ザリオルの街
バリード王国の上空を飛んでいると、ようやく五大魔境“オマウ”から最も近い街が見えてくる。
ザリオルの街。
聞いた話では紅茶の栽培を主軸としている街らしく、多種多様な紅茶が飲めるらしい。
紅茶の街なんて言われることもあるぐらいには、バリード王国の中では有名なんだとか。
しかし、辺境の街な上に近くに五大魔境“オマウ”がある事で観光客なんから少なく、来るのは専ら紅茶を仕入れる商人だと言う。
そりゃ、いつ溢れて出てくるか分からない魔境の近くにある街なんて観光気分で訪れたくは無いよな。
俺も力が無かったら行きたくないと思うし。
「魔境から近い街は色々と見てきたけれど、ほかの街と違ってあまり防衛に力を置いてないみたいね。どの街よりも城壁がみすぼらしいわ。見た目は豪華だけどね」
「一応、この街は観光地として売り出しているからな。観光客に不安を与えないように外面は立派にしているんだろ。それに、魔境から最も近い街にしては城壁がみすぼらしいと言うだけであって、普通の街と比べても何ら遜色ないように見えるけどな」
エレノアの言う通り、この街の城壁はリベトの街なんかに比べたらかなり薄い。まぁ、それでも十分に分厚いのだが。
その癖してかなり見た目はしっかり作られているように見えるのは、観光地としての期待もあるのだろう。
五大魔境さえ近くになければ、人々が多く集まる観光地として名を馳せていても不思議では無いという自信の表れとも言える。
空から街を見ても、その自信が見て取れた。
明らかに見栄えを重視した街の作りと、空から見ても分かる程綺麗な街並み。
どの街にもあるはずのスラム街すらも見当たらないのを見るに、弱者はこの街で生きていけないと言っているように見える。
もしくは、全員が職に付けるだけの何かしらの制度があるのか。
バリード王国は魔境こそあるものの、そこに目をつむればかなり住みやすい国と聞いている。
典型的な貴族社会の国ではあるが、まともな人が多いんだろうな。
もちろん、中には馬鹿も居るだろうが。
どうやら、この街を治める貴族はまとものようだ。
「んで、かなり奥に広がる森が五大魔境“オマウ”か。なんというか、“ハモン”を思い出すな」
「そうね。あそこは木々のほとんどが魔物だったけれど、こちらはどうなのかしら?またエルダートレントの様な魔物が出てくるのかしらね?」
「また森を焼くのか?」
「いや、まとめて爆破でもしてみようかと思っただけよ。燃やせるし吹っ飛ばせる。爆発って素晴らしいと思わない?」
「........思わないよ」
粉塵爆発で魔境を吹っ飛ばしたあの日から、何かを爆破することにハマっている。
爆破の熱で相手を燃やせる上に周囲を吹っ飛ばせる爆破の爽快感は、火力と爽快感を求めるエレノアにピッタリだったようで、俺が長距離転移の魔術を作っている間に色々と爆破系魔術を開発していたのだ。
しかも、複合魔術に必須な魔法陣を知っているものだから、あれこれ合わせてかなり凶悪なものまで作り出している。
冗談抜きにそのうち水爆とか作りそうで怖い。
ツァーリ・ボンバとか間違っても作るなよ?........いや、エレノアの場合ツァーリ・ボンバよりもヤベー物を作りそうで怖いわ。
俺は放火魔から爆破魔にジョブチェンジしてしまった相棒に呆れつつも、どうせ何を言っても辞めないことは分かっているので静かにため息を着くだけに留めておく。
火力バカに爆破は与えちゃいけないな。
「できる限り街に被害が行かないようにしろよ?」
「あら、てっきりジークなら“爆破系魔術を使うな”と言うと思ったわ。意外ね」
「言ってもどうせ実験と称して使うだろう?ウチの堕天使くんをバカスカ爆破しやがって。この前堕天使君を召喚したら心做しか怯えているように見えたぞ」
「........それは申し訳ないわね。今度から威力実験の際は“
ここで爆破系魔術の実験を辞めると言わないあたり、実にエレノアらしい。
ちなみに、堕天使君達が怯えていたかどうかは知らない。が、毎度エレノアの実験台にされる時に“またか”と言いたげだったのは感じたので、呆れてはいるのだろう。
レベル100に上がってから、さらに知能が上がったと思われる堕天使君と天使ちゃん。
今度出せるだけの天使達を呼んでパーティーとか開いてみるか?
堕天使君達はノリがいいし、天使ちゃん達はノリこそ悪いものの頑張って合わせてくれる。
自我が芽生えているっぽいんだけど、どうしたものかなぁ........一応、絶対服従してもらうために少しだけ改良を加えてあるが、どうなるのかは分からない。
いい方向に転がってくれなきゃ作り直しだなと思いつつ、俺達はザリオルの街に降り立つのだった。
【ツァーリ・ボンバ】
「爆弾の皇帝」の意味がある名前を持った人類史上最強の威力を持った水素爆弾。ソビエト連邦が発明し、その威力は広島原爆「リトルボーイ」の約3300倍。核爆発は2000km離れた場所からも確認され、衝撃波は地球を三周したといわれている。
ザリオルの街に降り立った俺達は、恒例行事と化した門番に武器を構えられて警戒されると言う状況に陥っていた。
空を飛ぶ手段が難しく、ましてや空を飛んで移動してくる人なんで今まで見たことがないだろうから警戒の1つでもするだろう。
多分、宇宙人が地球に来たらこんな感じの歓迎を受けるだろうな。
「またこれね。どうにかならないのかしら?」
「もう諦めろ。これに関してはどうしようもないさ」
最早何回目か分からないこの門番とのやり取りにも慣れた俺達は、敵意がないと言いたげに両手を上げて門番に近づく。
「く、来るな!!それ以上近づいたら敵とみなす!!」
「はいはい。それじゃここから動きませんよ」
「私達は冒険者よ。これが冒険者ギルドのギルドカード。ここに置いておくから、確認したければしなさい。その間、私たちは離れておくわ」
俺とエレノア離れた手つきでギルドカードを取り出し、地面に置くとその場を離れる。
このやり方が1番効率がいいと今までの旅で学んだのだ。
まぁ、それでも中にはカール皇国の門番の様な奴もいるからどうしようもないが。
最悪の場合はこの門番を気絶させないとなと思いつつ、俺達を怪しみながらもギルドカードに恐る恐る近づく門番を眺める。
早く長旅の疲れを癒したいのだが、この門番は正しい判断ができるかな?
そんなことを思いながら待っていると、ギルドカードを見た門番が目を見開いて俺達とギルドカードを何度も交互に見ている。
お、今回の門番はちゃんとオリハルコン級冒険者だと気づいたようだ。
第1関門は突破。後は、俺達が本当にオリハルコン級冒険者だと信じてくれることだが........どうだろう?
若干震える手でギルドカードを持ち、門番は慌てて俺達に近づいてくる。
どうやら今回の門番は当たりだな。
「お、オリハルコン級冒険者様でしたか。大変失礼いたしました」
「いいよいいよ。気にしなくて。俺達も慣れてるからな」
「正しい判断よ。もし、私達にその槍を向けていたら気絶させてたわ」
「ハハハ。オリハルコン級冒険者様と分かったのにそんな事しませんよ」
「それを偽物だと思ったりしないのか?中には俺達を見て偽物だと判断するやつも多いんだが........」
「知らない魔術で空を飛び、なんの後ろめたさも持たず堂々としている人が偽装なんてしませんよ。悪い事をしていると、どうしても隠しきれな不自然さが見えてくるので。こう見えても、僕はそれなりに人を見る目があるとも思ってますし」
「........世界中の門番が君のような人なら良かったのにな。中にはギルドカードの真偽を確認せずに捕らえようとするやつも居るんだぜ?」
「それはそれは........なんとも命知らずですね」
こうして、俺とエレノアは特に騒ぎを起こすことも無くザリオルの街に足を踏み入れるのだった。
いやー、話の通じる門番は本当に助かるな。
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