信じもしない神に祈る時
森での異変を知らされた俺は、大人しく街の中で冒険者稼業を行って家に帰った。
レベルは既に11であり中堅冒険者と言っても差支えは無いが、こう言う時は安全を取っておいた方がいい。
前世での経験則からして、何か異変があった時は大抵巻き込まれるものである。
その日は大人しく街中で過し、明日はどうしようかと思いながら瞼を閉じるのだった。
翌朝。俺は身体の変化を感じていた。
「レベルが上がってるな。しかも、かなり」
何度も経験したレベルアップの時の感覚。その感覚が身体を支配しているが、今日は普段以上にが身体から力が溢れている。
今なら、親父と真正面から戦っても勝てそうだ。
そう思いながら、脳内でレベルを確認する。
「レベル14だと........寝る前は11だったから、3レベも上がったのか」
この夜で一体何があったんだか。
気になった俺は目を閉じ、森の中で狩りを続ける
(普通の森の中だな。よし、狼、昨日の夜狩った魔物の場所まで移動しろ)
闇狼に指示を出し、しばらく森の中を歩くとそこには地獄絵図かと思う程悲惨な姿で死に絶えるゴブリン達の姿が見えた。
すごい数のゴブリンだ。まだ死んでからさほど時間が経っていないためか、血が完全に固まりきっていないゴブリンも居る。
数を数えるのも嫌になるほど死んでいるゴブリン達の中には、ホブゴブリンと思われる特徴を持った者や、ゴブリンソルジャーと思われる者までいる。
なるほど、これだけの数。しかも、最下級~中級下までの魔物を殺し回れば嫌でもレベルは上がるだろう。
ざっと100以上のゴブリンの群れを殲滅したのだから。
多分、一生分のゴブリンは殺してるだろうな。これだけの数のゴブリンたちの素材を売れば、かなりいい金になりそうだ。
ゴブリンたちの死体を見れば、魔石と牙と耳が器用に無くなっている。
後で、なんちゃってマジックポーチを持たせた狼を呼び寄せるとするか。
俺は、レベルアップと大量のゴブリン達を殺したことによる素材に機嫌を良くしながら、家を出るのだった。
まさか、闇狼達がゴブリンを殺戮する現場を見たものがいるとも知らずに。
【なんちゃってマジックポーチ】
ジークが作った容量無限のポーチ。ポーチの中に
冒険者ギルドに向かうと、どうも中が騒がしい。
いや、騒がしいのはいつもの事なのだが、騒がしさが違う。昨日のように、森の中で異変が起きた事を話し合っていた時と同じ雰囲気だ。
「おはようゼパードのおっさん」
「おい、ジーク坊ちゃん。お前、エレノアが何処にいるか知ってるか?」
「ん?エレノア?知らないけど」
ゼパードのおっさんが居たので挨拶をすると、彼は挨拶を返すことなく真剣な表情でエレノアの事を聞いてくる。
この言い方から察するに、何かあったのか?
「何かあったの?」
「どうも、森の調査依頼を受けてから帰ってきてないみたいなんだ。朝からギルドの嬢ちゃんが心配しててな。取り越し苦労ならいいが、俺の勘が違うと言ってる」
「つまり、森の中で何かあったと?」
「そう言うこった。実はジークとよろしくやってて報告を忘れたなんてオチだった方が良かったがな」
「エレノアちゃんと仲がいいのはジークだけだからな。俺としてもそっちの落ちの方が良かった」
「グルナラのおっさん........」
おい、一応子供である俺の前でなんてことを言うんだよ。
俺は心の中でツッコミを入れつつ、エレノアが森の中で何かあったかもしれないと言う事について考える。
2回ほど彼女とは依頼を受けたことがあるが、そんじょそこらの魔物に殺られる程弱くない。
少なくとも、こちらが先に相手を見つけれていれば負けることは無いだろう。
ご自慢の魔術があるんだしな。大抵の場合は先制攻撃からの、距離を一切詰めさせない魔術攻撃で終わらせる。
となれば、油断から来た奇襲を食らったか?
俺もそうだが、エレノアは新人冒険者だ。どれだけ魔術が上手く扱えようとも、冒険者としての経験は浅い。
薬草採取に夢中で後ろからボカン。とても想像出来てしまう。そして、気絶したら永遠に目覚めることは無いだろう。
下手をしなくても、今頃魔物の胃の中なんてことも有り得る。
俺はじっとして居られなかった。
「........ちょっと行ってくる」
「おいジーク坊ちゃん?おい!!待て!!今の森に入るのは危険だ!!って、はやっ」
「ジーク?!行くとしても、人を──────────速ぇ!!」
ゼパードのおっさんとグルナラが俺の肩を掴むよりも早く、俺はギルドを飛び出でる。
俺の数少ない友人。軽口も叩き合うほどの仲であり、偶に一緒に飯だって食べたりするんだよ。そんな友人が危険な目にあっている。
簡単に死ぬようなタマでは無いだろうが、一分一秒を争うのは間違いない。
人にぶつからないように街の中をかけながら、俺はポツリと呟いた。
「チッ、何があったのかは知らんが、絶対痛い目を見ると思ってたんだよ。あの効率厨め」
効率だけで生きていける程、この世界は優しくない。
効率だけを求めるなら、もっと賢い生き方がごまんとある。だが、それをせずに手を取り合うのが人間であり、理想を壊すのが現実だ。
俺は焦る気持ちを押し殺しながら南門を出ると、使える全てを使って森へと駆け出す。
この際、魔力消費は一切考えない。捜索のために
まさか、レベルアップの恩恵がこんな所で出てくるとはな。昨日よりも体が軽く、走る速さも段違いだ。
さらに、毎日磨き上げてきた魔力操作による身体強化と追い風を出す魔術を合わせれば、親父の全力ダッシュよりも早い。
「この際、ポーチの魔術も解除するか。維持にかかる魔力が多いし、その分を捜索に回せる」
維持を解除した場合、闇沼の中に入っていた物はポーチの中に出てポーチは弾け飛び素材はダメになってしまうだろう。
だが、今はエレノアの命の方が大事である。生きているかどうかは分からないが、生きていると信じるしかない。
結構いい金額になりそうではあったが、金でエレノアの命は買えないのだ。
魔術を解除すると、一気に魔力が回復していく感覚が全身を駆け巡る。レベルが上がった事により、魔力の自然回復量も上がったのは理解していたがここまで上がっていたのか。
俺はレベルが一気に3も上がった事による恩恵に驚きつつも、回復していく魔力を無駄にしないように影の中に闇狼を幾つも生成していく。
おそらく、今日ほど本気で闇狼を生成した日は無いだろう。
「全ての狼達に命令。エレノアを探し出せ。発見した場合は、一定距離を置いて影の中に潜伏しろ。この際人に見つかっても構わない。何としても見つけ出せ」
大分アバウトな命令ではあるが、この狼達はそれなりに賢い。俺の思っているように動きてくれるはずだ。
「さて、このクソ広い森の中でエレノアを見つけれるのか?」
僅か20分で辿り着いた森を見て、俺は小さく溜息を吐きつつエレノアを探しに森の中に足を踏み入れるのだった。
あぁ、今日ばかりは、信じもしない神に祈るとしよう。エレノアが何事もなく生きている事を。
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