ほぼダンジョン


 冒険者ギルドでオススメの宿を聞き、旅の疲れを癒すために丸1日休暇を取った次の日。


 俺達は“魔の渓谷”の情報を集めるために冒険者ギルドを訪れていた。


 朝早くから来たという事もあり、毎度の事ながら依頼書を取り合う冒険者達の暑苦しい姿が見える。


「どこの街に行ってもこう言う光景は変わらないわね。暑苦しいわ」

「俺達のように、金稼ぎはついで程度で考えているやつの方が少ないからな。普通は生活のために割のいい依頼を取りに行くものだ」

「適当に魔物を倒して常設依頼をこなすだけでお金になるのに........一体どこにそのお金は消えるのかしらね?」

「酒だろうな。ドワーフは酒が無いと生きていけない種族と言われるほどだし」


 俺はそう言いながら、朝っぱらから水のような感覚で酒を飲むドワーフ達を見る。


 ドワーフと言えば酒と言うイメージは全く持ってその通りであり、酒を飲んでいないドワーフを見つける方が難しいぐらいには皆酒を飲んでいる。


 ギルドの中にある酒場にも酒は常備されているらしく、一昨日ギルドに入った時はあまりの酒臭さに顔を顰めたものだ。


「エレノアは飲むなよ?酔ったエレノアの世話は大変なんだ」

「言われずとももう飲まないわよ。師匠の家で飲んだ時に懲りたわ」


 ウンザリした顔であの時のことを思い出すエレノア。


 酔ったまま俺に絡んできたエレノアは、朝になると記憶が全く無く俺と一緒に寝ていた事に酷く焦っていた。


 なんか“違うの。別にアレよ。えーと、そう。ジークが寂しそうだったから........”とか言い訳をしていたが、酒に酔って俺と寝たのがそんなに恥ずかしかったのだろうか?


 意外と可愛い一面もあるんだなと思いつつも真実を告げれば、エレノアは胸を撫で下ろしていたが。


 そんなことを話しながら、依頼版から人を掃けるのを待つ。暫くすれば、人の波も収まってゆっくりと依頼を見られるようになった。


「へぇ、鉱石の採取なんて依頼もあるのね。道理で冒険者なのにツルハシやらシャベルを持ったドワーフが居るわけね」

「エドナスの街で言う所の、薬草採取とかと同じなんだろうな。この街ではそれが鉱石に起き変わったという訳だ」

「国毎に特色があって面白いわね。鉱石採取なんて素人同然だからやらないけど」

「俺達には鉱石採取のノウハウは無いからな。ゴーレムを狩った方がまだまともな鉱石が取れるだろうよ」


 エレノアと話しながら、ドワーフの身長に合わせられた低めの依頼版に張られた依頼書を見ていく。


 魔物のラインナップは、どこにでもいるゴブリンを始めとして今まで狩ってきた魔物が多かった。


 オークやらオーガ、ゴーレムもいるし、なんならアンデッドまで居る。


 今まで狩ってきた場所の中で、1番魔物の種類が多いと言えるだろう。


 中でも、ゴーレムの種類は豊富で通常のゴーレムやアイアンゴーレム、更にその上の魔物であるミスリルゴーレムの討伐依頼なんかもある。


 ミスリルゴーレムはアイアンゴーレムよりも二つ上の階級の上級魔物に分類されるので、エレノアが嬉々として狩りに行きそうだな。


「魔物の種類が豊富ね。あの深い渓谷の中でどうやって暮らしているのかしら?」

「食って食われての関係なんだろうな。ゴブリンは生命力だけは強いから、ほっといても増えるし、ゴーレムはそもそも魔力さえあれば問題ない。オークはゴブリンを食い、オーガはオークを食う。そんな感じだろ」

「渓谷の中だけで1つの食物連鎖が完成しているのね。このバットは聞いた事のない魔物ね」

「コウモリの魔物だな。下級魔物だから、俺達の敵じゃない」

「となると、私達はミスリルゴーレム辺りを中心に狩ることになりそうね。アイアンゴーレムのように燃やせたら楽しそうだわ」

「そうだな。昨日の間に大まかな地図も手に入れたし、早速行ってみよう。新たな狩場が俺達を待っているぞ」

「えぇ、魔の渓谷をただの渓谷にしてやるわ」


 それ、取れるはずの鉱石まで燃やし尽くしてないか?


 俺はそう思いつつも、やる気満々のエレノアと共に冒険者ギルドを出るのだった。



【バット】

 コウモリの魔物。下級魔物であるが、群れを成せばかなりの驚異となり相手の血を吸い尽くす。

 吸血鬼のなり損ないと言われており、暗い洞窟などによく存在する。



 魔の渓谷は、フルベンの街を出て西に少し行った所に存在している。


 流石にダンジョンのように街の中に渓谷を入れることは出来ないが、商売魂逞しいドワーフ達が露店を出していた。


 そこで忘れ物や必要品を買い揃える冒険者や鉱夫達を横目に、俺はエレノアとこの渓谷のおさらいをする。


 事前の情報確認はとても大事な事だと、俺もエレノアも分かっていた。


「魔の渓谷は不便なダンジョンって感じで階層がある。1番浅い場所は上層と言われていて、下級魔物までがよく出現するらしいな」

「そこには行く必要は無いわね。下級魔物じゃ相手にもならないわ」

「今日行くのはそこよりも深い場所の中層だな。ここは中級魔物までが出てくるみたいだ。下級魔物も出てくるらしいぞ」

「オークやらアイアンゴーレムが出てくるって事ね。もっと深い場所でもいいんじゃないの?」


 エレノアは、最もなことを言いつつ首を傾げる。


 エレノアの言いたいことも分かるが、油断は禁物。エレノアのように油断してゴブリンに負けるような事もあれば、人知や超越した師匠のような存在に負けることもあるのだ。


 先ずは、渓谷内での戦い方と雰囲気を理解することが大切である。


「俺達は森での戦いは慣れているけど、渓谷での戦いは初めてだろ?今日は渓谷内での戦い方を確立しよう。普段通りにやっても問題ないのかを確認するってことだな」

「なるほど。確かに渓谷で戦うことなんて無かったわね。殆どは森の中で戦ってきた訳だし」

「森は自然が実って動植物も多いから、魔物も集まりやすいんだよな。食い物があれば、それだけ寄ってくる生命も多くなる」

「その点、この渓谷は異様よね。アンデッドで溢れたあの森も不気味だったけど」


 そういえば、死者の森でアンデッドが溢れた理由って何なんだろうな。レベル上げにしか興味がなかったし、エルダーリッチとの修行が忙しすぎてそんなことを考える余裕がなかった。


 エルダーリッチが何も言わない時点で、大したことの無い理由なのだろうが。


 俺はエレノアの言葉に頷きつつも、心底興味が無い声で話す。


 俺達にとって重要なのは経験値が貰えるかどうかであって、生態系の解明ではない。


「まぁ、それを考えるのは学者の仕事だ。俺達はレベル上げが出来るかどうかを考えればいい」

「それもそうね。魔物が居て、私達が狩り尽くす。それさえ分かっていれば十分だわ。ギルドで魔物の量がどのぐらいか聞いたら、昔よりも増えたって言ってたしね」


“剣聖”によって魔物が狩り尽くされたかもしれないと言う懸念は既にない。ギルド曰く、さらに増えているらしいので俺達としては嬉しい話である。


 これは放置ゲーが捗りそうだな。


 今も死者の森て放置している天使達だが、俺とエレノアが魔物を狩りすぎたせいで全く効率が叩き出せていない。


 この2ヶ月でレベルがひとつも上がらなかったのを見るに、余程魔物を見つけることが出来なかったのだろう。


 こう言う点は、ダンジョンの方が圧倒的に効率がいいよな。この渓谷を狩り尽くしたら、かの有名な帝国のダンジョンに行ってみるか。


 そんなことを思っていると、中層へと続く階段が見えてくる。


 崖を切り崩して作った階段だ。


「中層はこっちね」

「有難いことだ。中層までなら先人たちが立ててくれた階段のおかげで楽に降りられる。下層になると自力で降りなきゃならんからな」

「簡単に降りられる癖によく言うわ。歩く方が時間が掛かるというのに........」

「それはそうなんだけどな」


 さて、渓谷はどんな感じなのだろうか。


 俺とエレノアは、下が見えない薄暗い闇の底に向かって降り始めるのであった。




 大変申し訳ないのですが、コメの返しを控えさせていただきます。毎週金・土の間に返していたのですが、流石に100件以上ものコメントは返せないので..........ごめんなさい。

 ですが、コメは全て読んでます。励みにもなるので、ドシドシコメを送ってきてください。時間が出来れば、気になったコメは返します。

 改めて、申し訳ありません。

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