世界樹の頂


 精霊王からの加護を攻略の報酬として受け取った俺達は、アートに魔術を教えてあげていた。


 精霊は人類とは全く異なる種族であり、人の見た目をしていたとしても体の構造から魔力の質まで違っている。


 人がヒーヒー言いながら習得する魔術を、精霊はいとも容易く習得できてしまうのだ。


 魔術の基礎を教え、どのように魔術を行使するのかを少し教えればあっという間にものを覚えて実行できてしまう。


 精霊は好き好んで魔術を覚えないと言うだけであって、魔術まで覚え始めたら滅茶苦茶強くなりそうだな。


 おそらくだが、精霊王も魔術はある程度習得してそうだし。


 そんなことを思いながら教え続けること2時間。無事にアートは転移魔術を覚え、次いでに闇狼の魔術も覚えることが出来た。


 もちろん自己判断能力付きの自我が芽生えているタイプの闇狼である。これで少しは、寂しさを紛らわせられるだろう。


「本当にありがとう!!これで数万年は退屈せずに済みそうだよ!!僕も色々と魔術をいじれるようになったしね!!」

「それは良かった。それにしても、精霊は凄いんだな。人類が習得する事は困難とされている第九級魔術ですらあっという間に覚えるんだから。改めて、精霊が人とは全く違う存在だと認識させられたよ」

「私も一緒になって覚えてみたが、難しかったぞ!!私が習得するには後十年はかかるな!!魔力操作が複雑すぎる!!こんなものをよく2人はポンポン使えるなー」

「私はあまり使わないわよ。補助系統の魔術はどうしても苦手だからね。それでも、利便性に負けて意地でも覚えたわ。お陰で、海神のダンジョンではジークを落ち着かせられたもの」


 あぁ、そう言えば放置狩りできないことにキレてぶつくさ文句を言ってたな。


 この精霊の墓場たる世界樹のダンジョンですら、放置狩りはできるというのに。


 アートに魔術を教えている時にリエリーがこっそり教えてくれたのだが、精霊とはできる限り仲良くしておいた方がいいらしい。


 精霊は基本的に優しくあまり争いを好まない傾向にあるが、一度怒らせるとずっと粘着して嫌がらせをしてくるそうだ。


 火を起こした傍から消したり、魔物を追い立ててモンスタートレインをしてきたり。


 滅多なことでは精霊は怒らないが、間違っても怒らせてはならない存在なんだとか。


 逆に、仲良くしていると恩恵もある。近くの精霊に頼み事をすると聞いてくれやすくなるし、一緒に戦ってくれることもある。


 精霊術を使う際は、精霊との仲の良さというのも必要不可欠なんだとか。


 そして、精霊は噂話が広まるのが早い。


 姿こそ見れないが感知してジェスチャーによる会話ができる(らしい)俺達は、頑張れば精霊の力を借りられるかもしれないんだとか。


 ワンチャン精霊狩りとかしてみたがったが、流石に毎度毎度嫌がらせされるのは困るな。


 火を起こせない。寝ている時に無理やり起こされる。魔物を持ってきてくれるのは神だが、それだってそもそも頼めばいいだけの話。


 そして、上位精霊レベルでないとそこまで経験値が美味しくない。


 なら態々敵対しなくて良くね?となるのだ。


 後、今の俺達だと精霊王には勝てないだろうしな。


 という訳で、全ての部屋に悪魔くんを設置して、自動で浄化してくれるシステムを作ってあげた。


 アート君も“これで堕落した精霊達が苦しまずに済みます”と喜んでいたし、精霊王も文句入ってこないだろう。


 ナイスリエリー。やっぱりリエリーは魔術実験をどこでもしたがると言う問題点さえなければ、優しくて可愛い子である。


「そうだ、アート。俺達、世界樹のてっぺんに昇ってみたいんだが、それはいいのか?なにか失礼になったりとかする?」

「そんなことありませんよ。むしろ、世界樹も感謝していると思いますよ。堕落した精霊の邪気は世界樹にとって毒ですしね。まぁ、お酒を飲んだ程度ぐらいな気分でしょうが。皆さんはもうどこかへ行かれるのですか?」

「いや、もう暫くは狩りをしようかなと。まだまだかなりの数の精霊がやってくるしな。もうちょっと味がしなくなったら移動するよ」

「本当ですか!!やったー!!話し相手ができて嬉しいですよ!!」


 両手を上げて、満面の笑みで喜ぶアート。


 その姿は、御伽噺に出てくるような威厳のある精霊とはとても思えなかった。


 本当にぼっちが寂しかったんだろうな。この広い花畑の中で、体育座りしながら寝ていただけの事はある。


「では早速行きましょう!!何万年ぶりの外だろうなー!!エルフの国がどうなっているのかも分からないんですよね」

「きっと何もかもが新鮮に映るだろうよ。ところで、なんで透明になってるの?」


 外に出るとなったアートはなぜが姿を消していた。


 上位精霊ともなると、人前に現れるかどうかは自由自在に決められるらしい。


 透明な気配が動き、手振りからして何か話しているのは分かるのだが声が聞こえない。


 今後、精霊を見つけた時はこんな感じに見えるんだな。


 なんて話しているのか分からず少し困っていると、リエリーが翻訳をしてくれる。


 そうだった。リエリーはスキルで精霊を見ることが出来たんだな。


「精霊のルールとして、人前に現れるのを禁止されているそうだ。このダンジョンの中は例外だったらしいな」

「なるほど。精霊の掟も中々に面倒なんだな。転移で外に出られるからって、調子に乗って姿を消すのを忘れるなよ?精霊王に“今後魔術を使うの禁止!!”とか言われたらせっかく教えたのが無駄になっちまう」

「それだけは気をつけなくては!!だってさ。アートも大変だなー。私は精霊として生きていける自信がないぞ」

「俺もだ。絶対ルールを破る自信がある」

「私も無理ね。人としての価値観を持っている私たちでは、到底理解できない世界よ」


 精霊と人類。


 この二種族が分かり合う日は永遠に来ないのだろう。


 俺達は転移でダンジョンの外に戻る。


 すると、その景色は以前とまるで違っていた。


 あちこちに精霊の気配が見えるし、みんな楽しそうにフラフラと飛んでいる。


 リエリーはこんな景色を見ていたんだな。これよりももっと鮮明で、もっと賑やかな声が多く聞こえているに違いない。


「世界の全てが変わった感覚だな。まぁ、少し見えるようになっただけで、何も変わってないんだけど」

「面白い目を貰ったわね。これ、剥奪とかあるのかしら?」

「加護に剥奪なんてあったら今頃ハイエルフはこの世界から消えているぞー!!たとえ精霊王に謀反を起こしたとしても、その加護が消えることは無いから安心するといい!!少なくとも、歴史上ハイエルフからエルフに戻ったという話は聞かないなー」

「へぇ。なら、もっと強くなってから精霊王と戦ってみたいな。俺より強いやつに会いに行く。それが今の旅のスタンスだし」


 さすがに殺す気は無いけど。殺してしまったら、多分世界の均衡が崩れる。


 王が死ねば新たな王が生まれるが、それでも国はぐらつくという物。


 俺は別に世界を滅ぼしたい訳では無いので、戦うとしても殺し合うことは無いだろう。


 あくまでも俺の方が強いというのを証明したいだけ。放置ゲー理論を持ってして、世界最強になるのが俺の目標であり現在の終着点なのだ。


 経験値?ダンジョン君が吐き出してくれる。もっとだせ。


「アートも楽しそうだなー。ほかの精霊達は上位精霊が急に現れて驚いてるみたいだ........ん?風の精霊に頼んで世界樹の上に登らせてくれる?助かるぞー!!」


 こうして、俺達はダンジョンの形をした精霊の墓場の攻略を終え、ちょっとしたおまけの力を貰うのであった。


 そして、世界樹から見た景色は滅茶苦茶綺麗だった。酸素があまりにも薄すぎて、途中で慌てて魔術を使ったが。


 この景色は生涯忘れることは無いだろう。また見に来てもいいかもな。




 後書き

 Q.ハイハーフエルフ(混血種)はすでに進化している状態なの?進化はするの?

 A.進化します。ハーフの人類の事を纏めて混血種と呼び、元となった種族の進化条件を両方満たすと上位混血種となります。

 エレノアの場合は既にハイエルフの血が入っているので、後は人間の進化条件を満たすのみ。

 ちなみに、混血種は進化条件がクソ厳しい代わりに元となった種族のいいとこ取りをしている為、純種よりも強い事が多いです。偶に両方デメリットを引く人もいるけど。

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