ブッセルのダンジョン攻略完了
天使の歌は第十階層全土に鳴り響き、その不協和音が奏でた歌は光の柱となる。
数多くの国を滅ぼすとまで言われ、場合によっては多くのオリハルコン級冒険者たちが力を合わせて何とか討伐できるはずの破滅級魔物は、僅か一撃で塵一つ残さず死に絶えた。
魔物だけでは無い。
第十階層に生えていた森や地面すらも全てが消し飛んでいた。
奈落が見える。下を覗きこめば、逆にこちらが覗かれているのでは無いかと思うほどの奈落がこちらを見ている。
ダンジョンと言えど、貫通力に特化した第九級魔術の攻撃には耐えられなかったようだ。
「お、レベルが上がったな」
消滅した第十階層を眺めていると、体に異変を感じる。
この感覚は何度やっても心地がいい。あぁ、薬物の中毒にかかったような感覚だ。
肉体から溢れ出る力と全能感。湧き上がる魔力と力は、己が神になったかのように錯覚をさせる。
レベルアップ。
やはりこれは麻薬のような中毒性を誇っている。これに魅了されてしまった俺は、生きている間はレベル上げに勤しむことになるんだろうな。
「やりすぎね........これじゃ素材が回収できないわ」
「........ここに来るまでに何度も驚かされ続けてきたが、よもや大地すら消滅させるとは言葉すら出ない。アーラン、お前の師は実は悪魔や天使なんかと契約して人ならざる力を手に入れたりしてないよな?」
「あはは。先生なら有り得そうだからなんとも言えないね。というか、これどうやって先に進むのさ。空を飛べるには飛べるけども」
あまりにも高火力過ぎて素材ごと消滅させてしまった俺に呆れるエレノアと、俺が天使や悪魔と契約を結んでいるのかと疑い始めるリーシャ。そして、それを否定できず笑うアーラン。
確かにオーバーキルではあったな。
後、天使と悪魔も契約してないぞ。魔術で作りだしたけど。
と、心の中でツッコミを入れているとダンジョンがゴゴゴと揺れ始める。
何事かと思い地面に目を向けると、ダンジョンが再生を始めていた。
消滅したはずの地面がせり上がり、瞬きをする間もなく森が再生される。
ダンジョンが再生を始めてから僅か10秒。
気づけば、第十階層は普段通りの形に戻っていた。
「........凄いわね。ダンジョンの再生力と言うのは神秘的だわ」
「ダンジョンの再生、初めて見たけどここまで早いんだな。見ろよ、消滅した地面が戻り、森が出来上がっている。こうやってダンジョンは壊れた部分を修復しているんだな」
「へぇ、私も初めて見たな。ダンジョンってこんな感じに再生されるのか」
「僕も初めて見たよ。不思議だね。一体これらを再生するエネルギーはどこからやってきているんだろう?魔物を殺せば素材だけを残して消えるし、トラップを踏めばどこからともなく魔物がやってくる。ダンジョンは不思議がいっぱいだよ」
「未だにダンジョンについてはその殆どが分かっていない。組織の連中ですら理解できなかったんだ。私も色々と調べたりしたが、結局のところ分かったのは極わずかな部分しかない」
未知に包まれているダンジョンの謎を極わずかと言えど、解明できる時点でかなり凄いと思うけどな。
俺やエレノアはダンジョンの正体なんでどうでもいい。ただ、経験を量産してくれる便利な道具としてしか考えていない。
出来れば、実は生き物で経験値を沢山くれたりしないかなーとは思っているが、それ以上のことは考えてなかった。
リーシャ。割と幼い見た目をしている割にはかなり優秀な学者なのかもしれないな。
「さて、ご丁寧にダンジョン君が自分の心臓部までの道を整備してくれたんだ。このブッセルのダンジョンのコアを拝みに行くとしますかね」
「そうね。スライムダンジョンのコアとはまた違った何かがあるのかしら?」
「........なぁ、まさかダンジョンコアをぶっ壊したりはしないよな?一応帝国の資源基盤とも言える場所なんだ。間違って破壊した日には、私たち全員が晴れてお尋ね者になるぞ」
「大丈夫大丈夫。冒険者ギルドから破壊の許可も降りてないから、今回は破壊しないよ」
「それ、裏を返せば破壊の許可が降りてたらやってたって事だよな?やべぇよ。大体のダンジョンをクリア出来る上に、躊躇いなくコアまで破壊するような奴が冒険者ギルドに所属してるよ。場合によって、冒険者ギルドが“お前の国のダンジョンを全て破壊するよ?”って脅すことが出来る訳だ」
「........そう考えると先生たちは、全人類の敵なのかもしれないね」
弱き民を苦しめるような事は冒険者ギルドもやらないだろうが、相手国があまりにも舐めた態度をとったらそういう脅しもかけるだろう。
何せ、冒険者ギルドが各国で大きな顔をできるのは、その戦力を国が恐れているからだ。
だから、戦争の際にも冒険者ギルドを巻き込もうとする国は無い。あくまでも、志願兵の依頼を出して兵士を集めるだけ。
そう考えると、冒険者ギルドは世界の支配者なのかもしれないな。
俺は、いつの日か冒険者ギルドと敵対の道を選ぶような馬鹿で愚かな王が生まれる日が来るのだろうかと思いつつ、ダンジョンコアが待つ第十階層の奥へと歩みを進めるのであった。
【バジリスク】
カメレオンのような見た目をした破滅級魔物。その毒は僅か一滴で数千人を殺し、その牙は僅かでもふれれば石と成り果てると言われており、実際千数百年前に暴れたバジリスクは5つの国を毒と石の残骸へと変えた。当時の被害はオリハルコン級冒険者2名とアダマンタイト級冒険者65名。そして、その他民間人や兵士など数百万名にも及ぶ。
ジークやエレノアは“わーい経験値だー!!”と喜んで殺しているが、実際は国家の危機に直面するレベルの魔物なのだ。決して、バジリスク君が弱い訳では無い。
第十階層の奥へと進むと、1つの洞窟が姿を現す。
そして、その中に入るとそこには光り輝く大きな玉がフヨフヨと浮いていた。
スライムダンジョンでも見たダンジョンの核“ダンジョンコア”だ。
「大きいわね。スライムダンジョンで見たコアは、この半分も無かったわよ」
「ダンジョンの強さや規模によって大きさが違うのかもしれないな。もしかしたら、三大ダンジョンのコアはこれ以上に大きいのかもしれん。壊したらレベルとか上がるのかな?」
「残念ね。帝国の資源庫となって無ければ壊せるのに」
「うわぁ、これがダンジョンコア。初めて見たよ」
「あまり近づきすぎるなアーラン。間違って壊した日には、陽の光を浴びて生きることが出来なくなるぞ」
スライムダンジョンで見たコアの何倍もあるダンジョンコアを見て“壊したら経験値を貰えないかなと考える”俺達と、初めて見たダンジョンコアに目を輝かせるアーラン。そして、無意識に近づこうとするアーランを止めるリーシャ。
各々が違うことを思いつつダンジョンコアを眺め、ある程度飽きてくると俺達はダンジョンコアのある部屋でのんびりと休憩を取る事にした。
時刻は昼時。今日もドラゴンの肉を使った料理を作るとしよう。
「ダンジョンコアも気が気じゃないでしょうね。目の前で自分を殺せる存在が、自分が生み出した素材を使って料理をしている光景を見せられるなんて」
「俺がダンジョンだった間違いなく“はよ帰れ”って言ってるよ。それか、どんな手段を使ってでも殺す。それをやらない辺り、ダンジョンにもなんらかの制約がありそうだな」
「そもそも、侵入者を許さないのであれば第一階層から絶望級やら破滅級魔物を設置すればいいからな。それをやらないという事は、できないという事だ。所詮ダンジョンも、この世界の法則に縛られた存在なんだよ」
「だな。それは俺達にも言える事だけど」
こうして、俺達は無事にブッセルのダンジョンの攻略を終えるのだった。
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