第28話 旅へ向けて



 ノアリを助けるために北……いやエルフの森へ向かうことを決め。そこにはアンジーも同行してくれることになった。予想外だが、結果としてありがたいことだ。


 さて、残る問題はまだあるものの、まず必要なのは両親への報告だ。いかにアンジーがついてきてくれるとはいえ、俺が発つことに反対はされることだろう。


 やはり、バカ正直に話すというのは……



「旦那様、奥様。私とヤーク様で、エルフの森へ行ってきたいと思います」


「!?」



 アンジーさん!? 広間に戻った途端、いきなりなにを言っちゃってんの!? せっかくどうやって穏便に伝えようかって考えてたのに!


 いきなりのことに、父上も母上もポカンと呆気にとられた表情を浮かべている。そりゃそうだ……内容も内容だが、過程がまったくない。



「えっと……どういう、こと?」


「ノアリ様を治せるかもしれません」



 アンジー、いつもこんな、結論から告げるタイプではない。言いたいことを整理して、順序だてて説明するタイプだ。


 なのに、今回はそれが見られない。いつもの冷静なアンジーではない……冷静に見えるだけで、アンジーも焦っているのか?



「……ヤーク、どういうことだ」


「……」



 これは……ちゃんと、説明するしかないか。鼻で笑われるかもしれない、馬鹿げた話を。


 ……それとも、旅立つならちゃんと、ごまかしたりせずに説明しろってことだろうか。俺に説明させるためにアンジーは、敢えて結論から述べたのか?



「実は……」



 仕方ない、一から話すしかないか……エルフの森へ向かおうと思った経緯を。ノアリが治るかもしれないという根拠を。結局、話すしかないってことか。


 俺は、例の本のことを話した。それは、一度アンジーにもしたのとほぼ同じものだ。ただ、そこにいくつか加えるべき項目はある。ノアリお気に入りの本のこと、その内容、『竜王』、その本を書いたのはアンジーの祖父であること、アンジー曰く嘘だけとは思えないこと、その人物はエルフの森にいること……


 なるべく、情熱的にならないように。話したいことを、きちんと話せるように。馬鹿げた話かもしれないが、俺はノアリを救いたいと真剣に思っていることを。


 話し終わるころには、ノアリの両親も揃い、4人が俺の話を聞いていた。



「……以上です。なんと言われても、俺は行きますよ」



 最後に、たとえ反対されても行くのをやめないことを伝える。それだけ本気だと、伝えるために。


 最中、誰も口を挟む者はいなかった。俺の話を真剣に聞いてくれていたのか、それとも呆れてものも言えなかったのか……



「……そうか」



 やがて、ため息とともに声を漏らしたのは父上だ。ノアリのことが最優先な今、こいつに対する複雑な感情は一旦しまおう。


 今はあくまで、この2人の息子……その態度を貫かねば……



「なら、旅の用意をしないとな。ミーロ」


「はい」


「……へ?」



 どんな反対をされるか……反対されるのは確実だと思っていたため、その反応は予想外だった。ここを発つことを認めてくれたどころか、旅路の準備まで?


 思わず、呆気にとられてしまう。



「あの……俺から申し出ておいてなんですが、いいんですか?」


「んー? 確かにヤークひとりなら止めてたけど……だってアンジーも一緒なんでしょ?」


「え、えぇ」


「なら、問題ない」



 俺の、というより、アンジーへの絶大な信頼。それこそが、2人の反応の正体……俺はまだ8歳の体だから、そういった面での信頼がないのは仕方ない。だが、アンジーがついているかどうか、これだけで……


 アンジー……ただのメイドさんだと思っていたが、何者なんだ?



「こういうことですので奥様、申し訳ありません。しばらくお暇いとまを……」


「いいえ、こちらこそヤークをよろしくね」



 俺が転生するより前からこの家で働いていたアンジー……その信頼度が、すごい。



「ヤークワードくん……ノアリのためにそこまで……」


「ありがとうね!」



 こっちはこっちで、ノアリの両親にお礼を言われてしまう。気持ちはわからんでもないが、それを受けとるのは無事目的を果たせたときだ。


 ともあれ……これで、心置きなく旅立つことができる!

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