五大魔境“ケルト”
この村の人間が、師匠にアンデッドになる為の魔術を教えたことが発覚した翌日。
俺とエレノアはようやく五大魔境“ケルト”にやってきていた。
アン婆が言っていた通り、ケルトに向かう途中に小さな森があったものの、空を飛べる俺達からすればなんの障害にもならない。
徒歩で2週間近くかかるはずの道のりは、僅か半日足らずで辿り着けた。
「一週間近くは帰らないと伝えたから、暫くはここでレベル上げが出来そうだな」
「浅い水でおおわれた森。湿地帯だったかしら?動きづらそうで面倒ね」
「毎日足元がビシャビシャになるのは勘弁願いたいな。とはいえ、土魔術を上手く使えば足場は確保出来る。その内慣れるさ」
湿地帯と言えば平原のイメージがあるのだが、ここは異世界。木で覆われた湿地帯は、どちらかと言えばマングローブが生えている熱帯のように見える。
一先ず森の入口に降り立った俺達は、既にぐしゃぐしゃの地面に顔を顰めた。
冒険者である限り、このような環境でも狩りをする覚悟はある。
だが、覚悟があるのと気分が悪くなるのは別の話だ。
それなりに高価な装備を泥だらけにしたくないという気持ちが出てきてしまうのは、仕方が無いだろう。
俺もエレノアも人間である。
「既に地面が緩いわね。軽く踏み込んだだけで地面に穴が空くわ」
「歩く度に泥が跳ねる。綺麗好きって訳では無いけど、これはちょっと嫌になるな。一度泥塗れになればいっその事開き直れるけれども」
「........一緒に転ぶ?」
「嫌だよ。開き直れるだけで、べつに泥まみれになる趣味はないさ。エレノアがどうしても泥遊びをしたいお年頃なら付き合ってあげるけど」
「遠慮しておくわ。泥遊びをするより、火遊びをしていた方が楽しいもの」
いや、火遊びの方が危険だから泥遊びをしていてくれ。
サラッととんでもないことを言うエレノアに呆れつつも、俺は土魔術を使って自分達の足場を硬くする。
うん。これなら問題なさそうだが、歩く度に地面を硬くするのも効率が悪いよなぁ。
やはり多少の汚れは許容するしか無さそうだ。
こんなことに魔力を使う余裕があるなら、魔物を殺すために使った方が有意義である。
「確か、この森の奥に湖があるらしいな。空からは見えなかったから、かなり奥にあると思うけど」
「アンお婆さんやビルお爺さんが言っていたわね。その湖にはこの魔境のヌシが住んでいるらしいわよ。実際に見たことがないからそのヌシがどんな魔物なのか分からないけれど、御先祖様の日記によればとてつもなく巨大な魔物らしいわね」
「大きな魔物か........一体どんな魔物なんだろうな?」
「それは見てからのお楽しみよ。流石に絶望級魔物では無いと思えけれど、油断せずに行きましょう。久々の狩りなんだし、感覚は取り戻さないとね」
「だな。この森の浅い場所で出てくる魔物は把握してるから、見つけたら順番に狩るとしよう。師匠から教わった魔術や、新しい魔術の使用感も確かめながらな」
「ふふっ、楽しみだわ」
楽しそうに微笑むエレノアはそう言うと、自分の足元を土魔術で固めながら森の中へと入っていく。
やはりエレノアも女の子。泥汚れを身に纏うのは嫌らしい。
人に朝食を吐きかける様なやつなのにな。
俺は久々の狩りに胸を踊らせつつ、エレノアと一緒に五大魔境“ケルト”に足を踏み入れるのだった。
【五大魔境“ケルト”】
五大魔境の一つであり、浅い水が張っている森。最低でも上級魔物が住むこの湿地帯には大きな湖があり、そこには強大な魔物が住んでいると言われている。ドーリム帝国はかつてこの魔境を攻略しようとしたのだが、森に入って数時間で部隊がほぼ全滅。それ以降、この魔境に足を踏み入れる者は少なくなった。この森では貴重な薬草が取れるので、偶に森の浅い場所に人が来るが命懸けである。
歩きなれない湿地帯の森。
足元を常に土魔術で補強して歩いているため、魔力の消費が多少あるがこの程度は気にする程でも無い。
まぁ、ちょっともったいない気もするけど。
やはり俺としては、この魔力も狩りに使いたい。
しかし、森の中を効率的に歩くのであればある意味狩りに魔力を使っているともいえなくもないので我慢した。
森の中を歩くこと数分。遂に、目的の魔物達が俺達の前に現れる。
「グリーンアリゲーター。色でその強さが変わると言われている魔物だな」
「平べったい体格ね。いや、私たちよりは全然大きいのだけれども」
緑色の鱗と長い口。ゴツゴツとした肌はまるでゴーヤのようであり、その見た目は完全に鰐だった。
前世では水族館で見た事のある鰐だが、この世界の鰐はあそこまで可愛らしいものでは無い。
エレノアの言う通り平べったい体格をしているにもかかわらず、俺達よりも圧倒的に大きい。
身長は約1.5ぐらいか?体長はやく7m近くもある。
地球での世界最大の鰐が体長5mちょっとだったはずだから、格の違いがよく分かるな。
んで、鰐に身長で負けるとか悲しすぎるんだけど。
一体いつになったら俺の身長は伸びるんだ?あれか?お袋が美を保つ化け物だから、俺は身長でそれを引き継いだのか?
嫌だよそんな血筋。せめて160は欲しいよ。
前世で180あったのに、今世は150も無し。
余りにも、両極端が過ぎる。
エレノアの抱き枕にされるのは悪くないが、男としての矜恃というのがあるのだ。
よし、今度は身長を伸ばす魔術でも作るか。魔術に不可能は無いって師匠も言ってたし。
そんなアホなことを考えていると、グリーンアリゲーターが口を大きく開けて俺たちを丸呑みにしようと迫ってくる。
確かに凄まじい迫力だ。この魔物を倒せるだけの実力がない人からしたら、この光景は絶望的だな。
「ジーク、三体いるから一体は貰うわよ?」
「どうぞどうぞ。自分と相手の力量差も測れない躾のなってない魔物をぶっ飛ばしてやれ」
エレノアはそう言うと、影の中からトンファーを取りだしてクルクルと回しながらグリーンアリゲーターがやって来るのを待つ。
そして、グリーンアリゲーターの口の中に入る寸前で上に飛ぶと、その口を閉じろと言わんばかりに上から拳を振り下ろした。
「お口チャックってね」
ドゴォン!!
と、魔境ケルト全域が揺れたのではないか思うほどにまで大きな衝撃を与えるエレノア。
そんな勢いで殴られたグリーンアリゲーターはもちろん生きている訳もなく、口の上をベッコリと凹ませて息絶えていた。
「グガ........」
「グガガァ!!」
仲間が一撃で殺られたのを目の当たりにした二体のグリーンアリゲーターは、即座に俺たちに背中を見せて逃げ始める。
いい判断だが、俺が経験値をみすみすと逃すわけないだろう?
ここがゲームの世界なら別だったかもしれないが、お前ははぐれたメタルでもなんでもないんだし。
「開け」
何時でもどこでも地獄門。
地獄の門は開かれ、無数の闇の手がグリーンアリゲーター達を地獄の闇へと誘う。
体格が大きかろうが、いくつもの手で掴んでしまえば関係ない。
最上級魔物がどれほど抵抗しようとも破られない闇の手は、グリーンアリゲーターを掴んで門の中へと消えていく。
そしてその数秒後、力尽きたグリーンアリゲーターが地獄の門から吐き出された。
「初見の相手に使い慣れてない魔術を使うのはどうかと思ったけど、この程度なら遊んでも問題なかったな。最上級魔物程度じゃ今更どうこうなる訳でもないか」
「普通に殴っても勝てるのよ?一応魔術師である私達を殺せるほど強くはないわ。あ、レベル上がったわ」
「お、おめでとう。これで84か?」
「えぇ、この調子でガンガンレベルを上げていきましょう。久々のレベルアップだからか、とっても気分が乗ってきたわ」
こうして、俺とエレノアは五大魔境ケルト居る魔物達を次々に狩り始めるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます