第八階層をチラ見したい‼︎
ロマンを求め過ぎたが故に実用性皆無の魔術を作ってしまってから(全く後悔してない)、2日後。
俺達は、魔術の実験を切り上げでこの街を離れる準備をしていた。
拠点代わりになっているオアシスには、僅かに生活感が溢れており俺とエレノアが過ごした跡が残っている。
焚き火の跡やらは放置しておいてもダンジョンが吸収してくれるだろうが、ここまでお世話になったダンジョンに向けてゴミを投げるのも如何なものかと言うことで少しだけ掃除しているのだ。
「今日でこのダンジョンともおさらばか。二ヶ月近くここに居たけど、中々に楽しかったな」
「そうね。レベル上げの速度が凄まじかったし、狩りをしていてとても楽しかったわ。五大魔境を周り終えたら、また来ましょう。その時は、レベル上げの為だけでなく、ここを攻略するわよ」
「良いねぇ。第八階層は攻略中だけど、その先はまだ攻略されてない。俺達が人類史上初めて見れる景色があるかもな」
久々のレベル上げは本当に楽しかった。
四ヶ月近くまともに狩りが出来なかった反動もあり、今までの狩りの中で1番楽しかったまである。
特に、第八級魔術をバカスカ撃ちまくれた事と、一度に大量の魔物を倒せる爽快感が凄まじかったのだ。
この快感を知ってしまったら元に戻れないほどである。
正直、俺もエレノアもダンジョン狩りを続けたい気持ちの方が高かったのだが、それ以上に依頼をブッチする冒険者としてのレッテルを貼られるのも嫌だった。
おのれグランドマスター。俺達の狩りの邪魔をしやがって。
今度何か依頼を持ってきた時は、絶対に安受けしてやらないからな。
「ダンジョンを出たら直ぐに移動かしら?」
「いや、顔見知りに挨拶をするのと、冒険者ギルドに行って素材を換金した金を受け取らないとな。滅茶苦茶大量の素材を持ち込んだから、差し入れも持っていかないと嫌な目で見られるぞ」
「ギルド職員との関係性は重要よね。彼らは都合のいい存在でもないのだし、私たちのせいで大変な事になっているのだから差し入れはした方がいいわ」
「だろ?この前“雷の怒”に差し入れに持っていくに相応しい店を聞いたんだが、どうやら甘くて美味いお菓子を売ってる所があるらしい。甘いのが苦手な人には申し訳ないけど、それを差入れしておこうかと思ってな」
「良いんじゃないかしら?と言うか、私も食べたいわ」
エレノアは基本的に美味しい物全般が好きだが、その中でも甘い物はかなりの好物である。
砂糖を焦がしたカラメルのような物や、甘い果物はかなりの好物だ。
観光で美味しそうなお菓子屋を見つけると、勝手に買ってくる。
毎度毎度買う訳では無いが、それでも買う頻度は高かった。
「なら、俺達の分も買うか。有名店と言うよりは、地元の人だけが知ってる隠れた名店みたいな所らしい。並ぶ必要も無いと思うぞ」
「それは有難いわ。大勢の人が並んでると買う気が失せるもの」
「その時間でレベル上げできると考えるとな........ちょっと買う気が失せるのは分かる」
そんなことを話しながら片付けを終えると、エレノアが一つ提案を出てきた。
このまま帰るつもりだったが、どうやらエレノアはこのダンジョンでまだやりたいことがあるらしい。
「ねぇジーク。せっかく第七階層まで潜ったのだから、第八階層をチラ見してから帰らないかしら。結構近かったわよね?第八階層への入口」
「いいねそれ。狩りはしないけど、第八階層の様子を少し見てみるのはいいかもな。ブルーノ達からある程度は聞いているけど、実際にこの目で確かめるのも良いだろう」
第七階層で助けたアダマンタイト級冒険者パーティーの“雷の怒”から聞いた話では、第八階層は氷に覆われた極寒の世界らしい。
その寒さは、吹雪吹き荒れる第五階層よりも寒いらしく、ブルーノ達はこの寒さに苦戦を強いられていたそうな。
しかし、その分景色は最高に良かったとも語っていた。
どの階層よりも神秘的で、とても美しいんだとか。
俺達なら魔術で寒さの問題も何とかなるし、少しだけその景色を眺めに行くのもいいかもしれない。
俺はそう思うと、黒鳥を召喚して背中乗った。
「それじゃ、最後にダンジョン観光と行きますか。美しき第八階層とやらを見にね」
「ちょっと楽しみだわ。第四階層の様な綺麗な景色であることを祈るわよ」
「........もし、第四階層よりも綺麗じゃなかったら?」
「ブルーノを殴るわ」
ワオ、理不尽。
俺はブルーノが無事にエレノアの前に立って居られる事を祈りつつ、空間圧縮を使いながら黒鳥に乗って空に飛び出すのだった。
【ビッグセンティピード】
滅茶苦茶デカイ百足の上級魔物。その甲殻は剣を弾き、その足で大地をかき乱すと言われている。弱点は火。口には毒があり、噛まれると並大抵の生物は死に絶える程強力。しかし、噛む前に相手を薙ぎ倒していることが多いのであまり出番はない。
体長は平均10m程。しかし、過去に観測された最大級のビッグセンティピードは200mを超えていた。
黒鳥と空間圧縮を使った移動方法は凄まじく早く、あっという間に第八階層へと続く階段へとやってきた。
ココ最近は身体もこの移動方法になれたのか、酔うことが大分無くなってきている。
あるよね。急に身体が慣れて、出来なかったことが出来るようになる時って。
「ここから降りるぞ」
「えぇ、それにしても、この移動方法は慣れると便利ね。慣れると」
「慣れるまでが大変すぎるけどな、酔って吐いての繰り返しだ」
「ダンジョンからしても嫌な客でしょうね.......自分の中で暴れ回った挙句、ゲロを吐き散らすのよ?」
「........最悪すぎるな。マジで来て欲しくない客だ」
俺がダンジョンなら出禁にしてるね。
好き勝手暴れ回った挙句、ゲロを吐き散らす様な客はお呼びでは無い。
お客様は神様だろって?それは客側が言うセリフじゃないんだよ。それに、人にもどの神を敬うかの自由は与えられてる。
こんなクソ客でも出禁にしないダンジョンって実は良い奴なんじゃないか?
俺はそう思いつつ、階段を降りていく。
しばらく階段を降りると、そこには幻想的で美しい世界が広がっていた。
全てが氷でできた世界。太陽の光を氷が反射し、宝石のように輝く第八階層はブルーノ達が語っていたよりももっと美しかった。
氷でできた木々や、さざめくことの無い氷の草。土の代わりに敷き詰められた氷は青く、海の上にいるのかと勘違いしてしまいそうな程である。
「素晴らしい光景ね。私の人生の中で1.2番を争う程素晴らしい景色だわ」
「旅をしていて良かったと思う瞬間だな。こんなにも美しい世界があるなんて、世界はまだまだ広いよ」
故郷に居たならば間違いなく見ることの出来なかった景色。親父やお袋も、こういう景色がみたくて冒険者となって世界を旅したのだろうか。
冷たい空気に澄んだ空。宝石様に輝く氷たちの作る幻想郷。
俺もエレノアも、その美しい光景に暫く無言になって景色を眺める。
これよりも美しい景色が魔境にあるといいな。そしたら、少しは魔境に訪れて良かったと思えるだろうに。
「次はここから攻略ね。天使達は移さなくていいの?」
「第八階層からは最上級魔物が出てくるだろ?天使達の相性を調べ始めると、ダンジョンから出なくなるから我慢するよ。それに、まだまだ上級魔物から得られる経験値は大きいしな」
「そう。なら帰りましょうか。素晴らしい景色だったけど、5分も見たら飽きたわ」
そう言って階段を登り始めるエレノア。
俺はたった五分でこの景色に飽きる辺り、エレノアらしいなと苦笑いしながらその後ろを追う。
またこの地に訪れた時は、ダンジョンが泣いて謝るまで魔物を狩り尽くしてやろう。
覚悟しておけよ。ダンジョン。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます