銀級昇格試験①


 第三階層を少しづつ攻略していたある日、俺とエレノアは冒険者ギルドの受付嬢レスナーに声をかけられる。


 毎日のように大量の素材を持ち込む俺達を、子供だからと侮らずにしっかりと査定してくれるいい人だ。


 金髪のポニーテールを揺らしながら、笑顔でこちらに寄ってくるその姿に見惚れるおっさん冒険者達は多い。


 世界が違えばセクハラで訴えられそうだな。


「ジーク君。エレノアちゃん。ちょっといいかな?」

「どうかしたんですか?」

「なんです?」

「実は来週、銀級昇格試験があるの。二人とも銅級冒険者でしょ?」

「えぇ、まぁ」


 銀級冒険者に上がれないお陰で第三階層の地図を一から作ってますね。と心の中で思うものの、流石に口には出さない。


 第三階層の地図を他の冒険者から買い取るなんて方法を思いついたこともあったのだが、普通にアウトだった。


 売った方を買った方もバレれば罰せられると知ったので、俺達は大人しく地図無しで第三階層を攻略している。


 金銭に関してはかなり溜まっているので、主にレベル上げがメインとなっているが。


「そんな2人に朗報だよ。銀級昇格試験を受ける資格をギルドマスターが与えるって」

「........そもそも、銀級昇格試験はギルドマスターの了承がいるんですか?俺が聞いた話だと、試験を受けるのは自由って話でしたけど」

「地方の冒険者ギルドならそれでいいんだけど、この街ともなると受ける人を選別しないと大変なんだよ。ほら、銅級冒険者が多いから」

「受ける人が多くなりすぎてギルドでは管理できないと言うことですか?」

「そうそう。そこら辺は各ギルドによって規定が違ってね。この街ではギルドマスターと副ギルドマスターが試験を受ける人を選ぶんだよ。今までの依頼をこなしてきた件数とか、素行を見てね」


 俺の故郷であるエドナスとは随分と違うんだな。


 冒険者の昇格試験は、全てのギルドで統一されているものだと思ってた。


 最低の基準があって、さらに地域毎に規定が違う感じなのだろう。確かに自由に試験を受けれるとなれば、この冒険者の街では人で溢れ返ってしまいそうだ。


 それにしても、銀級昇格試験か。受かれば晴れて銀級冒険者。第三階層の地図が手に入る上に、レベル上げの速さが段違いになってくる。


 エレノアの方をチラリと見ると、エレノアは何も言わずに頷いた。


“受ける”か。


 俺としても断る理由がないので、有難く受けさせてもらおう。レベルだけで見れば、俺達は既に銀級冒険者。人殺しさえ問題なく出来れば、試験に合格できるはずである。


「受けるかどうかは本人の自由なんだけど........どうする?」

「受けます」


 迷う間もなくそう答えると、レスナーはそう来なくっちゃと言わんばかりに頷いて紙を渡してきた。


 紙を受け取り、そこに書いてあることをしっかりと読み込む。


 ふむ。死んだら自己責任って事ぐらいしか無いな。後は集合時間か。


「質問とかある?」

「........特にはないです。この日は最高のパフォーマンスができるように体調を整えておきますよ」

「あはは。体調管理も冒険者の仕事だからね。2人とも、ファイトだよ」


 レスナーはそう言って、仕事に戻る。


 俺とエレノアは、この日からありとあらゆる状況を想定した戦い方の練習を始めるのだった。


【昇格試験】

 冒険者ギルド本部が定めた規定と、その街のギルドが定めた規定が組み合わさっている試験。冒険者ギルド本部が定めた規定は絶対であり、この規定を満たしていないと重い罰が下される。

 冒険者ギルド本部の規定にプラスして街のギルドが定めた規定も乗っかってくるため、厳しい所と緩いところではかなり昇格のしやすさに差がある。


 昇格試験の通知を受け取ってから1週間後。俺とエレノアは万全な状態で試験当日を迎えた。


 かなり詰め込んでレベル上げをした為かエレノアのレベルが1つ上がり、レベル17となっている。


 俺も出来る限り魔力を放置狩りしている狼達に回したのだが、レベが上がることは無かった。


 レベル26になりたかった........


「いよいよね。大抵の試験なら突破できる自信はあるわ」

「筆記試験が無かったのは有難いな。1週間の詰め込み勉強は身体に堪える」

「詰め込んでも意味がないものね。学院にいた頃は良く小テストやら試験があったけど、一夜漬けとかしていた子は軒並み点数が悪かったわ」

「そう言うエレノアは?」

「仮にも首席よ?ほぼ全部満点よ。授業を聞いて家で復習すれば大抵は覚えるでしょ?」


 それが当たり前と言わんばかりに首を傾げるエレノアだが、学校の授業をほぼ全て寝てきた俺からすれば返す言葉がない。


 それが出来たら苦労しないんだよなぁ。


 学校の授業ってどうしてあそこまで眠たくなるのだろうか。お経を聞いていた方がまだ起きれる。


 俺が全く興味のない分野の話を永遠に聞かせてくるとか拷問かよと、当時は思ったものだ。


 テストは毎回テスト週間で詰め込み、赤点ギリギリを回避していた記憶しかない。


 興味のある魔術に関する授業だったら、寝なかったのだろうか?


「ジークはそこら辺真面目そうだし、ちゃんと授業も聞いてそうよね」

「あ、あはは。そ、そうだな」


 俺は乾いた笑みで誤魔化し、話題を逸らす。


 これ以上過去のことについて触れないでくれ。ボロが出る。


「それより、試験って何をやるんだろうな?人を殺す試験は絶対にあるだろうから、盗賊退治とかか?」

「多分そうね。銀級冒険者は人も殺せるようにならないといけないから、間違いなくその試験はあるわ。ジークは大丈夫?」

「........多分。そういうエレノアは?」

「私は大丈夫よ。人間も所詮は動物と変わらないんだから。野ウサギを狩る気分で殺るわ」


 全く緊張をしていないエレノアは、顔色一つ変えずにそう言う。


 随分と達観した考え方だ。


 人も所詮は動物。言ってることは間違ってないが、だからといって人を殺せる訳では無い。


「頼もしい限りで何よりだ」

「ジークが日和った時は、私が代わりにやってあげるわ。いや、背中を叩いてやった方がいいわね。殺さないとお前を殺すぞって」

「そうならないように頑張るよ」


 それ、背中を叩くというより脅しだよね?


 さりげなく俺を脅してくるエレノアに底知れない恐ろしさを感じていると、集合場所である北門に辿り着く。


 既に何人かの冒険者が集まっており、探す手間はなかった。


「銀級昇格試験を受ける冒険者ですね。お名前と、紙を」

「ジークです」

「エレノアよ」


 俺達が試験を受ける冒険者だと見抜いた男の職員が、名簿と照らし合わせる。


 特に問題はなかったようで、冒険者たちが集まるまでここで待機していてくれと言われた。


 特にやることもない俺とエレノアは、試験を受けに来た冒険者達を眺める。


「魔術師が3人、剣士が7人、聖職者が二人か。全員4人パーティーみたいだな」

「私達だけ二人パーティーみたいね。全員試験銅級冒険者ってことかしら?」

「だろうな。基本的に冒険者パーティーって同じランクで組むから、パーティー事に昇格試験を受けさせるんだろ。1人だけ銅級、1人だけ銀級は気まずいだろ?」

「そう?1人だけ銅級はともかく、1人だけ銀級は気まずくないでしょ」

「意外とそういう訳でもなくてな。仲のいい友人同士なら別かもしれんが、仕事と割り切ってるパーティーだと少しの違いで不和を産むんだよ。銀級の奴は普段通りにしてるのに、銅級の奴らは威張っているように見えたりな」

「パーティーも大変ね。やっぱり人間関係って効率が悪いわ」

「いや、そもそも人間関係を効率視点で見るなよ」


 相変わらずすぎるエレノアにツッコミを入れつつ、俺達は他の冒険者達が集まるまで時間を潰すのだった。

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