嫌です(即答)


 門番や兵士達と揉めたり、聖女様に街案内されたりと色々とあった翌日。


 俺達は五大魔境“へゲス”を調べる為に冒険者ギルドへと足を運んでいた。


 魔境に入る前は必ずどのような魔物が居るのかを調査する。


 もちろん、魔境の全てがわかる訳では無いが、魔物の種類が分かれば他にどのような魔物が存在するのかも想像が付きやすいのだ。


 そんな訳で、冒険者ギルドに立ち寄ったのだが........


「おはようございます。いい朝ですね」

「そうですね。聖女様。んじゃ、俺達はこの辺で........」

「ちょっとお待ち下さい。天魔様」


 何故か当たり前のように冒険者ギルドの前で待ち構えていた聖女。今日は護衛として二人の兵士を連れてきている。


 何でこの人さも当然のように俺達を待ってる訳?


 ちょっと怖いよ。


 俺は心底嫌そうな顔をしながら聖女の呼び止めに応じる。


 こちとら出来る限り早くこの街から出ていきたいんだよ。宿のオバチャンからも宗教勧誘されてんだからうんざりだ。


「オリハルコン級冒険者であるあなた方を見込んで、お話があります。一度ギルドマスターに挨拶をするついでに、私のお話を聞いてくれませんか?」

「宗教勧誘はお断りだ」

「私もお断りね」

「いえ、仕事の話です」

「........聞くだけなら」


 どうせ聞かなければ面倒なことになる。聞いた上で断ればいいやとあれは思いつつ、冒険者ギルドの中へと入っていた。


 冒険者ギルドの二階にさっさと上がり、ギルドマスターと顔を合わせる。


 流石のギルドマスターと言えど、この国の王他も言える聖女には頭をペコペコと下げる事しか出来ないようで、挨拶もそこそこに1つの部屋を貸してくれた。


 どうやらこの話にギルドマスターは入らない様だ。


 個人的には間に入って欲しいんだけどなぁ........この子と話すの嫌なんだけど。


 そう思いつつも、席へと座ると早速聖女様が口を開く。


 心做しか、護衛に立っていた兵士二人の視線が厳しい。


 熱心な信徒からすれば、俺とエレノアの態度が好ましくないのだろう。


「お二人は、五大魔境“へゲス”を知っていますか?」

「知っているよ。聞いた話だと、洞窟型の魔境なんだって?」

「えぇ、そうです。この国では二年に一度魔境に入って魔物を倒し、その成果を民衆に示すと言う催しがあります。人々を魔物からの恐怖から守るために、精鋭揃いの聖騎士が魔境に赴くのです」

「その後ろで護衛をしている彼らもその一員なのかい?」

「はい。この国屈指の実力者であり、私の心強い護衛です」


 この国屈指の実力者ねぇ........


 確かに強さは感じるが、オリハルコン級冒険者や師匠を普段から基準として見ている俺達からすれば彼らはハッキリ言って弱い。


 アダマンタイト級冒険者並の実力者も無さそうだし、正直魔境で狩りが出来るほどの戦力とはとても思えなかった。


 もちろん、この国全ての強者を見ている訳では無いので何も言わずに頷くだけだが。


「で、私達に何を依頼したいのよ」

「回りくどすぎましたね。単刀直入に言えば、この催しにお二方も参加して頂きたいのです。オリハルコン級冒険者である天魔様と炎魔様のお力添えがあれば、大きな犠牲を出すことなく催しを終えることが出来──────────」

「嫌です」

「へ?」

「嫌です。絶対に参加しません。是が非でも参加しませんし、たとえ神の天罰が下ろうとも参加しません」


 まさか、自分の提案がこんなにも食い気味に断られるとは思ってなかったのだろう。


 普段から作り笑顔をしている聖女が、素の顔をしていた。


 聖騎士と一緒に狩りをするだと?冗談じゃない。


 聖騎士と狩りをするのが嫌なのではない。聖騎士が少しでも戦えば彼らに経験値が渡るのが嫌なのだ。


 ピィーちゃんやエレノアならばまだ許さる。


 エレノアは俺の唯一の理解者だし、ピィーちゃんに至っては狩りを効率的に進めてくれる役割を果たしていたのだから。


 だが、元々好きでは無いカール教の聖騎士に経験値を渡すのは絶対に嫌である。


 俺が冷静さを失いかけているのを察したのだろう。聖女との会話は、エレノアが引き継いだ。


「ねぇ、聖女様。魔境での狩りでは魔物を誘き寄せたりするのかしら?もしかして、大量の魔物をおびき寄せる魔道具があったり?」

「い、いえ。魔物をおびき寄せる魔道具などと言う邪悪な物は使いません。それに、正直な話、魔境にも入らないのです」

「と言うと?」

「魔境にいる魔物ではなく、正確には魔境の近くにいる魔物を討伐しているのです。ではないと、かなり多くの被害が聖騎士団に出てしまいますから」

「........つまり、私達が倒した魔物を自分たちの功績にしようとした訳ね?」

「いえ!!決してそのような事は考えておりません!!オリハルコン級冒険者のお力添えもあって、普段よりも凶悪な魔物を倒せたと民衆には伝える予定ですから!!」

「あなた達も戦いに参加するつもり?」

「は、はい。少しは聖騎士達も戦わなければ格好がつきませんから。もちろん!!多額の報酬を用意します!!」


 魔物の集団をおびき寄せる術もなく、更には俺達の経験値まで持っていくだと?


 舐めてんのかこのクソ共が。


 金で経験値は買えねぇんだよ!!


 金で経験値が買えるんなら今頃生活費以外の全てを経験値に変えてるわ!!ふざけんじゃねぇよ!!


「ジーク、ジークー?」


 自分達が無能なのを差し置いて、経験値を寄越せとかどの面下げて吠えてんだこの豚共が。


 まだ経験値を落とすゴブリンの方が俺からしたら正義だよ。あ、人間も経験値を落とすんだったよな。


 俺のルールから外れてしまうが、こいつら全員経験値にした方がこの世の為になるんじゃないか?


 そうしたら、コイツらが少なくともゴブリンよりも有用だったって事が証明されるな!!よし、そうしよう!!


「ジーク、何考えているのか大体想像がつくけど、一先ず落ち着きなさい」


 エレノアはそう言うと、俺を落ち着かせるために優しく抱き寄せて頭を撫でる。


 いつも以上に優しく暖かいエレノアの手は、俺の心を僅かに落ち着かせてくれた。


 僅かに落ち着かせただけの為、まだ怒りが湧いているが。


「だってよエレノア。コイツら自分達の無能さを棚に上げて、俺達から経験値を奪おうしているんだぞ?アーランみたいに純粋な可愛げもなければ、ピィーちゃんのようにデコイにもなってくれない。全くの役たたずじゃん」

「なんだと貴様!!」


 あまりにも酷い言われように、1人の聖騎士が声を上げる。


 普段ならば心の中で言うだけだったし、口に出したのであれば謝っていたが、今回ばかりは虫の居所が悪すぎた。


「あ゛?やんのか?お前を経験値にしてやってもいいんだぞ?」


 俺は気づけば殺気を全開にし、周囲の窓ガラスが圧で割れる。


 かつて冒険者ギルド本部で剣聖と武神が殺気をぶつけあって、コップを割った事があったが、そんなレベルではない。


 座っていた高級なイスからは軋む音が聞こえ、壁にも亀裂が入り始める。


 俺達から経験値を奪う奴は皆敵だ。ぶち殺すぞ。


 殺気が渦巻く中、何とか気絶しないように正気を保つ聖女が口を開く。


 ちなみに、俺の殺気を受けていた二人の聖騎士は気絶して倒れてしまっていた。


「........な、何が気に食わないのでしょうか?」

「ある程度の魔物を倒すとレベルが上がるでしょう?」

「えぇ、そうですね」

「私達はその魔物を倒した時に得られる力........レベルが上がるまでに溜まる“何か”を経験値と呼んでいるのだけれど、この経験値って戦いに参加した人全てに配られるのよね。ジークはそれが嫌みたい」

「........そ、そんな理由で断るのですか?!」

「いい?聖女様。私達は金や名誉で動かない。全て経験値で物事を考えるのよ。正直、私もかなり不愉快だわ」


 ありえないと言いたげな顔で俺とエレノアを見る聖女。


 彼女の目には、俺とエレノアが話の通じない類人猿に見えていたのかもしれない。


 アレは自分の理解が及ばない者を見る目だ。


「交渉決裂ね。あぁ、機嫌を直して欲しいわジーク。今から魔境の魔物を調べないと行けないのよ?」

「うん。分かってる」

「........今日一日はダメねこれは」


 エレノアの言う通り、その日一日俺はとても機嫌が悪かった。





 ちなみに、エレノアが居なかったらこの場で聖女も護衛も死んでます。流石エレノア。ジークの事がよく分かってる。

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