呪いの村リベット


 黒鳥を村の前に下ろすと、早速いつものように門番をしていた30代ぐらいのおっさんに武器を構えられていた。


 いつもの事だから気にしてないが、やはりこの世界で空を移動する存在と言うのは怪しいらしい。


 もっとこの移動手段が主流になってくれれば、毎回こうやって敵意を剥き出しにされることもないんだがなぁ。


 空を飛ぶ方法は黒鳥以外にも多くあるが、そのどれもが最低でも第五級魔術以上。


 第四級魔術を使える時点で天才扱いされるこの世界で、最低ラインに立っている人はかなり少ないので俺の願いは叶うことはないだろう。


 アレだな。最悪自分で飛行機でも作ってこの世界に浸透させるか。


 仕組みとか全く分からないけど、俺がこの世界のライト兄弟になってやる。


 そんなアホなことを思いつつ、俺とエレノアは敵意がないという事を相手に伝えるために手を挙げながら門番に近づく。


 門番のおっさんは、親父と同じくオッドアイの人だった。


「何者だ!!」

「冒険者だよ。この村が父さんの故郷だと聞いて来たんだ」

「父さん........?この村の出身者の子供だと?」

「そうだよ。俺が村を間違えてなければね。とりあえずはいコレ。ギルドカード」


 俺とエレノアはそう言ってギルドカードを取り出して見せつける。


 見よ。俺たちこそが、伝説のオリハルコン級冒険者だ。


「ほぉ?金級冒険者か。とりあえず冒険者ではありそうだな。それで?親父の名前はなんて言うんだ?」


 ギルドカードを見たオッサンは鈍く光る金色を見て金級冒険者と勘違いしていたが、ちゃんとした冒険者だと分かったのか武器を下ろす。


 やっぱり、オリハルコン級冒険者のギルドカードはもっと分かり易い色にするべきだよ。


 俺もエレノアも金級冒険者と勘違いされて怒るほど器が狭い訳では無いが、訂正するのが面倒だ。


 今まで訂正した事なんて無いけど。


 俺はギルドカードを影の中に仕舞うと、親父の名前を告げる。


 小さな村だし、このおっさんを見るに親父と年齢も近そうだ。


 もしかしたら、幼少期のオヤジを知っているかもな。


「デッセンだ。赤と青のオッドアイと青い髪をしたイケてるオジサンだよ」

「デッセン........?デッセン........あぁ!!村長の所の息子さんか!!懐かしいなぁ。少しだけだが、あいつと遊んだことがあったな」


 どこか懐かしそうに目を細めるオッサンは、俺をまじまじと見るとどこか納得した表示をする。


 やはり親父のことを知っているのか。家出したとはいえ、親父は村長の息子。コミュニティの小さな村では、顔を合わせる機会も多かったのだろう。


「確かにそう言われるとデッセンの面影があるな。その青い髪はアイツの髪色とよく似てる。へぇ........結婚して子供を産んでたのか。目の色を見るに、この村の者とは結婚してないらしいな」

「残念ながら、俺は目の色が違うなんてことは無かったね。個人的にはカッコイイからオッドアイの方が良かったけど」

「ぷはははは!!辞めておけ。俺達のように目の色が違う人達は“普通”じゃないんだ。この村では同じ目の色のやつの方が珍しいが、街に行くと俺たちが異端。人は自分と違う存在を排除したがるものだから、苦労するぞ?」

「分かってるよ。こう見えても、色々な国を見て回ってきたからね。種族が人間と言うだけで差別されるような国にもいたから、オッドアイが他の街では大変なのは分かってるつもりだよ」

「若いのに随分としっかりしてるな。デッセンが君ぐらいの時は剣を振り回して村長よく怒られてたよ」

「ふふっ........ふふふっ」


 ........おいエレノア。お前、俺が実年齢よりも下に見られていることに気づいて笑っているな?


 親父が家を飛び出したのは12歳の頃と聞いている。


 今の俺は16歳。


“君ぐらいの歳”と言うには、少々離れすぎている。


 つまり、このおっさんは俺を12歳の少年だと思っているのだ。


 12歳の少年が金級冒険者になれるわけないだろ!!それに、世界を見て回ってたと言ったら、12歳よりも上だと気づけるだろうに。


 ........まさか12歳より下に見てないだろうな?冒険者になれるのは12歳からと決まっているんだぞ。


 こんな所で悪意なしに身長を弄られるとは思ってなかった俺は、笑いを堪えているエレノアに後でお仕置してやると思いつつ話題を逸らす。


 ちょっと笑いを堪えているエレノアも可愛いなと思ったのは内緒だ。


「父さんの両親........俺の祖父母である人はまだ生きているのか?父さんは“もしかしたら死んでるかもな”とか言ってたけど」

「ぷはははは!!村長夫妻にそんな口を聞けるのは世界広しどデッセンぐらいだろうな!!安心しな。村長達は元気に生きているさ。最近は弟子ができたのが嬉しいのか、俺たちよりもハキハキしてやがる。もう60過ぎてる爺さんと婆さんだと言うのにな」

「それは良かった。祖父母との初めての顔合わせが、墓場の前じゃなくて良かったよ」

「ハッハッハ!!その恐れ知らずな口はデッセン譲りだな!!隣の嬢ちゃんは娘だったりするのか?」

「いいえ。私はジークのパーティーメンバーよ。2人でパーティーを組んで旅をしているの」

「へぇ。ジークというのか。自己紹介が遅れたな。俺はボウ。この村の警備兵として毎日クソ退屈な門番やら、喧嘩の仲裁をしているんだ。何か困ったことがあったら頼ってくれ」


 ボウと名乗った門番のおっさんは、爽やかな笑顔を浮かべると握手を求めて右手を差し出してくる。


 俺はその右手を握り返しながら、自己紹介をした。


「俺はジーク。デッセンの息子で、冒険者だ。この村に滞在させて貰えるなら、また世話になると思うよ」

「ジークのパーティーメンバーのエレノアよ。よろしく」

「デッセンの息子なら問題ないだろ。村長夫妻もいい人だし、孫とそのパーティーメンバーとなれば断るどころか、むしろ“泊まっていけ”と言うだろうさ。村長なら今家にいるだろうから、送っていこう。きっとデッセンの愚痴を言いながらも、可愛がってくれるぞ」

「分かった」


 こうして、俺とエレノアは親父の故郷であるリベット村に足を踏み入れる。


 呪いの村。あの師匠が呪いを学ぶために足を運んだ村とは一体どんな村なのだろうか。


 俺は初めて会う祖父母やまだ見ぬ魔術に胸を踊らせながら、エレノアと一緒に村長の家に向かうのだった。



【ドーリム帝国】

 実力主義の国であり、弱肉強食を体現したかのような国。力こそが全てではあるものの、弱き者にも一応の施しはある。が、弱者が生きていくには少々厳しい。弱者から脱出する最も簡単な手段が冒険者であるため、冒険者が多く住む国でもあり、小国ではあるがアダマンタイト級冒険者も何人か抱えている。しかし、魔境ケルトに生息する魔物を倒せるほど強くは無いので、魔境は放置されている状態だ。



 ジークとエレノアがリベット村に着いた頃、ドーリム帝国の北側にある国境沿いでローブを被った者達が不当に国を跨いでいた。


「妖蟲が計画に必要な物を集められず、しかも行方不明。発明家も妖蟲が居ないからと言ってほかの研究を始めるお陰で、繰り上がりで我らの計画が優先されるようになるとはな。お陰で予算も潤沢に降り、しかも兵まで多く出してもらえるとなると妖蟲には感謝しかない」


 先頭を歩くアンデッドのような顔をした男はそう呟くと、口を大きく歪めて笑う。


 元々この計画は持っと後になってから始める予定だった。


 しかし、計画の根幹にいた妖蟲が失踪したがために、急遽こちらの計画を動かすこととなる。


 組織も一枚岩ではない。彼は出世欲が強く、幹部である今に満足していなかった。


 そのため、転がり込んできたこのチャンスを絶対にモノにしてやると言うやる気に満ち溢れている。


「まずは呪いの一族から。奴らの血を使って、呪いで国を滅ぼすのだ」


 混沌たる帝カオスエンペラー幹部“呪殺”カルトは、そういうとできる限り早く目的地に辿り着けるように先を急ぐのだった。

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