よく燃える魔物......あっ(察し)


 洞窟型の魔境“へゲス”に足を踏み入れた俺達は、白魔術で辺りを照らしながら洞窟の中を進んでいく。


 コツコツと、洞窟の中で足音が反響していくその様は他の魔境とは違って新鮮で、歩いているだけで少し楽しい。


 今まで歩いてきた魔境はどこも開けた場所だったからな。こうして狭い(洞窟にしてはバカ広い)道を歩くのは趣がある。


「入口からそうだったけど、かなり広い洞窟ね。普通に暴れても問題ないぐらいには広いわ」

「戦闘がしやすくて助かるな。全部魔術で吹き飛ばすからあまり関係ないけれど、歩きやすいってのは助かる」

「少なくとも、湿地帯を走り回るよりはマシね。足元がぐしゃぐしゃにならなければ、外の天候に左右されない狩りの環境と言う点は評価できるわ」

「確かにそうだな。雨の日のケルトとか酷かったもんな。雨のせいで足元が更に悪くなるし。エレノアの言う通り、天候に左右されない狩場ってことを考えると、割といい場所かもしれん」


 魔境での狩りでは、その日の天候によって狩りの効率が変わるなんて事もよくあった。


 雨の日は視界が悪くなり、更には足元まで悪くなるとなれば狩りのしやすさも多少変わるだろう。


 基本的に狩りは魔術で片付けるものの、移動なんかはどうしても天候の影響を受けてしまうのだ。


 そう考えると、この魔境は安定した狩りが出来るかもしれない。


 あまり破壊的すぎる魔術を使うと洞窟を壊してしまう恐れがあるが、そこを除けばダンジョンよりもやりやすいかもな。


 そんな事を話しながら洞窟の中を歩いていくと、早速獲物がやってくる。


 天井まで5m程ある洞窟の中だと言うのに、体長3m程もある巨体。


 赤黒く光る背中の鱗とアルマジロの様な特徴的なその体は、一目見ただけでどんな魔物なのか一発で分かる。


「ロックアルマル。この魔境で観測された魔物の中では最も弱く、全身を丸めて突進してくる魔物だな。確か上級魔物に分類されていて、洞窟の狭さも相まってかなりの強敵と書かれていたっけ?」

「確かそんな感じだったわね。確かに、この巨体が突進してきたらこの狭い洞窟内では避けるのが難しそうだわ。と言うか、どうやってこの洞窟の中で生活してるのかしら?動きづらくないのかしら?」

「それは思った。方向転換するのも大変そうだよな。地面に潜れる訳でも無いらしいし、この洞窟の中で生きていくには厳しそうだけど」


 エレノアの言う通り、この巨体でどうやって洞窟で生きているのだろうか?


 高さ5m、横幅5mぐらいの洞窟の中で動くにはあまりにも大きすぎる巨体。


 更には土の中に潜れる訳でもないので、潜って方向転換とかもできない。


 その体、生きるのに邪魔じゃないか?


 魔物の進化はよく分からんなぁと思って見ていると、ロックアルマルは俺達を餌として認識したのか体をボールのように丸める。


 見た目もそうだが、まんまアルマジロだな。彼らと違う点は、愛くるしさが無いのと明らかに俺達を殺す気で居ることぐらいだ。


「どっちが先に殺る?」

「じゃ、私から行かせてもらうわ。この魔境の魔物は観測されている限り炎に弱いらしいからね」

「へぇ........それは災難だな」


 確かにそんな文が書かれていたのを見た気がする。


 炎に弱く、よく燃える........あっ(察し)


 この後、ロックアルマル君がどんな未来を辿るのか分かってしまった俺は、心の中でロックアルマル君に向かって手を合わせておいた。


 せめて天国に行って安らかに死んでくれ。今から君は地獄の業火に燃やされるからな。


「シェルルルルル!!」


 既に死が確定した悲しきロックアルマルは、丸めた体を武器に猛スピードで突進してくる。


 その迫力は洞窟内の狭さもあってかなりのものだが、エレノアからすれば獲物が自らやってきただけに過ぎなかった。


「燃えなさい」


 エレノアがパチンと指を鳴らすと、洞窟内いっぱいに炎が広がってロックアルマルを飲み込んでいく。


 これぞ正しく飛んで火に入る夏の魔物。


 炎への耐性が弱いロックアルマルは、悲鳴を上げる事すら許されずに骨すらも灰となって消えてしまった。


 少し前に同じ魔術を使っていたはずだが、昔とは火力が比べ物にならない程馬鹿げてるな。


 第七級魔術“爆豪火炎バーニングフレイム”。


 師匠の家で修行していた頃に覚えた魔術であり、この威力は当時でも100m近くを焦土に変えていた破壊力抜群の魔術だ。


 魔法陣は同じなのに、当時の数倍程の威力が出ている。


 洞窟内というのもあってパッと見では威力の違いが分からないが、明らかに火力が上がっていた。


 エレノアはその内、魔術一発で国を焦土の海に変えることができるんじゃないか?


 そうなれば、炎魔の名も更に相応しいものになるだろう。


「はぁぁぁ........やっぱり魔物を灰にするのは楽しいわね。殺戮を楽しむ趣味は無いけれど、こうして何かを燃やすのってすごく快感だわ」

「頼むから所構わず燃やす放火魔にはなるなよ?」

「分かってるわよ。流石に燃やす相手は選ぶわ」

「........未だに悪い癖が直ってないのに?」

「そ、それは........ジークと組手をするとちょっと盛り上がっちゃうから........」


 可愛らしく頬を赤らめながら、少し申し訳なさそうに言い訳するエレノア。


 エレノアは昔から楽しくなると魔術をブッパなそうとする悪い癖があるのだが、未だにその癖は直っていない。


 魔術禁止の組手はともかく、魔術ありの組手を行う時は常に細心の注意を払わないと周囲が焼け野原になる可能性があった。


 ここに来るまでの間に行った組手の時とかマジで焦ったからな。


 エレノアの象徴とも言え魔術である“獄炎煉獄領域ゲヘナ”を、組手の中でブッパしようとしたのだ。


 久々に焦ったよ。いやマジで。


 どこの世界に、組手で半径5Km圏内全てを燃やし尽くそうと思う奴がいるんだ。


 本当にこの性格だけは直らないよな。エレノアの唯一の欠点とも言えるかもしれん。


 俺は頬を掻いて気まづそうにするエレノアの背中を軽く叩くと、灰となったロックアルマルに指を指す。


「ちなみに、こいつは食えるらしいからできる限り火を通さないで欲しい。食料は数ヶ月分あるとはいえ、この肉も食べてみたいだろう?」

「えぇ!!もちろん!!次に見つけたら殴って仕留めるわ........あ、その前にジークが倒してくれるからお肉は確保できるわね」


 肉が食べられることを思い出したエレノアは、先程の気まずそうな顔から一転してキラキラと目を輝かせる。


 本当に食べる事が好きだな。


 毎回料理を作ってあげると美味しそうに食べるし、感謝もしてくれる。


 作ってる側からすれば、これほど嬉しいことはない。


 俺は、エレノアにロックアルマルの肉を食わせてやる為に灰となったロックアルマルの死体を超えて先に進むのだった。


 その後ロックアルマルを再び発見し、地獄門いつものでさっさと仕留めるとその日はロックアルマルの肉をふんだんに使った料理をご馳走した。


 正直、ホワイトクレインには味が劣るが、それでも高級料理店でも並ばない美味しい肉だったので個人的にはかなり満足している。


 エレノアも、ロックアルマルの肉がそこそこに気に入ったのか、ロックアルマルはなるべく灰にして殺さないようにするのだった。


 良かったねロックアルマル君。肉が美味しいから、炎に焼かれて死なずに済むよ(尚、普通に殺される模様)。



【ロックアルマル】

 岩のような硬い背中の鱗からその名が着けられた上級魔物。洞窟の中で暮らすにはあまりにも大きすぎる体と、地面に潜れない事もあって、なんで洞窟で生きてんの?と思われるぐらいに洞窟での生活に適性がない。が、強さはかなりのもので、体を丸めての突進は城壁を破れるだけの破壊力を秘めている。

 肉は食べられるが、ホワイトクレインに比べると劣る。それでもそこら辺の市販の肉よりは断然美味しい。

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