天堕混合軍vsオーク軍


 ジークとエレノアが五大魔境“オマウ”の北側でオーガ達を処理し、見事魔王を捕まえて全自動経験値トラップを作り上げたその夜。


 天使と堕天使達は、魔境の南側で盛大に暴れ回っていた。


 オークの最上位魔物オークマーシャルを見つけると、手当り次第殺戮していく。


 初期の頃の天使達であればそれなりに苦戦する相手であったが、この旅の間に色々と弄られ、更には強者(エレノア)と常に戦わされてきていた彼らにとって今の最上級魔物は恐るるに足らず。


 オークの上級魔物相手にも特に苦戦することも無く(オーク軍は様々な種類の上級魔物がいる)、天使たちは主人の任務を着実に遂行して行った。


 そんな中で、1組の天使と堕天使がオーク軍の拠点を発見する。


 ジークとエレノアが見つけたオーガの要塞と同じく、木を基本として作られた簡易的な要塞。


 空を飛べる天使達が空から要塞を見渡すと、そこには1000体近くのオーク達が暮らしているのが分かった。


「........(乗り込む?)」

「........(2人では無理。応援を呼ぼう)」


 軽いジェスチャーと思念によって会話をする天使と堕天使は、ここは経験値が集まった良き狩場だと判断。できる限り確実に、それでいて素早くここにいるオーク達を始末しなければならない。


 そう判断した1組の天使と堕天使は、仲間達に連絡を取る。


 現在魔境に展開している天使堕天使軍は354体。2体1組に分けられているので、177組の仲間達が狩りをしている。


 その中でも自分達から近い組に連絡を取り、ここに来るように指示を出した。


 最初期の天使たちであれば、このような勝手な判断をすることは無かったが、ジークの手によって魔改造された天使堕天使は自己判断が可能になっているのだ。


 そうして呼ばれた10組の天使達。


 彼らはできる限りオーク達を逃さないようにどうしたらいいかを簡単に話合い、結論を出す。


 山の中に紛れられない天使11体を派手に暴れされ、影の中から始末する奇襲役の堕天使を3体。残りの堕天使たちは要塞の城壁に沿って潜伏しつつ、逃げようとするオークを始末。


 実に簡単な作戦だ。


 今回は魔境を壊してもいいと主人から許可を貰っているので、手加減もしなくていい。


 魔王は殺すなと言われているが、偵察した限りでは魔王らしきオークは見当たらなかった。


「「「「「「........(ワクワク)」」」」」」


 久々に主人たるジークの力を余すことなく使えると知っている天使達は、胸を踊らせながら配置に付くのだった。



【オークマーシャル】

 最上級魔物であり、オークの中でも武力に優れた魔物。同じ最上級魔物であるオークキングとは異なり、配下を統率する能力が低い。が、最低限の能力はあるので人間からしたらかなりの脅威となる。また、軍事的なことに関してはオークキングよりも詳しく、今回の魔王vs魔王のような戦いでは優秀な元帥として戦うのだ。



 その日もオーク軍は、要塞をさらに強固なものにしようと働いていた。


 相手はオーガ。単純な力だけで言えば、圧倒的に向こうの方が強い。


 しかし、頭の良さはオークに軍配が上がる。魔術を使える者もそれなりにおり、力押ししてくれだけのオーガ相手にちゃんとした戦術を取れるのがオーク達の強みだ。


「後数日もあれば、かなりしっかりとした要塞が建てられるな」

「そうだな。オーガ共と真正面からやり合うのは危険だ。力だけで言えば向こうの方が圧倒的。ならば、我らは知恵を使う。それがオークというものだ」


 この要塞の建設を指揮して来たオークマーシャルの2体は、今日の仕事を終えてのんびりと過ごす配下たちを見ながら話し合う。


 オークと言えど疲れる。四六時中ずっと働かせれば効率は落ちるので、こうして夜の間は自由時間となっているのだ。


 篝火が揺らめく中、1000体近くのオーク達はそれぞれ思い思いの時間を過ごす。


 オーク達にだって個性はある。あるものは仲間たちと楽しそうに話し、ある者はひとりで黙々と鍛錬を積み、ある者は疲れからかぐっすりと眠る。


 もう少し時間が経てば皆寝るだろう。


 そう思っていた矢先だった。


 急激な魔力の高まりと、それに伴うだけの魔法陣が要塞の外で確認されたのは。


 これがけの膨大な魔力となると、嫌でもオーク達は気づく。


 そして、その魔力が明らかにオークのものでは無い事もしっかりと分かっていた。


「........っ!!総員!!退避ー!!」


 本能で“ヤバい”と感じたオークマーシャルの1人が、魔法陣から離れるように指示を出すが、一足遅い。


 要塞の門の近くに居たオーク達は一瞬にして眩い光の中に飲み込まれ、塵も残さずに消え去ってしまったのだ。


「........」


 そこから現れるは、天から使わされた神の尖兵。


 巻き上げられた砂埃をその純白の翼で吹き飛ばしながら、何も無かったかのように要塞の中へと足を踏み入れる。


「敵襲!!敵は1名!!魔導師部隊と近接部隊!!急いで排除しろ!!」


 正面から入ってきた天使はたった1名。オークマーシャルは相手が何者かよく分からなかったが、少なくとも敵であることは分かっている。


 いくら強かろうが、相手はただ1人。


 魔術で牽制しつつ、数の暴力で押せば容易に討伐できるだろう。


 そう、思っていた。


「........(剣を天に掲げる)」


 天使が剣を天に掲げる。


 再び魔術を使うのかとオーク達は身構えたが、何も起こらない。


 ただのブラフか?そう思ったのも束の間、今度は空に強大な魔力の反応が現れる。


「........は?」


 先程見た魔法陣と同じ模様が描かれた魔術。それが10つも空に描かれている。


 しかも、それを行っているのは10体の天使達。


 たった一撃で要塞の正面を吹き飛ばした魔術が、今天罰として下されようとしている。


 これにはオーク達も為す術が無い。


 天使達が居る場所はかなり遠く、魔術を地上から放ったとしても到底届く距離ではなかったのだ。


 時が止まる。


 誰もが自らの死を確信し、その場から逃げるという手段すら頭の中に思い浮かばない。


 天への命乞いも許されない。


 キィィィィィン、と甲高い音が最後の審判を告げるラッパの音にも聞こえてしまう。


「み、皆!!逃げ──────」


 何とか正気を取り戻したオークマーシャルのひとりが声をあげようとしたその瞬間、天の裁きは行使されてオーク達の魂は冥界へと旅立つ。


 運良く生き残ったオーク達も多く居るが、あの化け物にどうやって勝つのか。どうやって逃げられるのか。


 それが全く思い浮かばない。


 だが、生きる者の本能としてこの場から1秒でも早く逃げなければと理解はしている。


 錯乱したオーク達は、小さな希望に縋り付くように背を向けて逃げ始めた。


 が、経験値の為ならば例え人を殺すこととなっても容赦のない主人に作られた天使たちが、易々と貴重な経験値を逃すはずがない。


 背を向けて逃げ始めたオーク達だったが、突如、黒い光線に飲まれてあっという間に消えてゆく。


「........は?」


 2度目の硬直。


 敵はあの天使だけではなかったのか。


 そう思って振り返るオークマーシャルの目に映ったのは、漆黒の闇に染った黒き天使。


 彼らは逃げるオークを優先的に狩り、この場から逃げられないようにと周囲を大きく囲んでいた。


 数は分からない。だが、確実にここで自分たちを殺す気だ。


 何とかしなければ。そう頭では理解していても、ここで画期的な逆転の一手があるとも思えない。


 ドスっ。


 急に訪れた衝撃。


 自分の胸を見ると、そこには漆黒の剣が赤く染まりながら生えている。


 後ろを振り向けば、そこにはつい先程まで外周に居た黒き天使が自分の胸に剣を突き立てていた。


「........っ!!貴様........」

「........」


 思考が纏まるよりも早く、どこからともなく現れた堕天使によりオークマーシャルは深い闇の中に魂を落とすのだった。


 そしてその夜。誰一人として生き残ったオークはおらず、オークの要塞の1つは完全に消し飛ばされたのだった。

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