事の顛末


 エレノアを助け出してから二ヶ月後、我が家の庭でトンファーを構えるエレノアと剣を構える俺。


 静かな時間が流れる中、エレノアが先に動いた。


「行くよ!!」


 エレノアが泣き崩れ、森の中でその日をすごした翌日。


 俺はエレノアを支えながら森から脱出した。その時に聞いた話なのだが、どうやらエレノアはゴブリンからの奇襲を受けた後、逃げた先でゴブリンの村を発見したらしい。


 しかも、魔術を使って監視を行い、闇狼達がゴブリンを殲滅していく様子まで見てしまっていた。


 エレノアは早くギルドに報告しなければと焦っていたが、その話を聞いた俺も大焦りである。


 魔法陣を介して監視できる魔術?知らねぇよそんなの。


 魔術師としては利便性も高いためよく使われる魔術らしいのだが、魔術基礎に乗ってない魔術など知る由もない。


 闇狼達が見られている事に気づけないのも仕方がなかった。


 そして、放置狩りをしている俺としてはギルドに報告されるのは困る。


 闇狼の特徴として、物理攻撃が無効な代わりに魔力攻撃には弱い傾向がある。ギルドの魔術師が攻撃してくれば、間違いなく可愛い闇狼は消滅してしまうだろう。


 そして、霧散する魔力から感じてしまうはずだ。“人間の魔術によってこの狼達は作られた”と。


 そんなれば、放置狩りはしにくくなる上に犯人探しが始まってしまう。


 ならばエレノアに全てを明かしてしまった方が早い。助けた貸しもあるし、何より1ヶ月近い付き合いで裏切らないとわかっている。


 仕方がなく俺は、エレノアにその狼が俺の魔術によって作り出された存在だと明かすとエレノアは酷く驚いていた。


 最初は疑い、目の前で闇狼ダークウルフの魔術を行使すると顔をひきつらせながら俺の背中に隠れる。


 どうやら、ゴブリン達を殲滅していく狼達が軽いトラウマになったらしい。


 しかし、エレノアは俺の魔術だと知ると少し嬉しそうだった。


 そして、ギルドには一切報告しない事も約束してくれたので、俺としては助かったな。


 エレノアの額の傷を治してやろうとした時は、エレノアに断られた。


 白魔術が使えることにも驚いていたが、この傷は自分への戒めとして残しておきたいらしい。


 綺麗な顔に傷が残るのは勿体ないと説得を試みたが、エレノアの意思は硬かった。


 結局俺が折れる形になり、街へと帰ることになる。


 街に帰った後は........うん。死ぬほど怒られた。


 街では俺とエレノアが帰ってこない事を心配した冒険者達が森の中を捜索しようと集まっており、ゼパードのおっさんが中心となってこの街のギルドに所属する冒険者達をほぼ全て集めていたらしい。


 その中には、街の依頼を受けた力仕事のおっさん達(家庭ができて冒険者を引退した)も参加しており、その数はなんと120人を超えていた。


 仲のいい衛兵の兄ちゃんや姉さんも集まっていた時は、“あぁ、これは死んだな”と本能的に察したものである。


 先ずは門番のおっさんに心配され、あっという間にギルドに報告が行くとワラワラと人が集まってきたのだ。


 怪我をしているエレノアを見て、ラステルが白魔術を行使しようとしたがエレノアはこれを拒否。


 エレノアは一旦休ませ、俺は親に泣かれた後これでもかと言う程叱られた。


 昔、魔術の研究をしていたのがバレて怒られたことがあったが、それの比では無いほど怒られた。


 精神年齢40過ぎのおっさんが、いい歳こいて泣きそうになるほどには怖かったです。


 何気に、その様子を見ていたゼパードのおっさんたちの生暖かい目も痛かった。


 それだけ街で騒ぎを起こしたのだから、今やちょっとした有名人。知り合いや偶々その現場を見ていた人から声をかけられては、“両親を心配させるんじゃないぞ”と半笑いで言われる日々を送っている。


 畜生、エレノアが原因なのになんで俺が悪いみたいな雰囲気になってるんだよ。


 これが民主主義か。


「随分腕を上げたな。でも、俺には敵わんぞ」

「そりゃ、レベル16相手に勝てるとは思ってないよ。でも、1発は入れてあげる」


 俺に接近するエレノアは、器用にトンファーを振り回しながら俺に何度も攻撃を仕掛ける。


 しかし、この二ヶ月でさらにレベルの上がった俺には遠く及ばなかった。


 動体視力も向上し、レベル差が開いているエレノアの攻撃はかなりスローモーションに見える。


 的確にエレノアの攻撃を木剣で弾きながら、俺はエレノアの頭にコツンとチョップをかました。


「痛っ!!」

「はい、俺の勝ち。まだまだだな」

「そりゃジークの方が圧倒的にレベルが高いからね。ずるいわよ。あんな方法でレベル上げするなんて」

「エレノアもやればいいじゃないか。闇狼ダークウルフの魔術は教えただろ?」

「維持にどれだけの魔力が持っていかれるのかを分かってて言ってるのかしら?精々数体出すので限界よ」


 エレノアはそう言うと、詰まらなさそうに口を尖らせる。


 エレノアを助けたその日から、エレノアの態度が更に柔らかくなった。


 随分笑うようになったし、表情を表に出すことが増えた気がする。


 アレだけ号泣した姿を見られたから吹っ切れたのだろうか。俺としては、笑顔の方が好きなので笑っていて欲しい。


「銅級に上がったらダンジョンの街に行くのよね?」

「そのつもりだ。俺もエレノアももうすぐ銅級に上がるだろうし、そうしたら旅に出よう。ついでにエレノアのレベル上げもしないとな」

「ジークのようにはできないわよ........?」

「大丈夫。レベル上げって色々と方法があるんだから。少なくとも、レベル15にはなってもらうぞ」

「嫌な予感しかしないわ........」


 そう言って、顔を曇らせるエレノア。


 エレノアとはパーティーを組むことになった。


 ゴブリンからの奇襲を受けたことにより、近接戦闘の大切さを知ったエレノアが俺に剣を教わる代わりにエレノアは俺に魔術を教えることとった。そのまま一緒に依頼を受けることが多くなってなぁなぁでパーティーを組むこととなったのだ。


 ゼパードのおっさんからは冷やかされたが、フローラとラステルから鉄拳制裁を食らっていたのを見て“ざまぁ”と心底思ったものである。


 ちなみに、エレノアは剣の才能がとことん無かった。


 槍や棒術、ナイフに関してはそれなりに才能があったのだが、剣だけ異様に使えない子だったのだ。


 挙句の果てには、“剣で切り裂くと魔術が使えないから効率が悪い”とか言い出して魔術補助が着いた特注のトンファーを作ってきたのである。


 なぜにトンファー。


 普通に杖でいいじゃん。杖で殴れよ。と思ったが、想像以上に戦えたので何も言わないことにしている。


 今では、魔術による遠距離攻撃はもちろん、近接攻撃もしっかりとできるようになり、更にはトンファーで殴ったと同時に魔術を起動してさらなるダメージを与えることも出来るようになっていた。


 絶対才能の使い方が間違っている気がするが、突っ込んだら負けな気がするので何も言わないぞ。


「ねぇジーク、ダンジョンってどんな場所なのかしらね?話によれば、魔物が沢山いるらしいけど」

「いっぱい魔物が狩れるな!!ガンガンレベルを上げられそうだ」

「ジーク、いつもそのことしか考えてないわね。らしいっちゃらしいけど」


 目標としていたレベル15にも到達したし、残りは冒険者の階級を銅級に上げるのみ。


 ダンジョンの街では他所から来た鉄級冒険者は食い物にされるらしいので、念の為に銅級に上げておくのだ。


「ジーク、エレノアちゃん、朝ごはんができたわよー」

「はーい、今行くよ」

「何時もありがとうございますシャルルさん」

「いいのよいいのよ。ジークは歳の近い友人が居なかったからね。こうしてジークと一緒にパーティーを組んでくれてむしろ感謝したいぐらいよ」


 母さん。恥ずかしいからやめてくれ。


 俺がなんとも言えない表情をしている横で、エレノアは口を手元に当てて静かに笑う。


「ふふっ、ジークも親の前では形無しだね」

「うるせぇ」


 こうして、冒険者としての一日がまた始まるのだった。

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