湖のヌシ


 この魔境のボスを狩ることを決めた翌日。俺とエレノアは湖の中心部にやってきていた。


 第四級風魔術の“飛翔フライ”を使って、湖の上空でヌシを探知する。


 魔力をソナーの様に水の中に浸透させ、その反響で返ってきた反応で見えない世界を探るのだ。


 ランクが下の方の魔物が相手だと気づかないが、感知能力が強い魔物相手だと気づかれてしまう。


 しかし、気づかれても問題ない俺たちからすれば恐れるものは無い。


 むしろ、“かかって来いよ”と言いたいぐらいだ。


「居たわね。こちらには気づいているけど、向かってくることはなさそうだわ」

「実力差を理解して出てこないのか、それとも単純に手を出された訳じゃないから放っているのか。どちらにしろ、最上級魔物以上の強さはあるだろうから気をつけないとな」


 探知している湖のヌシは、明らかにこちらに気づいている。


 湖の奥底でこちらを感知して目を向けていた。


 大きさは大体2~30m程。体が大きいと言うよりは、長いな。


「絶望級魔物ではなさそうね。こちらを見ている視線がそこまで恐ろしく感じないあたり、精々破滅級魔物辺りだわ」

「だろうな。絶望級魔物レベルなら、戦闘状態の師匠がこちらを見ている時の様な恐ろしさがあるはずだが、それがない。少なくとも、俺達が本気で苦戦する程の相手では無さそうで何よりだ」

「さて、そろそろ出て来てもらうとしましょうか。攻撃は任せるわよ」

「任せろ。エレノアこそ、俺も守ってくれよ?」

「任せなさい。ジークには傷一つ付けさせやしないわ」


 頼もしい相棒の自信満々な声を聞いた俺は、湖の奥底でこちらを見る湖のヌシに向かって雷魔術を放つ。


“出てこい”と言わんばかりに放たれた雷魔術は、湖の中に入っていくと湖全体を感電させて一瞬で生態系を破壊し尽くした。


 あらら、今の電撃で死んだ魚がプカプカと浮かんで来てるな。どうせなら魚も回収しておけばよかった。


 しかし、今から回収するのは遅すぎる。


 俺の電撃を受けた湖のヌシが、既に海面に向かって猛スピードで泳いできているのだ。


「来るぞ」

「どんな魔物かしらね?」


 ワクワクが隠せないエレノアと、次の魔術を放つために集中力を高める俺。


 レベルが90台に突入した事で思考力がかなり上がり、第九級魔術を放つ為の詠唱がさらに短くなったのだが、しっかりの集中しなければ失敗してしまう。


 まだまだ第九級魔術の練度は甘いな。もっと修行しなければ。


 そんなことを考えながら待っていると、海面が大きく膨れ上がりこの魔境のヌシが姿を現す。


「ギュェェェェェェェ!!」


 湖の色と同じ青色の背中と灰色の腹。


 鱗が何千と身体を覆い、生半可な刃物ならば傷一つ付けることすら出来ないであろう。


 緑色の瞳と牙の生えた特徴的な顔。二本の角と背中に生えた鬣の様な美しい毛並み。


 両頬に長く生えた六本の髭は、そこら辺の縄よりも太くて逞しい。


 コイツがこの魔境のヌシ。


 冒険者ギルドの魔物図鑑で見た覚えがある。


 本来は海の中に生息する“水蛇龍”の異名を持った“龍種”に属する破滅級魔物。


「シーサーペント。ワイバーンと同じく龍種の中では出来損ないと言われる破滅級魔物か。本来は海に住んでいるはずなんだが........どうやら湖にも生息していたんだな」

「綺麗な魔物ね。それはそうとして、破滅級魔物ならば経験値は美味しそうだわ。1つぐらいはレベルが上がってくれそうね」

「だな。さて、狩る──────────」

「ギュェェェェ!!」


 俺達が本格的にシーサーペントに攻撃を仕掛けようとした瞬間、大きな口を開いたシーサーペントは膨大な魔力を水のレーザーにして吐き出す。


 ゴゥ!!


 と、水が空気を切り裂いて俺たちを襲う。


 その速さは師匠を除く魔物達の中で一番早かった。


 水のレーザーが俺達飲み込む。


 しかし、俺とエレノアがダメージを受けることは無い。


「いきなり攻撃を仕掛けてくるなんて、躾のなってない魔物ね。危ないじゃない」

「ナイスだエレノア」

「守りは任せろと言ったでしょう?ジークは安心して魔術を放つといいわ」


 俺達を覆うは炎の盾。


 七枚の盾がシーサーペントの水のレーザーを受け止め、その全てを守り通す。


 第八級炎魔術“炎環渦巻く七つの花弁アイアス”。


 この魔術は師匠が“1つぐらい防御用の魔術を持っておけ”と言われてエレノアが作った魔術である。


 俺が前にいた世界の神話で語られた神の名を持つこの魔術は、第八級魔術ですら破ることが出来ないほどに硬く、それでいて攻撃にも転用できる優れもの。


 七つの盾を操ることが出来るので、普通に相手を盾で殴ったりとかできるのだ。


 防御用の魔術を作れと言われて、攻撃にも転用できる魔術を作ってる辺りさすがエレノアだ。


 防御の中にも火力を求めるとか頭がどうかしている。


 尚、名前は付けてくれと言われたので俺が勝手に付けた。


 神の名前だけど、まぁええやろ。普通に強いし、かっこいいし。


 エレノアが一撃を防いでくれたお陰で隙ができる。


 俺はその隙を逃す訳もなく、できる限り詠唱を省略した第九級魔術を行使した。


 シーサーペントが放った水のレーザーよりも膨大な魔力が天に渦巻き、巨大な魔法陣が空を支配する。


 シーサーペントもその魔力量と壮大さに圧倒され、俺の攻撃を止めるというやるべきことを忘れてしまっていた。


「天の輪、破滅の時。“天輪:四重奏リング:カルテット”」


 天から姿を現すは、天使の輪っか。


 半径1000mにも及ぶ大きな天使の輪が四つ。それらは綺麗に重なり合い、お互いが共鳴し始める。


 四重に重ねられた天使の輪は怒りを表すかのように不協和音を奏で、キィィィンと耳を塞ぎたく成程にまで甲高い音が数秒響いた後、天使の輪は大いなる地に向けて怒りを放つ。


 カッと小さな弾ける音と共に、視界が全て真っ白に染まる。


 サングラスを付けていてもなお、失明してしまいそうなほどにまで眩しく放たれた白銀の円柱は全てを跡形もなく消滅させた。


 気づいた時には全てがなくなり、視界が戻る頃には魔境にあった湖の半分近くが消え去っていたのだ。


「........お、レベルが上がった。これでレベル93だな」

「私も2つ上がったわね。これでレベル88よ。もうすぐでレベル90台に乗るわね」


 破滅級魔物を倒した事で得られた経験値は膨大で、一気にレベルが上がる。


 そして、見たくない魔境の現状に目を向けた。


「やべぇな。第九級魔術。自分で作っておいてなんだけど、ここまで破壊力がすごいとは思わなかった」

「湖に大きな穴が空いた為に、水がそこに流れ込んでるわね。この魔境の湖が小さくなるのは時間の問題ね」


 滝のように俺が開けた穴に流れ込む水。


 エレノアの言う通り、もうしばらくすれば、この湖の水が全てあのの中に入って深さがえげつない事になる湖が出来上がるだろう。


 ........と言うか、俺が空けた穴の底が見えないんだけど。


「凄まじい一撃だったわね。失明するかと思ったわよ」

「俺も思ったし、想像以上の破壊力だ。全てを消滅させただけじゃなくて、その余波で他の場所も吹き飛んでやがる」


 被害は湖だけでは無い。


 あまりにも膨大すぎる魔力の影響か、周囲の森まで吹き飛んでしまっている。


 まるで隕石が落ちた時にできるクレーターみたいだな。


 破壊力に特化した第九級光魔術。想像以上の破壊力と破壊範囲だ。


 余波まで含めればエレノアの獄炎煉獄領域ゲヘナよりも被害が大きい。


 これは暫く封印だな。人が居ないと言えど、魔境で使っていい魔術じゃない。


「なぁ、これ、グランドマスターに怒られるかな?」

「多分怒られるわね。でも、破滅級魔物と戦ってたから仕方がないって言い訳するのでしょう?」

「.......上手く言い訳を合わせてくれることを祈ってるよ」

「ふふっ、それはジークの心がけ次第ね」


 エレノアは楽しそうにそう言うと、俺の弱みを握った事を利用してちょっとしたお願いをされるのだった。


 添い寝の際に抱きしめてくれとか、エレノアも可愛いことを言うな。



天輪:四重奏リング:カルテット

 第九級光魔術。天に半径1km程の四つの輪っかを出現させ、その範囲全てを光によって消滅させる。その威力は破滅級魔物を一撃で葬り去るだけの威力であり、余波を含めれば半径5km圏内の殆どが吹き飛ぶ。また、輪の数を増やしたり減らしたりすることで威力の調整が可能であり、輪がひとつ増える事に階級が1つ上がる。

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