強き街の人々


 リベトの街が魔物に襲われてから一週間が経った。


 とてつもなく濃い血の匂いを撒き散らす魔物の死体も既に片付けられ、まだ完全では無いにしてもそれなりに街の復興が進んでいる。


 オーガ達に破られた城門の修復が終われば、リベトの街は元通りになる事だろう。


「まだ血の匂いが微かに残ってるわね。あれだけ念入りに掃除したというのに」

「それは仕方がないさ。あれだけの魔物が居たんだ。むしろ、たった1週間でここまで綺麗に掃除出来たことが凄いよ」

「それもそうね。街の中はともかく、街の外の掃除は面倒だったわ。血が地面に入り込んで匂いが取れないんだもの」

「それも魔術である程度は解決出来る辺り、魔術の便利さを実感するがな」


 いつもの宿で朝食を食べながら話す俺達。


 朝早くからおばちゃんが気合を入れて作ってくれたスープに、少し固めのパンを付けて柔らかくしながら口へと運ぶ。


 やはり、この宿のおばちゃんが作るスープがいちばん美味いな。格別美味しい訳では無いが、どこか安らぎを感じる味だ。


 大量に出た魔物の死体は全て冒険者ギルドに運び込まれ、使い道のある素材だけを取り除いてあとは焼却されている。


 焼却に関してはエレノアが引き受けてきた。


 圧倒的火力でまとめられた魔物の死骸を焼くのが楽しかったのか、少し笑みがこぼれて他の冒険者に軽く引かれていたことを除けば問題なく処理できただろう。


 また、街の中と外に流れた血は水魔術を使って洗い流した。


 これが地球ならば、水道から水を引っ張ってくるか雨を待つしかないが、この世界には魔術という便利な技術がある。


 魔術を使える人達が水を生成し、魔術を使えない人が血を洗い流す。


 そして、濃い血の匂いは風魔法で吹き飛ばした。


 しかしながら、頑固な魔物の血の匂いは1週間経っていてもまだ残っている。こればかりは時間が解決してくれるのを待つしか無さそうだ。


「結局、ハイオーガが原因だったのかしらね?」

「ギルドマスターの話ではそうなっているな。森の奥にいたオーガの中から進化した個体が、周辺のオーガ達を束ねてこの街に仕掛けてきたらしい。しかも、最下級魔物から中級魔物をあらかた巻き込んでな」

「いい迷惑ね。大人しく森で王様ごっこをしていれば安らかに過ごせたでしょうに」

「魔物にとって人間ってのは邪魔な存在であり、資源の宝庫なんだろ。人は食料に、建物は雨風を凌ぐために。しかも、人が育てた食料もあるとなれば襲わない理由が無い。襲わないとしたら、人間には敵わないと理解しているからなんだろうな」

「でも、力を持って自分が強くなったと錯覚した。私たちも気をつけなきゃね。明日は我が身よ」


 真剣な顔でそう言いつつも、朝食を食べる手を止めないエレノア。


 エレノアの言う通り、いくら強くなろうとも上には上がいるものだ。


 人間の中では最強になったとしても、その中に魔物を混ぜれば最強とは程遠くなるし、この世界に存在する全生命体を対象とすれば弱者になるかもしれない。


 冒険者ギルドの最高戦力なんて持て囃されるオリハルコン級冒険者だが、所詮は冒険者ギルドという小さな枠組みでしかないのだ。


 俺達も気をつけなければ、オーガ達のように狩られる可能性だってある。


「気をつけなきゃな。毎回負ける相手が師匠のような変わり者とは限らないし」

「アレは私たちの運が良かったのよ。私達には冒険者が向いてるわ」

「だな。下手すれば、あそこで俺たちの旅は終わってた」


 エレノアと楽しく会話しながら朝食を食べていると、調理場からフライパンと返しを持ったおばちゃんが出てくる。


 何事かと視線を向ければ、おばちゃんはニコニコしながら俺達の皿に焼いた肉を乗せた。


「おばちゃん、またかい?貰えるのは嬉しいが、経営も考えてくれよ?」

「そう言わないでくれよ天魔様。この街を守ってもらった礼としては安いぐらいさ。天魔様と炎魔様が居なかったら、今ごろアタシはここで飯を作ってられなかったのだからね」

「よく言うよ。おばちゃんの事だ。どうせそのフライパンでオーガの頭をかち割って高笑いしているさ」

「アッハッハッハッハッ!!旦那をコレで殴るのは得意だが、オーガのようなデカイのを殴るのは慣れてないのさ。ともかく、ここにいる間はサービスさせておくれ。リベトに住む街の人達が恩知らずだと思われちゃいけないんでね」

「私達は仕事でやっただけだけど、その好意は有難く受けとっておくわ。これ美味しいわね」


 俺がおばちゃんと話している間に、あっという間に肉を喰らい尽くすエレノア。


 食うのが早すぎる。


 魔物襲撃事件があって以降、この宿のおばちゃんは事ある毎にサービスをしてくれるようになった。


 感謝の表れだと思い最初は受け取っていたが、その肉がそこそこ高い(ほかの肉と比べると)インパクトボアであり、しかも毎食サービスしてかれるとなると不安になる。


 気持ちは有難いが、このサービスのしすぎで経営が傾くとかやめてくれよ?何気にこの宿は気に入っているんだから。


 それに、臨時報酬をギルドマスターから既に受け取っている。


 しかし、この街の人達は次々に俺達に感謝を述べては物をくれるのだ。


 最近は適当に街をぶらつくだけで、両手いっぱいの食料やら何やらを持っている事がある。


 お陰で食費ゼロで昼食を食べることが出来るのだが、毎回こんなに新鮮な食材で昼食を食べていると舌が肥えてしまいそうだ。


「今回の襲撃を受けて城門は全て取替えるらしいし、また平和な日がやってくるねぇ。アタシのフライパンの殴り先がなくて困るよ」

「ハハッ、旦那さんがいるじゃないか。そのフライパンで尻を叩いてるんだろう?」

「それはいつもの事さ。そういえば、天魔様達も料理をしていたね。どうだい?これを機に武術用のフライパンを作ってみたら」


 武術用のフライパンってなんだよ。そんなオーダーメイドのフライパンがあるのか。


 少し興味もありつつも、“フライパンはそもそも料理器具で、殴るもんじゃない”と思い直した俺は“考えておくよ”とだけ言って朝食を食べ終える。


 おばちゃんも朝の忙しい時間帯のため、俺達と話し込む訳にもいかず厨房へと戻って行った。


「ご馳走様。さて、狩りに行くか」

「万が一の為の保険はあるし、心置き無く狩りに行けるわね」

「狩りの効率は少し落ちるが、天使を一体街に置いてるからな。定期的に確認しながら行くとしよう」


 今回の魔物の襲撃を受けて、俺は天使の一体を街に忍ばせておくことにした。


 コレで街の異変を素早く見ることができるし、何より天使は強いので街の守りに貢献出来るだろう。


 今回のように、紙一重のタイミングを狙うこともない。


「狩りの効率も大事だけど、街の安全も大事よ。帰って休む場所が無いと困るわ」

「全くだ。特にこの街は魔物の襲撃が多い。天使一体だけだが、上級魔物が何十体と出ない限りは安全さ」

「嫌な街ならともかく、いい街は守りたいわ。さて、行くとしましょう。今日はレベルを1つ上げたいわ」

「俺も上げたいな。まだレベル79で止まってるし」

「........もう少し待っててくれてもいいのよ?」

「残念ながら天使たちは加減を知らないんだ。頑張って追いついてこい」

「無茶言うわね。四六時中上級魔物を狩り続ける天使の効率には勝てないわ」


 エレノアはそう言うと、俺の頬を軽く突きながら優しく微笑む。


 街の復興はもう手伝わなくていいとギルドマスターに言われているし、今日からまた帰ってくる時間を遅くしよう。


 俺はそう思いながら、魔境へと向かうのだった。



【ハイオーガ】

 オーガの上位種であり、オーガ立ちを束ねることの出来る上級魔物。オーガよりも一回り大きく、単純な肉体戦闘で言えば上級魔物の中でも上位に入るが、あまり賢くない為戦ってみると案外弱い(それでも普通に強い)。

 ジークと戦った際は、一瞬で首を切られて死んだ。

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