愛されギルドマスター


 飛蝗人と呼ばれる亜人のギルドマスター(女性)に出会い、結構チョロい人なんだと思っていたが彼女はさっさと他の冒険者に俺達の面倒を押し付けて2階へと戻ってしまった。


 ギルドマスターともう少し話したかったが、ギルドマスターって結構大変な役職だから仕事も多いんだろうな。


 そんなことを思いつつ俺は、苦笑いをうかべる人間の冒険者フリックに挨拶をする。


「よろしく。暫くは世話になると思うよ」

「かの有名な天魔と炎魔に出会えて光栄だ。ギルドマスターについては........まぁ温かく見守ってやってくれ。あの人、いい人ではあるんだが、どうも自分の見た目が子供を怖がらせていると思っている節があってな。ほら、飛蝗人は見た目が特徴的だろ?」

「そうだね。でも、大事なのは中身じゃないの?」

「中身が良くても見た目が怖けりゃ恐れられもんだ。昔、旅をしていたらしいんだがどうも色々とあったらしくてな。今頃は天魔さん達を怖がらせてないか自分の対応は間違って無かったか振り返っているだろうぜ」


 亜人種にも色々とあるんだな。俺達は基本見た目で人を判断しないように心掛けているが、世界中の人類が同じ考えを持っている訳では無い。


 差別が酷い国も多くあるし、多くの経験をしてきたのだろう。


 俺やエレノアが、少しでもその経験の克服を手伝えるようにするのもいいかもしれないな。結構いい人っぽいし。


「ギルドマスター、あまり強そうじゃなかっただろ?」

「........そうね。お世辞にも強そうには見えなかったわ」

「まぁ、そうだな」

「実際そこまで強くない。せいぜい金級冒険者程度の実力なんだが、その性格の良さでこのギルドマスターの椅子に座ってるんだ。みんなあの人が大好きだよ。実際に中身に惚れてアプローチする男も多いしな。自己評価が低すぎてからかわれていると思ってるっぽいが。だから........その、なんだ。出来れば仲良くしてやってくれ」

「言われずともそうするよ。むしろ、みんなが俺達のことを嫌わないで欲しいとすら思ってる。俺達は、何かと変な噂が耐えないオリハルコン級冒険者だからな」

「そうね。出来れば私達が冒険者ギルドに立寄る度に嫌な顔をしないことを祈るわ」

「ハハッ!!そんなことはないだろうよ!!マリーさんの様に男漁りとかするんなら別だけどな!!」


 マリー、大人しくしてたんだと思ったが違うなこれは。


 どんな街でもブレないとは、流石はマリーである。あのメンタルだけは見習いたいね。


 それにしても、この街のギルドマスターはかなり街の人たちに愛されているらしい。


 本当に心から優しい人なんだろうな。口調は男っぽかったが。


「意外と面白い街だな」

「そうね。いい街に来たと思うわよ。それに、男性から本気のアプローチを貰えるなんて凄いじゃない。どこぞの婚期を逃したギルドマスターが聞いたら咽び泣きそうだわ」


 あぁ、帝国のダンジョンに居たあのギルドマスターね。


 見た目は相当な美人なのだが、中身がポンコツで残念なあの。


 あの人はあの人で冒険者たちから愛されてそうではある。残念ながら、恋愛対象にはされないだろうが。


「ギルドマスターも様々って事だ。婚期を逃すやつもいれば、アプローチを貰うギルドマスターも居るって事で」

「ふふっ、そうね」


 エレノアは、静かに微笑みながら頷く。


 様々な国のギルドマスターを見てきたが、こんなにも冒険者から愛されているギルドマスターもそうはいない。


 この街は居心地が良さそうだな。


 そんなことを思っていると、フリックが話しかけてくる。


「それで、何か聞きたいことはあるか?どうせ竜のダンジョンに挑みに来たんだろ?オリハルコン級冒険者様がここに来る時の目的なんて、それぐらいしか考えられないし」

「それもそうだけど、家を建てる専門家みたいな人っている?家の建て方を知りたいんだけど」

「........は?家?」


 竜のダンジョンの話をする気満々だったフリックは、出鼻をくじかれて目を丸くする。


 まだこの街に来て一日も経っていないが、この街はかなり人が温かく心地の良い場所だ。


 その街の近くに家を建てるのもありだし、何より家の建て自体は聞いておきたい。


 そんな訳で俺は先ず、建築に詳しい人を探すことにしたのだ。


 ダンジョンも大事だが、休む場所も大事。何より、エレノアが結構マイホームを楽しみにしている節があるので、あまり時間を掛けすぎると暴走する可能性もある。


 この前、寝言で“ジークと同棲........ふふっ”とか言ってたしな。相棒の願い事は早めに叶えてやらないとね。


「オリハルコン級冒険者ってのは分からんな........なら、ギルドマスターに聞くのが早いぞ。何せ、あの人は冒険者でありながら建築家だからな。旅をしていた理由も、様々な国の建築物を見て見聞を広めるためだったらしいし」

「え、あのギルドマスターが建築家なのか?イメージだけで言うと、ドワーフなんかがやってそうなんだが........」

「俺の家はギルドマスターとその仲間達が建ててくれたぞ。他にも多くの人が家の改築や修理をギルドマスターにお願いしているほどだぜ。な?みんな」


 フリックがギルドに居た冒険者達にそう言うと、ギルドにいた冒険者達全員が頷く。


 へぇ、見聞を広めるために旅をしていたのか。冒険者となったのは、路銀稼ぎのためなんだろうな。


 ギルドマスターと言えば、ベテラン冒険者が引退してからなるものだと思っていたがどうやらこの街のギルドマスターは随分と面白い経歴の持ち主らしい。


 しかも、冒険者たちの反応を見るにかなりの腕前なのだろう。


「建築家のギルドマスター。面白い人も居たものだな」

「そうね。冒険者になる理由は様々なだけど、建築家でありながらギルドマスターになったという人は聞かないわね」

「ねぇ、フリック。ギルドマスターは忙しいかな?」

「いや?割と暇してると思うぞ。あの人、暇さえあれば建築の事しか考えてないような人だから、今から部屋に突撃してくるといい。どうせ今は反省会してるだろうから、ノックもせずに扉を開けたら面白いものが見れるだろうな」


 そう言いながらニヤニヤとするフリックと、冒険者達。


 君達、もしかしなくても今から俺達の後を着いてくる気でしょ。


 1人反省会をしているギルドマスターの様子を見たくて。


「天魔様、炎魔様。ギルドマスターの部屋までご案内致します。ご安心ください。飛蝗人の聴力は人とそう変わりありませんので、忍び足で階段を登ればバレませんよ。実力もそこまでありませんので、気配も軽く消すだけでバレないかと」

「ターナさん?何故そんなに目を輝かせてるのかな?一応貴方の上司でしょうに」

「ふふふっ、1人反省会ををしている時のギルドマスターはとても可愛いんですよ。“あーすれば良かった、こーすれば良かった”と1人で頭を抱えながら呟いてますからね。その気の緩んだ瞬間にドーンと部屋に入ると、お顔を真っ赤にしながら慌てます。私が受付嬢として働く理由の一つです」


 なんで不純な動機なんだ。ギルドマスターが少し可哀想だよ。


 いや、それだけ愛されていると言うべきなのか?ここら辺は本人同士の関係値次第か。


「ギルドマスターからしたらいい迷惑でしょうね........少しだけ可哀想に思えてきたわ」

「それをやって許される関係とも言えるな。で、俺達の意志とは関係なくもう行く気満々だねみんな」

「当たり前だ。ギルドマスターが確実に1人反省会をしている時なんてそうそう無いからな!!みんなで見に行くぞ!!(小声)」

「「「「「「「ォォォォォォォォ!!(小声)」」」」」」」


 やけに盛り上がる冒険者達。


 俺とエレノアは顔を見合わせると、お互いにため息をついて首を横に振るのであった。

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