銀級昇格試験③
試験が始まってから2時間後、ジーク達は盗賊が潜伏していると言われている山の中を周囲を警戒しながら進んでいた。
盗賊の人数は約10名。明らかにたった2人の銅級冒険者に任せる内容では無いが、その裏に元ミスリル級冒険者が居るとなれば話は違う。
正直、ギルドマスターであるジンライも盗賊全員を殺せるとは思ってなかった。
(戦い方によるが、銅級冒険者には厳しいよな。毎日大量の素材を持ち込んでるとはいえ、人間と魔物とじゃ戦い方が異なるし)
森の歩き方に関しては合格点と思いつつ、ジンライは2人がどこまでやれるのかの想定をしておく。
聞いた話では、少年は12歳、少女の方は15歳の子供らしい。
もしかしたら、人を殺すことを躊躇う可能性もあると考えると、誰一人として盗賊を討伐できない可能性もあった。
普段魔物を殺している冒険者と言えど、同種族である人間を最初から躊躇いなく殺せる訳では無い。
同じ言語を話す。それだけで、人の手は止まってしまうのだ。
(まぁ、その為に俺や職員が付いているわけなんだが、この2人はどうかな?)
見たところ、ジークと言う少年がこのパーティーを引っ張っている。
こう言うのは普通年齢の高い冒険者がリーダーを勤めるのだが、必ずしも年齢が高い人にリーダーシップがある訳では無い。
まだまだ小さい少年に仕切られる(一応)大人という構図は、少し面白かった。
しばらく山の中を歩くと、ジークが手を挙げてその場に止まる。
もう少し行けば盗賊のアジトだ。
ここからはさらに慎重に行かなければならない。
「エレノア」
「分かってるわ」
短いやり取りの後、エレノアは小さな声で素早く詠唱を開始する。
近くにいるジンライにすら聞こえない程小さな詠唱だ。ジンライはエレノアの詠唱技術に感心しながらも、何の魔術を行使するのか注意深く観察する。
エレノアの詠唱が完了すると、即座にエレノアは魔術を使用。
「
周囲を把握するために使われる魔術。第三級魔術を使えることにジンライは驚いた。
第三級魔術を行使するのは結構難しい。どこぞの放置ゲーをやっている変態や人間関係を効率で見ている変人は割と当然のように使っているものの、人間にとってはかなりの難易度である。
この歳で第三級魔術を使えるというのは、それだけでステータスとなるのだ。
(凄いな。この年で第三級魔術を使えるのか。先ずは相手がどこにいるかの索敵。いい判断だ)
ジンライはジーク達のとった行動が的確だということで、頭の中で加点しておく。
少し顔を歪めながら周囲の情報を読み取ったエレノアは、ジークの持っていた地図に指を指しながら報告を始めた。
「洞窟の入口に二人ほど監視がいるわ。その中に12人の反応がある。2人ほどぐったりとして倒れ込んでいるのを見るに、多分攫われた人ね」
「洞窟内の詳細は分かるか?分かれ道があるとか」
「無いわ。一本道で、洞窟の奥に大きな空洞があるだけ。ここに大量の水でも流し込んだら溺水できるんじゃないかしら?」
「辞めておけ。中に被害者がいる以上、俺達はその人をできる限り助ける義務がある。生きてるんだろ?」
「落ちついてるわね。ところでギルドマスター、この情報も仕入れていた上で私達に試験をさせているのかしら?随分と心音が煩いのだけれど」
全てを見透かしたように目を細めるエレノア。
カマをかけているのか、確信を持って言っているのか分からないその表情は僅かに苛立ちがみてとれた。
幾ら冒険者ギルトと言えど、被害者が捕らわれている状態で試験を受けさせるわけが無い。
ちゃんと経験のある冒険者に依頼を出す。つまり、完全なイレギュラーだった。
「........歳の割に察しがいいな。一昨日まで監視していたが、その時にはそんな情報が上がってなかった。昨日、どこかの旅人でも攫ったんだろうな。一旦試験は──────────」
「いや、このまま行くわ。でしょ?ジーク」
「当たり前だろ。あまり言いたかないけど、囚われてんのは女性だろ?間違いなく昨日は犯されてる。今は耐えれてるが........心が弱ければ今にも死ぬかもしれんぞ」
ジークの言っている事は間違っていない。盗賊になる者は男が多い。ましてや、小規模の盗賊ならば尚更だ。
そして、彼等がアジトに連れ帰るとしたら女である。盗賊が溜まったよくを発散する為に、女を生け捕りにするのはよくある話だ。
そして、心の弱い女は自らの舌を噛み切って死ぬ事もある。
“弱き民の為に”
その信条を掲げる冒険者ギルドとしては、早急に盗賊の排除と救助をしなければならなかった。
しかし、盗賊のと戦った経験のない銅級冒険者を行かせる訳にも行かない。
ここは自分が行くしかないとジンライが思い始めたその時だった。ジークとエレノアは、ゆっくりと体を解しながらジンライに告げる。
「おい、ギルドマスター。今からやる事は見なかったことにしておいてくれ。ギルドのケツを俺たちが拭いてやるんだからいいよな?」
「待て、何をする気だ?」
ジンライは嫌な予感を覚える。
にやりと口を歪めたジークは、さも当然のよう言い放った。
「何をするって決まってるだろ?人命救助だよ。囚われのお姫様を白馬に乗って助けに行くのさ........準備はいいか?エレノア」
「問題ないわ。念の為にやり方だけでも決めておいてよかったわね。まさか役に立つとは思わなかったわ」
「試験前の対策はしっかりとやるべきだな。お勉強だけじゃなくて、ギルド試験も対策が必要だとは思わなかったが」
ジークはそう言うと、洞窟の死角に入るように山の中を移動する。
ジンライが止めようとしても、止める間もなかった。
(足速っ!!アイツレベル幾つなんだ?!)
レベル28もある自分が、足の速さで負ける。レベル4の差があるが、個人の能力値の上がり方というものがある。
ジークの場合は足の速さと魔力が爆発的に伸びるタイプだった。
あっという間に洞窟の上に陣取ると、木の影て隠れているエレノアに合図を出す。
エレノアは、無詠唱の
監視の体がもはや原型を留めていないレベルで弾け飛び、明らかなオーバーキルだった。
悲鳴すら上げることなく死んだ監視が血飛沫を上げて倒れると同時に、ジークは洞窟の中に入っていく。
エレノアもその後に続くが、足の速さが違いすぎて若干置いていかれていた。
「人の話を聞かないガキ共め。終わったら説教してやるろうか?!」
結局、2人を止めることが出来なかったジンライも、洞窟の中に入っていく。
洞窟の道を盗賊が置いた松明が照らしていたのだが、いつも間にか消えていた。
元ミスリル冒険者である自分が行けば、最低限被害者の保護だけはできるだろう。
真っ暗な視界の中でもジンライは、長年培ってきた技術によって周囲の把握に勤める。
強引に瞳孔を開き、暗い中でも僅かな光で周囲を把握できるのだ。
洞窟の中を進むと、僅かなうめき声だけが聞こえる。ジンライは一瞬、無謀な突撃をしたジークが返り討ちになったのかと焦りを覚えたが、全てが視界に入った時それが間違いだと知る。
「おいおい。何だこれは」
僅かにのこる松明の火が照らし出したのは、既に事切れた盗賊達と真っ黒な人影に守れられる裸の女性達。
よく見れば、盗賊達の心臓部には真っ黒な剣が突き刺さっており、無防備な後ろから綺麗な奇襲をしたことが分かる。
そして、ジークの手には顔が倍近く腫れ上がった盗賊の親玉と思わしき人物。
ジンライが何が起きたのか理解するのに時間がかかっていると、遅れてやってきたエレノアが笑顔でジークの元に歩いて行った。
「ジーク、終わった?」
「パーフェクトだ。両親の教育のおかげか盗賊を殺す事を躊躇わなかったし、殺した後もなんとも思わないな」
「ふふっ、ご両親に感謝だね」
「今度、手紙でも送るか。感謝の意味も込めて」
「いいんじゃない?きっと喜ぶよ」
盗賊を惨殺したというのに普段通りにしている少年少女を見て、ジンライは僅かな恐怖を覚えつつも、ジークが裸の女性に気を使ってなるべく見ないようにしていることに気づき、冒険者としての心得がよく出来ていると感心するのだった。
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