忘れた頃に放置ゲー


 師匠が我が家にやって来てから一週間が経過した。


 お袋に気に入られ、親父にも認められた師匠は毎日を楽しそうに過ごし、俺達の魔術研究にも手を貸してくれる様になっている。


 どうも、俺が“転移”魔術の研究をしているのを見越してその手助けとなる理論を色々と考えてくれていた様で、おかげでかなりの進歩があったと言えるだろう。


 流石は師匠。空間魔術が十八番と言うだけあって、俺の知らない理論がバカスカ出てくる。


「それにしても、この街は平和でいいな。貴族共の権力争いに巻き込まれることもなければ、街中で暗殺される心配もない。実に平和だ」

「確かにこの街が平和なのはそうだけど、師匠とは規模が違いすぎるぞ」

「そうよ。宮殿暮らしだった頃と比べないで欲しいわ」

「フハハ。それもそうだな。まさか、この美貌に一目惚れする輩も出てくるとは思って無かったが」

「あぁ、ゼパードのおっちゃんも可哀想だな。エルダーリッチに恋をするなんて........」

「救いようが無いわね。私達が何を言っても聞かないし。師匠も罪作りな女ね」

「フハハハハ!!それだけ私が美人ということよ!!まぁ、老いが既に出始めているはずのシャルル殿を見てると悲しくなるがな」


 師匠がこの街に来てから2日後、店では俺達の師匠を一目見ようと大量の人が集まっていた。


“ジークとエレノアが知らない美女を連れている”という噂が広がり、その美女を一目見ようと店に押しかけてきたのだ。


 その美貌の裏がエルダーリッチと知らなければ、師匠は本当に普通の美人。


 中には師匠に惚れる輩も多い。


 その中でも一際“ガチ”だったのがゼパードであり、どうやらゼパードの好みのど真ん中を貫いてしまったようであった。


 流石のこれには俺達も困るしかない。


 ゼパードに真実を告げようかとも悩んだが、師匠は“問題ないから私に任せておけ”と言ったので放置してある。


 師匠は元宮廷に仕えた魔術師。貴族からのお誘いもあったと聞くし、その断り方も知っているのだろう。


 エルダーリッチとバレると面倒になるので上手くやって欲しいとは思うが、ゼパードはこう言う恋愛要素に関してはとことんハズレくじを引くな。


 俺達が旅立つ前にもどこかの店の看板娘にフレらてたみたいだし。


 ゼパードも30過ぎのおっさん。そろそろ身を固めて欲しいものだ。


「そうだ師匠。戦争に関してはどうするんだ?」

「フハハ。幾ら私と言えど、戦争が始まらなければどうしようも無い。今は大人しく待つしかないだろうな。私一人でアドルス王国を滅ぼすことも容易だが........私と言う抑止力を見せつけるには少々物足りん。まぁ、ここら辺は師である私を信じろ。戦争においては、私の方が圧倒的に経験が上だ」


 機嫌よく鼻を鳴らす師匠。


 今、サラッと“一人で国を滅ぼせる”とか言ったな。


 この人やべぇと思ったが、よくよく考えれば俺もエレノアも一人で国を滅ぼそうと思えば滅ぼせる。


 それこそ、昼夜問わず闇狼やら黒騎士を流し込めば簡単に国を滅ぼせるだろう。


 人は休息がなければ戦えない。


 エレノアだって、獄炎煉獄領域ゲヘナを乱発すればあっという間に国が滅ぶだろうしな。


 そう考えると、絶対的な抑止力として国を守ってきた師匠が国1つ簡単に滅ぼせるのも納得いく。


 前々から思っていたが、師匠って割とラスボスなのでは?


 そんなことを思いつつギルドで滞っていた依頼を片付けていると、俺の体に変化が訪れる。


 お、この感覚は........


「どうしたのかしら?ジーク」

「レベルが上がったな。帝国のダンジョンで天使達は頑張ってくれているらしい」

「フハハハハ!!相変わらずあの“放置ゲー”とやらをやっているのか。私の弟子はレベル上げになると全くと言っていいほど手を抜かんな」


 故郷に帰ってきてからしばらく上がってなかったレベルだが、どうやら天使達は休まず経験値を稼いでくれていたらしい。


 今の俺のレベルは89。もうすぐレベル90台に突入だ。


「こうして、狩りもしてないのに勝手に経験値が貰えるのは放置ゲーの利点だよな。今までずっと放置狩りしていながら魔物を狩ってたけど」

「私も天使を使えるようになれたら少しは効率が上がりそうなのだけれどね。天使を放つよりも今は狼に頑張って貰った方が効率がいいのよ。どうにかならないかしら?」

「こればかりは魔力量を増やせとしか言えんからな........師匠も放置狩りとかやってるのか?」

「やってないわ。お前達ほど私は狂ってないのでな。それに、今更レベルを上げる気にはなれんよ」


 狩りをしていなくとも経験値が入り、レベルが上がる。


 やはり放置ゲー理論は素晴らしい。


 旅に出てからほぼずっと狩りをしていたのでその恩恵を忘れがちだが、本来はこうして狩りをせずとも楽にレベルを上げるために作った物なのだ。


 24時間365日(この世界は360日)何もせずとも経験値を稼いでレベルを上げてくれる。


 それが放置ゲーの利点であり、楽しい部分でもある。


 特に、この世界は24時間以内にログインしないと狩りが止まるとかないからな。


 懐かしいなぁ。


 ゲームにもよるが、基本的に放置ゲーは一日1回はログインしないと翌日の経験値を稼いでくれないのだ。


 どうせログインするならデイリーもやらないとという気になり、最初の内は真面目にデイリーもやるのだが段々とそれも面倒になって最終的にはアンインストールする。


 ゲームを引退するのにありがちな事だ。


 最初は楽しいが途中から作業へと変わり、徐々に最初の頃の楽しさを忘れてゲームを辞める。


 俺もどれ程のゲームを初めて辞めたか数えきれない。


 俺がこうして楽しくレベル上げできているのは、多少作業になろうとレベル上げを続けられているのは、きっとエレノアのお陰だろう。


 一緒にゲームをやる仲間がいる。それだけで、ゲームと言うのは長続きするのだ。


 特にMMOとかは、一緒に狩りをしてくれる固定パーティーが居てくれると楽しい。


 ただの作業の中にある会話。武器防具の厳選の話、レア武器を取った時の嬉しさ。


 そういうものは、一緒に共有する仲間がいるから楽しいのだ。


 放置ゲーも同じ。


 一緒に話せるギルドメンバーがいるから楽しいのである。


 まぁ、“俺はソロの方が楽しい!!”という人もいるだろうが、俺はどちらかと言えば固定パとかを組む方が好きだな。


「エレノアが相棒で良かったよ」

「........師匠、ジークが壊れたわ。なんの脈絡もなく私を褒めてくるのだけれど」

「ジークが壊れているのは元からだ。そう言いつつ随分と嬉しそうだな?」

「もちろん嬉しいわよ?私もジークが相棒で良かったとも思っているわ。でも、なんの脈絡もなく急に言われると頭の心配をするわよ」

「フハハ。それは確かにそうだな。おい、ジーク。自分だけの世界に入ってないで戻ってこい」


 おっと、前世の記憶に浸りすぎたな。


 俺はレベルの上がった自分の体を確かめる様に、軽く拳を突き出す。


 うん。やはりキレがいい。


 今なら師匠に........勝てる気はしないな。


「そう言えば、二人のレベルはどれ程にまで上がっているのだ?再会が嬉し........再会した後も忙しくて聞けなかったからな」


 本来ならレベルは命の次に大事とまで言われる情報。


 しかし、相手が師匠ならば本当のことを話すしかない。


 どうせ嘘をついてもバレるだろうしな。


「俺は89だな。もうすぐ90だ」

「私は83ね。ジークのような効率のいい放置狩りができてないから、ここからさらに離されてしまうわ。次の魔境で頑張らないと」

「フハハ.......相変わらず化け物じみたレベルを持っているな」

「そういう師匠は何レベルなんだ?」

「それは秘密だ。弟子にレベルをバラして失望されたくないからな」

「と言うことは私達より低いのね。ん?私たちよりもレベルが低いのに私達よりも強いという事かしら?」

「フハハ!!それはご想像に任せるよ」


 師匠はそう言うと、豪快に笑うのだった。





Qジークマッマは人間じゃないの?

A人間です。若く見えるのはジークマッマがバグってるだけです。

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