リベトの街への襲撃


 その日も朝早くから魔境に出向き、いつもの手順で魔物を狩る。


 最初こそ手探りだった狩りも、やり方さえ分かれば楽しい程に魔物を狩り尽くすことが出来るのだ。


 今日の天気は曇りだが幸い雨は降っていないので、雨の鬱陶しさもなくストレスを感じることは無かった。


「これで良しっと。ダンジョンでの狩りになれると、魔物の死体回収が物凄く面倒に感じるわね」

「それは仕方がないさ。ダンジョンは素材だけを残して消えてくれるが、魔境にそんな便利機能は着いていないんだからな」

「魔境も便利機能をつけて欲しいわ........解体は冒険者ギルドが請け負ってくれるとは言え、この数の魔物を仕舞うのも大変よ」

「それはそう。特にインパクトボアはデカイからな。影の中に仕舞うのも一苦労だ。なんちゃってマジックバックの中に仕舞うにはデカすぎるから、俺とエレノアの影の中に仕舞うんだが、それでも大きすぎるから分ける必要があるし」

「影の中に仕舞えなかったらと思うとゾッとするわね。普段冒険者達はどうやって素材を運んでるのかしら?」

「そりゃ、普通に解体してできる限り価値の高い部分を持って帰るんだろうよ。俺達のようにレベル上げが目的でお金は次いで程度に考えているやつはほとんど居ないだろうし、価値の高い素材を持って帰ればそれだけで一ヶ月とか生きていけるんだからな」


 自身の影の中にインパクトボアの死体を詰め終わったエレノアは、疲れたと言わんばかりに木の根に腰を下ろす。


 戦闘のときですら掻くことの無い汗をほんのりと掻くエレノアは、どこか妖艶で大人びていた。


 ちなみに、木の根に座る前にはきっちりエルダートレントかどうかを判別するために火を近づけている。


 座ろうとしたら魔物でしたなんて笑えないからな。今の俺たちなら余裕で対処は出来るだろうけど。


 俺は魔物を仕舞うのに疲れたエレノアに、魔術で生成した水をコップに入れて渡す。


 影の中に何かを仕舞う魔術“闇沼”の維持にはかなりの魔力がいるし、疲れるよな。


「水でも飲むか?」

「ありがとう。それにしても、この魔境は本当に広いし魔物が多いわね。上級魔物が当たり前のように居るのはともかく、その数まで多いとなると流石は魔境と言いたくもなるわ」

「俺達からすれば、金銀財宝の入った宝箱だけどな。これだけ魔物を狩っても未だに数が減っている気がしない。最近はギルドに持ち込む魔物の量が増えすぎて、とんでもない値崩れを起こしているらしいぞ」

「そりゃそうでしょ。鉄や金属なら使い道が沢山あるし、いくらあっても困らないけど毛皮を多く持っていても困るだけよ。金属に比べれば使い道が少ないから、さばく量にも限界があるわ」


 俺達が毎日狩るインパクトボアの数は数千体。


 流石に冒険者ギルドにその数全てを持ち込むと困ると思うので、100~200体程度しか持って来ていないが、それでもかなりの数である。


 それをほぼ毎日やるとなれば、解体をする冒険者ギルドの職員の目も死ぬし値崩れを起こすに決まっている。


 一応、毎回差し入れを持っていくようにしてはいるのでそこまで嫌そうな顔はされないが、それでも多少は嫌な顔をされるとなれば申し訳なさも出てくるだろう。


 今となっては、冒険者ギルドが新人冒険者や低ランク冒険者に解体の依頼を出すほどだ。


 しかも、インパクトボアの肉を報酬に出している。


 上級魔物の肉なんて滅多に食べられないし、何より安全に金を稼げるとなれば駆け出しの冒険者や低ランク冒険者は飛びついてきてくれるのだ。


 なんなら、肉の欲しさにそこそこ高ランクの冒険者もこの依頼を受けるのだとか。


 そのお陰で何とか回っているらしが、影の中にクソほど在庫があると言ったらどんな顔されるんだろうな........


 帝国にいた頃も“さすがに多すぎ”と言われたが、金になるのだから持っていかないという選択肢はない。


 もう、この中にある在庫も全部出すか?時間が経ちすぎて腐り始めたものもあるだろうけど。


 俺がそんなことを思っていると、水を飲み終えて一息ついたエレノアがゆっくりと立ち上がる。


 時間的にはまだ昼前。もう一狩りしてから休憩するのがいいだろう。


「さて、行きましょう。まだまだ狩るわよ」

「影の中の在庫がすごい数になりそうだな。これどうする?」

「最悪アレね。この街には世話になったし、全部寄付してもいいんじゃないかしら。他で売ると面倒くさそうだしね」

「んじゃ、そうするか。もうかなり稼ぎは出たしな」


 寄付(数千体所か万単位)されても向こうは困るだけなんじゃないだろうかと思いつつも、インパクトボアを持っていても使い道がないからそれでいいやと思いながら、俺とエレノアは狩りを続けるのだった。


 後、7時間ぐらいは狩りができるな。



【フライパン武術】

 リベトの街で主婦達が主に覚える武術(?)。調理器具であるフライパンは鉄で出来ているため単純に殴れば痛いし、使い方次第では相手の攻撃すら防げる優れ物。主婦たちはこの武術を使って夫と戦い、夫を尻に敷くのだ。今は無いが、その昔は花嫁修行の1つだったりもする、歴史ある武術である。



 魔境に近く、魔物が多く住む森に囲まれた街リベト。


 常日頃から街の住民は魔物の襲撃に備えており、森の異変にはいち早く気づく。


 今までも森の異変に気づいては、大惨事になる前に何とか対処してきたことが多かったこの街だが、今回ばかりは違った。


 リベトの街で生まれミスリル級冒険者として過ごすスカーは、昼間から酒を飲み三日に一度の休暇を楽しむ。


 森の異変こそあれど、スカーとて生き物。適度な休息は必要であり、彼の代わりに森へ調査するものは多くいるのだ。


「あの二人は今日も魔境か。相変わらずだな」


 スカーはそう言いつつ、訓練場で解体を急ぐ冒険者達に視線を送る。


 自分よりも圧倒的に若いオリハルコン級冒険者達が狩ってきた上級魔物。


 魔境への調査や薬草採取の時に最も驚異となるはずの魔物が200体近くも並んでいる光景は壮観である。


「置き場所がないってギルドマスターが困ってたな。領主様ができる限り素材を運び出してはいるが、それでも素材が多すぎる。まぁ、そのお陰で俺達冒険者は安く上級魔物の素材を手に入れられてるんだけどな」


 スカーは1人でそう呟きながら、自分の新しく仕立てた防具を見た。


 一見防御力など無さそうに見える革防具だが、以前来ていた防具以上の頑丈さを兼ね備えつつも動きやすさも持っている。


 本来ならば、貯金の全てを投げうっても買えないはずの防具が目を疑うような安値で売られていたのだ。


「この街じゃ供給過多過ぎて、今じゃ新人冒険者ですらこの防具を買うからな。一体どれだけの獲物を狩れば、あいつらは気が済むんだ?」


 その内本当に魔境から魔物が消えてしまいそうだとスカーは思いつつ、安いエールをグビグビと飲む。


 ツマミにインパクトボアの串焼きを食べながら、いつもの休暇を過ごしているその時だった。


 カンカンカン!!と鐘のなる音が街中に響き渡り、街の空気が一変する。


 常日頃から魔物の驚異に晒されるこの街では、ある時になると鐘がなるのだ。


 そして、鐘がなった時の行動は既に決められており、もしもの時のために訓練まで積んでいる。


 日本で言う、防災訓練のようなものをしているのだ。


 そして、今日は訓練の日ではない。抜き打ちでやると混乱を招くため、訓練をする際は常に事前に知らせが届いている。


 つまり、この鐘の音は訓練ではなく本物。


 鐘の音で酔いは覚め、冷静になったスカーは食べかけの串焼きを一気に食べ終えると、深刻そうに呟いた。


「魔物の襲撃か........」


 森の異変。既に何度も調査していたが、あまりにも今回は動きが早い。


 スカーは嫌な予感を持ちつつも、自分の仕事を思い出して門に向かって走り始めるのだった。

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