいですから」
何気に敬語を使っているお袋を見たのは初めてかも。俺はそんなどうでもいいことを思いながら、家族の再会を邪魔したりはしない。
俺ももう少し帰る頻度を上げようかな。半年に1度ぐらいは、顔を見せてやった方がいい気がしてきた。
親孝行しておくべきだよな。見た目が変わらないとは言えど、人は歳をとる。
俺達のように寿命という概念を捨て去ってしまったならばともかく、両親の寿命は有限なのだ。
「シャルルちゃん、全然昔と変わってないね。むかしのあの可愛いままだよ。可愛い可愛いすっごく可愛い。やっぱり私の妹は世界一だぁ........」
「フランお姉様、息子が見ていますのでその辺で........」
可愛いを連呼しながらお袋をこれでもかと可愛がるフラン叔母さんと、頭を撫でられる事が嬉しくありつつも母として折れてはならいと思い威厳を保つお袋。
もしかしなくとも、このフラン叔母さんはとんでもないシスコンなのでは無いだろうか。
もうずっとベッタリくっついてるぞ。
「息子?あ、そう言えば手紙が来た時に子どもが出来たって言ってた!!デッセン........だったかな?っていう旦那様と幸せに暮らしてるって!!この2人がシャルルちゃんの子供なの?」
「実の息子と、娘のように可愛がっている息子のパーティーメンバーです。ジーク、自己紹介をしなさい」
「シャルルの息子にして、オリハルコン級冒険者“天魔”ジークです。よろしくお願いします」
「シャルルさんにはお世話になっております。オリハルコン級冒険者“炎魔”エレノアです。よろしくお願いします」
お袋に自己紹介を促され、ぺこりと頭を下げる俺達。
すると、フラン叔母さんは目をキラキラと輝かせながら俺達の近くに寄ってくるとそのまま抱きついた。
抱きつく癖でもあるのかこの人は。
「可愛い!!すっごく可愛い!!って事は、私は叔母様になるって事よね?なら、フラン叔母さんと呼びなさい!!何か困ったことがあったら言ってね。アルテル公爵家が解決してあげるから!!」
「は、はい。ありがとうございます。フラン叔母さん」
「ありがとうございます。フラン叔母様」
「はぁー!!可愛い!!シャルル!!なんて可愛い子を産んだの?!ジーク君もエレノアちゃんもすっごく可愛くて我慢できないよ!!」
「はぁ........これだから帰ってきたくなかったのよ。フランお姉様はこんなんだし、私の家族はみんなこんな感じなんだから........」
俺達がオリハルコン級冒険者だとか言う自己紹介は全無視して、とにかく俺達を“可愛い”と言いながら撫で回すフラン叔母さん。
うーん。血筋。
エレノアを可愛がるお袋は、いつもこんな感じだったよ。流石にここまで酷くは無いが、目の輝き方とか頭のなで方とかこんな感じだった気がする。
正直、親父の家族の方が落ち着くな。これはこれで楽しいっちゃ、楽しいけども。
お袋も大暴走するフラン叔母さんに頭を抱えており、普段からこんな感じだったのだろう。
「フランお姉様。そろそろ正気に戻ってください。お父様やお母様、それにお姉様やお兄様はどうしていますか?」
「ガルエルお姉様なら、いつも通りだよ。訓練場にいる。お父様とお母様なら今頃執務室にいるんじゃないかな?ここ暫くは家にいるって言ってたし。リルトは今街に出て人々との交流を深めてるよ。もうそろそろお父様もう引退する時期だから、リルトも張り切ってるね」
「なるほど。では、まずお父様とお母様に会いに行きましょう。ですから、フランお姉様、二人を離してやってください」
「やだ!!もう少し可愛がりたい!!」
こうして、俺とエレノアは叔母に当たるフラン叔母さんに後五分ほど可愛がられるのであった。
いい人だとは思うんだが、キャラが濃い。そして、見た目がバグってるから頭がおかしくなりそうだ。これでお袋の姉とかなんの冗談だ?
後書き。
人類のバグ、その1
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