五大魔境“ヘゲス”へ
次の目的地である五大魔境“へゲス”に向けた準備も終え、その翌日に盛大な宴をした。
この村に年単位で食えていけるだけの肉と金を落としていた俺達は、村な人々からかなり感謝されていたらしく、この村を旅立つと聞いた村人たちが送迎会を開いてくれたのだ。
盛大に肉や酒を食べたり飲んだりし、レーナが最後にもの凄く甘えてきたりもしてかなり楽しかったな。
アン婆やビル爺も俺たちの旅立ちは少し悲しく思っていたのか、酒が入ってからは手に負えないほど泣いていたり、とにかくてんやわんやで煩かった。
途中から何故か親父の話に置き換わり、花瓶を割った事を掘り返して怒っていたけれど。
そんな楽しくも少し寂しい送迎会を終えた翌日。
遂にこの村を離れる日が来たのである。
「お世話になりました」
「ほっほっほ。可愛い孫が旅立つとは、こうも悲しいのかねぇ。あのバカ息子の時は怒りの方が大きかったというのに........」
「確かにそうだな。あのバカ息子が消えた日は心配よりも怒りが勝っていたな。それはそうと、忘れ物はないか?」
「大丈夫だよビル爺。こういう旅を3年も続けているからね。今更忘れ物をすることもなければ、忘れ物をしたところで困ったりもしないよ」
村の南側にある出口で、俺とエレノアは村中の人々から見送られる。
こうして100人以上の人に見送られるのは、初めて故郷を旅立つ時以来だな。
あの時は英雄の旅立ちと言わんばかりの熱気と人の集まりだったが、今回はどちらかと言えば親愛なる友人の旅立ちに顔を出しに来たと言った感じだ。
親父の弟であるラッセンおじさんも少し悲しそうにしており、俺は親父よりはいい関係をここの人達と結べたと言えるだろう。
「気をつけていけよ。兄貴の息子とそのパーティーメンバーの訃報なんて聞きたくないからな」
「大丈夫だよラッセンおじさん。これでもオリハルコン級冒険者だからね。最低限自分の身を守れるだけの実力はあるつもりだよ」
「そこは心配してない。俺が心配してるのは、国家に殺されることだ。大きな力は時として邪魔者になる。カール皇国に行くんだろう?宗教国家出身の奴と何度か出会ったことがあるけど、何奴も此奴も話が通じない奴ばかりだ。しかも、自分の思想を押し付けてくる奴が多い。オリハルコン級冒険者ともなれば、間違いなく上の方に居る宗教関係者とも顔を合わせる事になる。上手く世渡りしてくれよ」
「アハハ。もし、向こうが俺たちの敵になるのであればその国は地図から名前が消えるかもね。なぁ?エレノア」
「そうね。私達がやったという証拠さえ残さなければいいのだから、やりようは幾らでもあるわ」
「お、おぉ。ともかく気をつけてな」
俺とエレノアが冗談で言った訳では無いと理解したラッセンおじさんは、若干引き気味になりながらも俺とエレノアの肩に手を置いて“頑張れ”とエールを送る。
親父の弟とは思えないほど似てない人だが、こう言うちょっとした動作は似ているな。
「今度来る時は兄貴とその嫁さんも連れてきてくれよ。兄貴の顔も久々に見たいしな」
「そうするよ。親父は1回アン婆達に怒られた方がいいからね」
俺はそう言いつつ、悲しそうな表情でこちらを見つめるレーナに目を向ける。
昨日、疲れるほど遊んだのだが、寂しさをまぎらわせてやるのは無理だったか。
「ジークの兄貴。エレノアの姐さん。行っちゃうんすね」
「そうよ。また戻ってくるから、その時まで強くなってなさい」
「エレノアの言う通りだな。この村を守れるぐらいには強くなっててくれよ?」
「........頑張るっす。ジークの兄貴が使っていた第八級魔術が使えるぐらいまで強くなっておくっす」
いや、そこまで強くなれとは言ってない。
第八級魔術を使えるほどにまで強いとなると、オリハルコン級冒険者並の実力があることになる。
正直な話、レーナは使えても第六級魔術が限界だろう。
レーナの潜在能力を知っているアン婆も、少し困った顔をしている。
それでも、本人のやる気と一掴みの運があればその壁を越えられるかもしれないな。
俺とエレノアが師匠とであった時のように。
俺とエレノアは涙をこらえるレーナに優しくハグをすると、ニッと笑う。
別れは笑顔で。
俺達の旅にある数少ないルールだ。
「元気でな。いや、レーナは元気がよすぎるから、お淑やかにな」
「ふふっ、そうね。レーナは元気すぎるわ。少しは落ち着きを持たないとね」
「私は普通っすよ!!確かにいつも元気っすけど、私にとってはこれが普通っす!!」
「ハハハ!!レーナが普通なら、この村の人間の殆どが病人になっちまう。もう少し落ち着を持たないと、アン婆とビル爺の寿命が縮むぞ?」
“アハハハハハ!!”と俺の冗談に村の人々が笑う。
アン婆もビル爺も歳の割にかなり元気で健康的なので、この程度で寿命が縮むことは無いだろう。
多分、後40年ぐらいは生きれるはずだ。
ビル爺、60過ぎてるのに、未だにこの村の若者よりも力が強いからな。
もしかしたら、親父も60歳になったとしても元気ハツラツかもしれない。
お袋は........うん。見た目が変わってなさそう。
そんなことを思いつつ、俺とエレノアは村人たちに背を向ける。
これ以上長居すると、離れづらくなる。
別れは悲しいが、また会えるのだ。
「ジークちゃん。エレノアちゃん。いつでも遊びに来なさいな。可愛い孫のことを、皆待っているからね」
「有用な魔術を教えて貰った事だし、この村はさらに発展するだろう。その時は、また来てくれよ?あのバカ息子も連れてな」
「兄貴によろしく。気をつけて」
「絶対強くなるっすよー!!」
最後の別れの言葉。
村中から感謝やまた来いと言う言葉が聞こえてくる。
いつまたこの場所に訪れるかは分からないが、少なくとも皆が生きている間にもう一度顔を出さないとな。
俺はそう思いつつ、黒鳥を出すとその背中に乗り込んだ。
「それじゃ、またな!!みんな元気で!!」
「お世話になりました。また何処かで会いましょう」
俺は手を大きく皆に向かって降ると、黒鳥に空を飛ぶように指示を出す。
黒鳥が漆黒の翼を羽ばたき始めると、皆の声がさらに大きくなった。
「いい村だったな。爺さんと婆さんに会えたし、従妹にも会えた。またこの村には立ち寄る事になりそうだ」
「そうね。滞在していて楽しい村だったわ。特にレーナと遊ぶのは楽しかったわよ」
「ハハハ!!たしかに楽しかったな。いつも俺達が遊んでもらう側だったけど」
「レーナはそんなこと思ってなかったみたいだけどね。私たちと同じく、遊んでもらう側だと思っていたと思うわよ?」
初めての兄貴分と姉御。
村長の孫ということもあって、同年代の子とどこか距離のあったレーナにとって外から来た俺とエレノアは特別な存在だったのだろう。
立場を気にせず、レーナの我儘に付き合ってくれる人なんてそうそういないだろうからな。
小動物の様に可愛く、人懐っこいレーナと遊ぶのはとても楽しかった。
ちょっと煩いし、元気が良すぎるのが欠点だが。
下を見れば、まだ村の人々が手を振っている。
俺は見えてないだろうな思いつつも、小さく手を振り返すと次の目的地である五大魔境“へゲス”に向かう。
「カール皇国。今まで宗教色の強い国には行ったことがないから、どんな国なのか少しだけ楽しみだな。絶対面倒事もあるだろうけど」
「少なくとも、この可愛い黒鳥ちゃんを使うのは辞めた方がいいわね。カール教が黒魔術を禁止しているかは知らないけれど、いいイメージを与えることは無いわよ」
そうじゃん。今の今まで気づいていなかったが、黒魔術で作られたこの黒鳥ちゃんは宗教国家的にはアウトじゃん。
ナイスだエレノア。
エレノアが言ってくれなかったら、このままカール皇国に行くところだった。
「........白魔術で作った鳥さんでも用意しておくか。属性を変えるだけだから大した手間もないし」
「その方がいいわね」
俺は、既にカール皇国に行くのが嫌になりながらも、経験値の為と言い聞かせるのだった。
これにてこの章はお終いです。いつも沢山の感想をありがとうございます。カオスなんとか君ようやく認知されたけど、認知のされ方が雑すぎる問題。君、一応この世界の極悪組織よ?自覚ある?
次は宗教国家のお話です。絶対トラブって魔境ニートになる未来が見える。
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