第65話 目覚め
ノアリが目を覚まし、『竜王』の血の効果が表れたことでほっと胸を撫で下ろす。ノアリの意識も、徐々にはっきりしてきたようだ。
まだ体を動かすのは怖いから、ベッドに寝かせたままだが……それでも、会話ができるまでには、回復したようだ。
「よかった、ノアリ……!」
ノアリの両親、特に母親は泣いて喜んでいた。その気持ちも、わかるつもりだ……なんせ、これまで会話もできなければ、触れあうのもためらわれていたのだから。
弱々しくもしっかりと手を握り、娘の体温を、感触を確かめているようだ。ノアリは、そんな母親の姿に苦笑いを浮かべている。
「よかったな、ヤーク」
「! クルド……」
俺の肩を叩き、優しく話しかけてくれるクルド。クルドには状況を口でしか説明してなかったから、さっきまでの状況を見てさぞ驚いたことだろう。なんせ俺も驚いたんだし。
「うん、ありがとう。クルドのおかげだよ」
「我はなにもしていない。さっきも言ったが、お前が必死だから協力しただけだ」
なにもしていない……なんてことはないんだけどな。けど、それを蒸し返しても謙遜するだけだろう。
……家を出てから、結構時間が経った気がする。けど、こうして命の期限に間に合ってよかった。
アンジーも俺について家を出ていったわけだし、父上も1日中側についていたわけではない。今だって姿が見えないし。だから、母上にはずいぶんと苦労をかけただろう。ノアリのことはもちろん、キャーシュのことだって……
「……ん?」
そういえば、キャーシュはどこにいるのだろう。夜も遅いし、寝ているのではと思ったが、外も含め結構騒がしくなっているのに、まだ寝ているのだろうか。
キャーシュの居所を母上に聞くと、どうやらキャーシュはロイ先生が引き取って預かっているらしい。母上はノアリの面倒や他の『呪病』患者にかかりっきりだったし、ならばとキャーシュを預かってもらったのだという。
キャーシュには寂しい思いをさせているから、早く会いたかったが……そういうことなら、仕方ない。
「さて……ヤネッサもクルドも、ついてきてくれてありがとう」
この問題には関係ないはずの2人……けれど、最後までついてきてくれた。改めて、お礼を言う。
ヤネッサはエルフの森に、クルドは竜族の村に帰らなければならない。2人と過ごした時間は短くはない。ヤネッサには、会いに行こうと思えば行けるだろう。だが、クルドはそうもいかない。
竜族の村なんて、転移石で到達した『王家の崖』、その結界を抜けなければいけない。そう簡単な話ではない。
「何度も頭を下げるな、笑っていろ」
「そうだよー。大事な子を救えて、よかったね!」
「……うん!」
ノアリを助けられたのは、2人がいてくれたおかげだ。ヤネッサはなんだかんだで、気分が下がりそうなときに盛り上げてくれたり、励ましてくれた。クルドだって力になってくれた。
2人には、感謝してもしたりない。改めてなにかできないかな……そうだ、エルフの森に転移石を返しに行くから、ジャネビアさんにもお礼を言わないと。
……転移石を渡してくれたエーネにも……うーん……一応、感謝は、している……
「……」
母上に、エーネに会ったと言ったらどんな反応をするだろう。いや、どうも思わないか……少なくとも、俺の正体を知らないうちは、なんとも思うまい。
エーネは、俺の正体を内緒にしてくれると約束はしてくれた。それを俺が100%信じられるかはともかくとして、本人は嘘を言っているようでは、なかった。
だがまあ……今は、いいだろう。今は……
「ヤーク……」
小さく、しかし確かに俺の名前を呼ぶ声。それは未だベッドに眠るノアリのもので、俺はゆっくり近づいていく。
ノアリが、俺に手を伸ばしている。俺は、そっとその手を取る。
「なに、どうした?」
「あの……ありがと、うね」
まだ体調は完全には戻っていないのか、弱々しい様子でそれでも笑顔を向けてくれる。その笑顔を見ただけで、声を聞けただけで、今までの疲れや考え事が、全部吹っ飛んでいく気がした。
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