ジーク
厨二病が治っていないエルダーリッチからオリジナル魔術の案を貰ってからは、順調に魔術の開発が進んだ。
一度方針を決めてしまえば、こういうものはサクサクと進んでいく。
エレノアは既にオリジナル魔術の骨格を完成させ、後は魔力効率やら威力の効率を如何に求めるかと言う段階に入っている。
今も、庭で魔術の調整を行っているはずだ。
俺は白魔術と黒魔術の両方を作っているので、エレノアよりかは進みが遅かった。
それでも、着実に歩みを進めていたある日。エルダーリッチが真剣な雰囲気で俺に話しかけてくる。
「少しいいか?少年」
「いいぞ。魔術の開発もいい区切りになったし」
「そうか」
エルダーリッチは適当な椅子に座ると少しの沈黙を置いた後、俺に質問をしてきた。
「少年よ。貴殿は何かスキルを持っているか?」
「いや?持ってないぞ」
スキル。
生まれ持った特異能力の総称だ。俺は今までスキルを持っている人に出会ったことは無いが、割とスキルを持って産まれてくるものは多いと聞く。
少なくとも、俺がその1人では無いというのは確かだが。
俺が首を傾げて答えると、エルダーリッチは無言で俺を見つめる。
「........嘘ではないようだな」
「今更そんなことで嘘はつかないさ。冒険者にとって自分の情報は命同然だけど、エルダーリッチに知られたところで困ることは無いからな」
「ふははは。信用されているようで何よりだ。だが少年よ。スキルがないとなれば貴殿は少しおかしい」
「........?」
エルダーリッチの言葉に、俺は再び首を傾げる。
スキルが無いとおかしい?一体何がおかしいと言うのだろうか。
俺の疑問に答えるように、エルダーリッチは言葉を続ける。
「少年よ、魔力の源が何か知っているか?」
「“魂”だろ?魔力を扱うにおいて知っておかなければならない基礎中の基礎だ」
魔力は魂より生み出さる。
この“魂”の概念は魔物で言う魔石に近いとされており、魔力が最も集まる場所だと言われている。
魔物と違う点は、この魂が物質化されていない事だ。
魂は魔石と違い形を持たない。魂は確かに人の中にあるが、それを人が認識するには特別な手段を取らないとならないと言うのが、俺の知っている“魂”だ。
ちなみに、1人の人間に1つの魂がある。2個以上あることもなければ、ゼロという事も無い。
「正解だ。では少年。貴殿の中に二つの魂がある事を理解しているか?」
「........ん?1人に宿る魂は1つだろ?」
「そうだ。ある特殊な存在を除いて、基本的に生命に宿る魂というのは1つだ。これは魔物にも同じことが言える。だが、私の目には少年の中に二つの魂があるように見えるのだ」
ありえない........訳では無い。
俺は本来この世界に存在しない人間。本当ならば“ジーク”という存在が俺になっていたはずなのだから。
それが、何の因果か地球にいた頃のおっさんの記憶に置き換わっている。
転生の仕方が“魂”の移動ならば、俺と本来のジーク少年の魂が二つあっても不思議では無い。
俺の反応を見たエルダーリッチは、俺に心当たりがある事を悟ったのだろう。
静かに、俺が焦らないようにゆっくりと口を開く。
「心当たりがあるようだな」
「ない。と言えば嘘になる」
「その心当たりを聞けるか?」
別に言ってしまっても構わない。だが、何となくこの事は誰にも言ってはならない気がした。
両親にも隠し、エレノアにも隠してきたこの真実。エルダーリッチならば、何も言わずただ聞いてくれるだけだろうが、それでも言ってはならない。
そんな気がしてしまった。
理由はない。ただ、そう感じただけだ。
俺は首を横に振ると、エルダーリッチは“そうか”とだけ呟いて席を立つ。
その顔は、“想定通り”と言わんばかりの満足気な顔だった。
「少年よ。貴殿が話さないと決めたならば、私は何も聞かないことにしよう。人とは、隠し事の一つや二つあるものだ」
「ありがとうエルダーリッチ」
「ふははは。例には及ばんよ。私はただ気になったことを聞いただけだからな。恐らく、異常な魔力量と白魔術と黒魔術の両方が使えるのはその魂が理由だ。どんな経緯があるにせよ、貴殿の立派な才能と言える。誇るといい。貴殿は、あの古き偉大なる魔術師“大賢者”がなし得なかった事をやっているのだ」
「人間の魂が二つあるぐらいで、そんなに異常な魔力が手に入るものなのか?」
「私の目に映る二つの魂は、溢れんばかりの魔力を生み出している。流石にどちらが黒か白かは分からんがな。どちらの魂も類まれなる才を持っていたのだろうよ」
俺の魂とジークの魂。2人ともエルダーリッチが賞賛するほどの魂だったんだな。
俺は少しだけ嬉しくなりつつも、本来のジークはどしてしまったのだろうと考える。
1番有り得るのはお袋の腹の中で本来のジークが亡くなってしまい、そこに俺が入ったパターン。
異世界転生あるあるだな。他にも幾つか原因は考えられるが、どれも可能性の話であり真実は闇の中である。
俺が頭の中で色々なことを考えていると、エルダーリッチは部屋から出る前に俺に振り返る。
「少年よ。その心当たりがなんにせよ、貴殿は貴殿だ。この偉大なるエルダーリッチの弟子であり、あの娘のただ一人のパートナーという事を忘れるな」
俺がなにか言葉を返す前に、エルダーリッチはそう言って部屋を出る。
あれは、俺の表情を見て何となく察した顔だった。
気を使わせてしまったな。人生の大先輩ともなると、俺の考えも見抜けてしまうらしい。
「400年以上も生きてると、気遣いも一流だな。この件に関しては、深く考えないでおこう。なぁ、
俺は俺。そう考えて、俺は気持ちを切替える。
こんなところでウジウジしてられない。その先にある何かを見に行くのだから。
俺はそう思いながら、魔術開発に戻るのだった。
【魂】
魔力の源と考えられている人種に宿る概念。魔物で言うところの魔石であり、魔力の出処である。
基本的に魂は一人一つが原則であり、余程特殊な例でなければ魂が複数あったりゼロだということは無い。これは魔物にも同じことが言え、魔力で生み出した魔物や特殊な種族でない限りは魔物の持つ魔石は一つである。
ジーク達の師であるエルダーリッチは魂の事を器と呼んでいるが、特に理由はない。
ジークと話したエルダーリッチは、少し嬉しそうに家の中を歩いていた。
理由は、師としてそれらしい事が出来たからである。
あまりに優秀すぎる弟子たちは、エルダーリッチが少し教えるだけでスクスクと成長し、今やエルダーリッチの背中に手が届きつつある。
そんな中で、ジークにジークの在り方を説いた事は、エルダーリッチにとって“師匠らしい言動”だった。
実際、ジークの魂が2つあることには疑問を持っていた。
最初はスキルを疑ったが、ジークの反応を見る限りそれは無い。となると、元々あった魂に別の魂が入り込んだと考えられた。
「私の予想では、兄弟が腹の中に居たのでは?と思うが........どうなんだろうな」
デリケートな話になりそうだったので、エルダーリッチはそれ以上突っ込む気にはならなかったが気にはなる。
見た感じ、エレノアにも言っていない秘密があるのだろう。
エルダーリッチも多くの秘密を抱える身だ。ジークが言いたがらないのであれば、聞かないのがマナーだと弁えている。
「全く秘密の多い弟子達だ。私も人の事は言えないがね」
エルダーリッチはそう呟くと、庭を燃やしては首を捻るエレノアの元に向かうのだった。
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