脳筋エレノア
海神のダンジョン第八階層にやってきた俺達は、真っ暗な闇の中を泳いでいた。
とは言えど、魔術のお陰で視界が確保出来ているし特に困ることは無い。
エレノアと話したり、可愛いサメちゃんと戯れながら先へと進み続けると遂に魔物達が現れる。
「来たわね。かなり大きな気配よ」
「最上級魔物よりも強い気配だな。これはもしかして破滅級魔物がやって来たか?」
俺達の周囲を囲むように感じる気配は、かなり強い。
師匠ほどでは無いものの、確実に最上級魔物よりも強かった。
となると、最上級魔物の上。破滅級魔物がやって来たと考えるのが妥当だろう。
「大体50ぐらいかしらね?ジーク、今のレベルは幾つだったかしら?」
「今はレベル132だな。最上級魔物をコンスタントに狩れる様になったおかげて、レベルの上がり方がかなり早い。このダンジョンのことは許せんが、それだけは楽しいよ。エレノアは?」
「126ね。私も大分レベルの上がり方が早くなったわ。とは言っても、もう破滅級魔物を一体狩るだけでレベルが上がることも無いけどね」
本格的なダンジョン攻略を始めてから、俺たちのレベルはかなりの速度で上がり続けている。
魔境で魔物を狩っていた時は、放置狩りが安定しなかったり終盤になると魔物の数が少なくなって効率が落ちたりしたからな。
その分、爆発力は凄まじかったが。
代わりにダンジョンは安定感がある。
常に安定して経験値を稼ぎ出し、無限湧きの場所の為魔物が尽きることもない。
そこがダンジョンのいいところだな。
放置ゲーに適した狩場と言うのは、安定した経験値を生み出してくれる場所。
魔境は自分達で狩り、放置ゲーはダンジョンが一番経験値効率が良かったかもな。
そんなことを思いつつ、俺達は戦闘の準備に入る。
ノリノリで“僕も戦う!!”とファイティングポーズを取るサメちゃんに思わず笑ってしまいながらも、俺は昨日怒りに任せて作った魔術のお披露目をするつもりであった。
「あれは........シーサーペントじゃないか?湖ごと消し飛ばされたあの」
「そう見えるわね。元々海にいる魔物だとは聞いていたけど、海の中で見るのは初めてね」
続々と現れる魔物の群れ。
その群れを成す魔物は、少し前に俺達が戦った破滅級魔物“シーサーペント”であった。
エレノアの言う通り、シーサーペントは元々海に生息する魔物。
本来は、こうして出会う方が正しいのだろう。
決して、湖に生息する井の中の蛙のような存在では無いのである。
「これは経験値にも期待が持てそうだな。全力で殺るか」
「何気に破滅級魔物の群れと戦うのも初めてだったわね。油断せずに行くわよ」
エレノアはそう言うと、魔術の準備に入る。
流石に破滅級魔物相手に“水中刃”は効果が薄い。
破滅級魔物が現れてもいいように、エレノアも1つ魔術を作っているのだ。
まぁ、滅茶苦茶脳筋魔術なのだが........
エレノアは影の中からトンファーを取り出すと、魔術を行使する。
魔力量もそこまで多くはない。魔法陣もそこまで複雑ではない。
だが、エレノアが使うと破滅級魔物を殺しうるだけの威力を発揮する。
腕の動きと連動させ、魔力で具現化された巨人の拳。
その名も────
「行くわよ“
第七級無魔術“
自身の動きと連動した巨大な腕を出現させ、相手を殴り殺す魔術である。
複雑な工程が要らないので魔力の維持費がそこまで高い訳でも無く、何よりエレノアの最も得意とする肉弾戦を離れた場所で行える。
射程は大体300メートルほどであり、腕の大きさは5mにも及ぶ。
そして、この魔術の最大の特徴は使い手によって強さが相当異なると言う点だ。
俺も試しに使わせてもらったが、俺の巨人の腕とエレノアの巨人の腕とでは威力が全く異なる。
レベル差や魔力操作の練度で魔術の威力が変わるのだが、この魔術の場合は術者の拳の威力で変わるのだ。
「フッ!!」
5メートル近くある大きな腕はエレノアと同じくトンファーを握りしめ、エレノアの動きに連動しその巨大な腕を振るう。
巨人の腕とエレノアの腕は連動しているため、巨人の腕にかかる水の抵抗をエレノアも感じるはずなのだが、エレノアは強引に腕を振り回した。
ドガァァァァァァン!!
と、海を揺らす爆音が響き渡る。
そして、エレノアが拳を振り下ろした先を見ると、破滅級魔物であるはずのシーサーペントがたった一撃で素材へと姿を変えていた。
しかも、5体も。
エレノア、拳を横に振っただけで破滅級魔物を五体も消してんだけど。
“相手が殴れないなら殴ればいいじゃない”とか言う矛盾しまくった考えの元生まれたこの魔術は、エレノアの拳にさらに磨きを掛ける事になりそうだ。
と言うか、天使ちゃん達でも今の一撃は耐えられそうにないな。
エレノアめ。どんどん火力バカになりつつあるぞ。
俺は、脳筋戦法を取るエレノアに呆れながらも、迫ってくるシーサーペントに向けて魔術を放つ。
俺はあんなマネ出来ないので、もっと確実で手っ取り早い方法でやらせて貰うとしよう。
「空間を斬り裂け“
刹那、俺を食おうと大きく口を開けていたシーサーペント達の首が切り裂かれる。
第九級空間魔術“
この魔術はその名の通り空間を切ってしまう魔術だ。
その場所にある物を強制的に切断する即死魔術であり、破滅級魔物にも通用するだけの火力を有している。
が、魔力消費は馬鹿みたいに多いし、強制的に切断できるのは自分よりも実力が劣る相手のみ。
ぶった切られる場所を察知して、そこを膨大な魔力で覆うとこちらの攻撃が弾かれてしまうという欠陥品でもあった。
空間系の魔術で明確な攻撃手段に使えるものがなかったので作ってみたが、格上なんかには使えない魔術だよな。
この魔術を作った際にエレノアが“私で試してみなさい。大丈夫。その程度なら死なないわ”と言って本当に斬撃を弾いた時は軽く不安になったものだ。
一応、帝国のダンジョンでバジリスクに効果があるのを見てるから今もこうして使っているが、なんで当たり前のように弾けるんですかね?
俺の相棒の規格外っぷりに呆れつつも、サクサクと魔物たちを処理していく。
相手は天輪で消し飛ぶ程度の強さしか無く、得意な海の中とはいえど魔術で近づけさせず動きも封じてしまえばこちらのもの。
50体近くの群れに囲まれたとしても、俺達にその牙が届くことは無い。
破滅級魔物の群れはあっという間に殲滅されてしまった。
「んー、海の中での戦い方もこっちの方が良いわね。やっぱりその人にあった戦い方と言うのが必要だと思うのよ」
「その結果がアレか?エレノアらしいと言えばらしいけど、ちょっと脳筋すぎやしないか?」
「このぐらいが丁度いいのよ。殴って解決できるなら、それが一番楽だわ。本当は全部燃やしたいのだけれどね」
「流石に海の中じゃ威力も落ちるだろうしな........水で消えない炎を作るか?こう、炎をさらに魔力で覆って水と触れないようにするとか」
「空気が必要ない純粋な魔力だけで燃やす炎を作ればいいって事ね!!流石ジーク!!頭がいいわね!!」
あ、これ余計なことを言ったかもしれん。
目をキラキラと輝かせながら、楽しそうに魔術の構想を考え始めるエレノア。
長い付き合いだから分かるが、こういう時のエレノアは何を言っても無駄だ。
きっと、自分が満足するまで魔術を作ろうとするだろう。
「サメちゃん、回収よろしく」
「........(ラジャー!!)」
俺は、早速消えない炎について構想を練り始めるエレノアを微笑ましく思いつつも、サメちゃんに素材の回収をお願いするのであった。
そういえば、今回の戦闘ではレベルが上がらなかったな。そろそろ最上級魔物から破滅級魔物に獲物を移すべきなのかもしれん。
後書き。
サメちゃんのイメージはIKE◯のサメのぬいぐるみ。あれ可愛いよね。欲しい。
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