行ってきます


 荷造りも終わり、遂に街を旅立つ日がやってきた。


 最初は長くても二ヶ月ほど滞在するつもりだったのだが、戦争のせいでかなり時間を食ってしまったな。


 今のレベルは89。三ヶ月以上も放置狩りしてレベルが1つしか上がってないのだから、普段の狩りが如何に重要なのかがよく分かる。


 エレノアに至ってはレベルが一つも上がってないし。


 ココ最近は狩りが出来ずにストレスが溜まっていたのか、暇つぶしに近くの森でゴブリンやらレッサーウルフやらを皆殺しにして回っていた。


 今や、ゴブリン討伐の依頼をギルドで見かけることが無くなってしまった程である。


「気をつけてな。オリハルコン級冒険者様に言う言葉では無いかもしれんが、息子とそのパーティーメンバーを心配するのは親の性だ」

「死なないように頑張りなさい。それと、人を殺す時は躊躇ってはダメよ?特に盗賊なんかは人と思わない事ね」

「フハハ........旅立つ子に掛ける言葉が“人を人と思うな”とは、相変わらずの英才教育だな。ともかく、気をつけていくといい。世界は広い。まだ見ぬ未知が、2人を祝福してくれるだろう」


 エドナスの街にある東門。


 そこでは旅立つ俺達を心配する両親と師匠が見送りに来ていた。


 以前の様に街全体で見送られる訳では無い。


 今回は戦争が起こったが為にゼパード達冒険者が殆どいないし、街の人達にも“お世話になりました”と旅立つ事も告げていない。


 この街は暖かく優しいが、流石に街全体で旅立ちを見送られるのは一度でよかった。


 心配しつつも、“うちの子なら大丈夫やろ”と顔に書いてある両親と、そもそも心配していない師匠。


 俺はそんな3人に笑顔を向け、別れを告げる。


「心配しすぎだよ。今なら師匠クラスの相手でも逃げることは出来るんだから」

「そうね。師匠と出会った時はボコボコにされたけれど、今なら逃げるだけならできるわね」

「フハハ。だろうな。私と言えど、2人を捕まえるのは骨が折れる。しかし、油断は禁物。気をつけろ」

「分かってるよ。師匠も父さんと母さんをよろしくね........お金に困ってたら渡した“アレ”を出していいから」

「分かっている。子から恵まれる親の気持ちも分からなくは無いが、私は弟子達の味方なのでな。あの大金はキッチリと保管させて貰おう。例え神が手を出そうとも取れぬように厳重にな」


 いや、そこまで厳重に守れとは言ってないんだけど........


 やる気に満ち溢れている師匠に若干の不安を覚えながらも、頼もしいことに変わりは無い。


 この街に帰ってきて早々、俺達は親に今まで稼いできたお金を困った時のためにと渡そうとしたのだが、両親は首を絶対に縦に振ることは無かった。


 自分の息子に恵まれると言うのが、俺の両親にとっては嫌だったのだろう。


 後、金額も半端じゃなかったと言うのもあるだろうか。


 俺だけではなくエレノアも“金を出す”と言って聞かなかったので、総額で金貨数千枚近くのお金を親に渡そうとしたのだ。


 元々物欲が少なく貯金しかしてなかった俺達。


 その貯金額は相当なもので、お互いに半分ぐらいの金を出し合ったらこんな金額になってしまったのである。


 金貨数千枚って下手したら街一つ買えるよな。


 ........もしかして魔境とか買えたりしない?私有地なら全部ぶっ壊しながら狩りをしても怒られないやろ。


 金貨数枚なら両親も受け取ったかもしれないが、あまりにも大金すぎる為に両親は受け取るのを拒否。


 困った俺たちは、もしもの為に師匠に金を預けることとなったのだ。


 師匠がこの金を着服する可能性もあったのだが、師匠はあぁ見えて超大金持ち。


 この前、持っていた金をチラッと見せてもらったのだが、少なくとも俺達の全財産を軽く超えていた。


 多分、やってますね。


 魔術の本を盗むついでに、国家予算まで盗んでるに違いない。


「あ、そうだ。ジーク。もし、村に寄る事があったらこの手紙を俺のお袋と親父に渡してくれ。もしかしたら既に死んでるかもしれんが、これで村には問題なく入れるだろうしな」

「縁起でもないことを言わないでよ父さん........きっと生きてるよ。俺も爺さんと婆さんの顔は見てみたいし、必ず寄ることにするよ」

「俺の親は村長だから、ある程度の融通が効く。生きてればの話だけど、きっと孫だと分かったら仲良くしてくれるぞ」

「え?父さん村長の息子だったの?」

「あぁ、だから剣をこっそり小遣いで買って村を飛び出せたからな。呪われなくて良かったぜ」


 アハハハハと笑いながら、頭を掻く親父。


 おい、後出し設定みたいにポンポンと俺の知らないことを言うんじゃねぇ。


 それも初耳だぞ。親父、小さな村とはいえ、いい所のお坊ちゃんじゃないか。


「あら、小さな村出身とは聞いていたけど、村長の息子だったの?初耳だわ」

「言ってないからな。冒険者に限った話では無いが、基本的に皆過去の事は話さないだろう?」

「そうね。私もデッセンに出身を詳しく話した覚えは無いし」

「だろう?そんなもんさ。“今”が分かれば、過去はあまり気にしない。それが冒険者さ。殺人鬼とかは別だけど」


“殺人鬼”のワードに反応したのか、師匠が僅かに顔を逸らす。


 師匠、自分がエルダーリッチになるためにかなりの数の人を殺してるからな。


 殺人鬼と言われても仕方がないぐらいには。


「師匠、顔が少し青いわね」

「エルダーリッチらしい不健康な顔色の悪さだ。まぁ、昔のことを考えれば........なぁ?」

「そうね。師匠の過去は嘘と偽りだらけだけど、どうやらエルダーリッチになる為に犯した罪は事実のようね 」

「全く、とんでもない師匠を持ったもんだ。弟子が苦労するわけだよ」

「全くね。師匠は少し反省した方がいいわ」


 3人には聞こえない音量で話す俺達。


 昔は殺人鬼だったかもしれないが、今は弟子が好きな師匠だ。


 親父の言う通り、大事なのは“今”であり“過去”では無い。


 とはいえ、やり過ぎていたが。


「さて、そろそろ行くよ。また近くを通りかかったら寄るからね」

「お世話になりました」

「何時でも来てくれ。と言うか、実の息子と娘のように思っている子が帰ってきて嫌な顔をする親は居ないさ」

「エレノアちゃん。ジークを頼むわね。馬鹿なことをやろうとしていたら、殴り飛ばしていいわよ。ジーク、エレノアちゃんに迷惑をかけないようにするのよ。エレノアちゃんに愛想尽かされて帰ってきた日には、1週間お説教だからね?しかも、ゲンコツで」

「フハハハハ!!シャルル殿は厳しいな!!この2人が分かつ時があるとすれば、それは死する時だけだ。死なないように頑張るといい。こっちの事は任せてな」

「........エレノア、もう少し真面目に頑張るわ」

「ふふっ、ジークもシャルルさんには敵わないのね。安心しなさい。私がジークの傍を離れる時なんて無いわ。死ぬまでそばに居てあげるわよ。まぁ、老衰で死ぬことは無いから、死ぬ時は戦いの最中でしょうけど」


 笑顔でとんでもないことを言うお袋に怯える俺を見て、心の底から楽しそうに笑うエレノア。


 エレノアに愛想尽かされた日には、生きていける自信が無いよ。


 良くも悪くも、俺はエレノアに依存してしまっている。


 エレノアの居ないレベリングとか、絶対楽しくないだろうしな。


 俺はそんなことを思いながら、3人に背を向ける。


 次は“五大魔境”ケルト。


 親父の故郷もある場所であり、久々の狩りだ。


「それじゃ、行ってきます」

「行ってきます。また帰ってきますね」

「行っらっしゃい。気をつけろよー」

「行ってらっしゃい。気をつけてね」

「フハハハハ!!行ってくるがいい!!土産話を楽しみにしているぞ!!」


 初めて旅に出たあの日と同じように、快晴の空の元そよ風に吹かれながら俺とエレノアは次なる目的に向かって街を出るのだった。




 これにてこの章はお終いです。いつも感想ありがとうございます。今回は感想多くて嬉しかったです。

 ジークとエレノアが戦争で暴れる話と思った?残念。みんな大好きお師匠様が暴れまくる回でした。師匠メインの章をもう一つぐらい書きたかった。

 次はまた狩りに戻ります。割と初期から出てるのに、未だに主人公達に認知されてない組織にも頑張ってもらわないと......

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