第583話 お変わりないようで



 いつの間にか、魔導学園についていたみたいだ。

 わりと距離はあったはずだけど、考え事をしていたらあっという間だった。


 門の外から中を覗くと、敷地内ではざわざわしていた……と思ったら。

 外には、誰もいないようだ。


 ……ゴルさんがしゃべっているのを、室内で映像用の魔石でみんな聞いているんだろう。

 じゃあ、みんながいるのは食堂とかだろうか。それとも集会場?


「職員室に行けば先生はいるかな」


 私としては、学園に残してきたルリーちゃんも気になる。

 ナタリアちゃんやフィルちゃんと一緒だろうか? みんな一緒にいるのかな。


 まあ、みんなどこにいるのかわからないし……とりあえず、食堂にでも行ってみようか……


「あっれぇー、エランちゃんじゃん? おひさァ!」


「……」


 適当に人がいそうな所に行こうかと考えていると、この静かな空間に似合わない声が響いた。

 その声に私は、聞き覚えがある。なんと、底抜けに明るいと感じる声だろうか。


 そっと、声の主の方へと視線を向けると……


「やっほー、オレオレ!」


「……先生」


 この国ではまずお目にかかれないと思っていた、金色の髪。白い肌。緑色の瞳。尖った耳。

 エルフであり、混の魔導学園在中の教師。


 私たちのクラスの教育実習生、ウーラスト・ジル・フィールド先生がいた。

 生徒会副顧問でもあり、なんとグレイシア師匠の弟子だという。


 なんかきゃぴきゃぴした感じの、エルフだ。彼はにこにこと笑顔を浮かべながら、私に近づいてきた。


「やぁー、戻ってきたって聞いたけど、元気そうでなによりだよ!」


「……先生こそお変わりないようで」


 なんでこの人、このテンションを持続し続けられるんだろう……会ったときからこんなだ。

 とはいえこれでも、私じゃ全然敵わないくらいに魔導に秀でているんだよなぁ。


 "フィールド"とは先生の弟子を表すものみたいだけど、最初はあまりの胡散臭さに疑いまくったものだ。


「そうかい? キミはなんだか……そう、逞しくなったように見えるよ。魔大陸で鍛えられてきたのかねぇ!」


 どうやら、私が戻ってきたこと含めて、理事長たちに話したことは教師たちに伝わっているようだ。

 私としても、説明の手間が省けて助かる。


「それで、ここでなにをしているんだい?」


「それは先生こそ。

 今ゴルさ……ゴルドーラ生徒会長の言葉が映像用の魔石で流れているでしょう」


 先生たちなら今、職員室にいると思っていた。

 そりゃ、全員が全員だとは思わないけど……それでも、なんで一人でここにいるんだろう。


 すると彼は、にこにこと笑顔を浮かべたまま口を開く。


「今やってるのって、みんなが混乱してるのを鎮めるためと状況の説明だろう? そんなの、聞いてもあんま意味ないってね」


「……もしかして先生も、洗脳受けてなかった?」


「さあねー」


 相変わらず、よくわからない人だ。

 この国に、先生以外にエルフはいない。だから、ニンギョと同じようにエルフも洗脳を受けない体質、とかでも不思議じゃない。

 ルリーちゃん国外に出てたからわからないしね。


 ……ま、どっちでもいいか。


「それで、みんな食堂にいるんですか?」


「いや、集会場の方だ。あそこのほうが大きいからね。

 他の先生たちもそこにいるよ」


 そっか、みんな固まって同じ場所にいるんだね。

 だったら、私もそこに行こうかな。


「ゴルドーラ生徒会長の演説に加えて、他の先生方も生徒の混乱を抑えようって躍起になってる。だからこそ、同じ空間にいるのかもね」


「……あんたも先生でしょうが」


「教育実習生、ね」


 それでも生徒を落ち着かせる立場にいるんでしょうが……と。

 これ以上は言っても無駄な気がしてきた。


 まあいいや、ここでじっとしてても仕方ないし、歩こう。

 私が足を進めると、先生もその後ろをついてくる。


「……そういえば、今って学園は休校なんですよね」


 ただ歩くのもなんなので、誰かに聞こうと思っていたことを聞いてみよう。

 一応教師の部類なんだろうし、いろいろ知っているだろう。


「ああ、そうだよ」


「それ、いつ再開するとかって決まってるんですか?」


「そうだねぇ……魔導大会の事件で国中がめちゃくちゃになり、その対応に追われてた。けど、それも順調に復興が進んでいく。

 順調ならあと数日……ってところだったろうけど、今回の件がどう影響するか」


 ……本当ならあと少しで、学園は再開していた。でも、今に至ってはどうなるのかわからない。

 なにせ、国中を巻き込んだ洗脳事件があったばかりだ。


 これが影響するのか、はたまた影響しないのか。

 そこは、お偉いさんのほうで決めることだろう。


「じゃあ結局未定ってことですか」


「そだねー」


 別に、学園が再開しなくても友達と会えないわけじゃない。同じ敷地内にいるんだ、会おうと思えば会える。

 でも、そういうことじゃないんだよなぁ……やっぱり寂しいっていうか。


 あぁでも、今のまま再開したら……困る事もあるよな。

 たとえばクレアちゃん。今学園が再開しても、果たしてクレアちゃんが登校できるか疑問だ。


 学園が再開してもクレアちゃんが引きこもったままじゃ寂しいままだ。

 でもクレアちゃんを外に出すにはまずはルリーちゃんとの和解が必要だろうし……

いやその前に、クレアちゃんって今の状況理解してるのか? 自分のことで手一杯なんじゃないか?


「うがぁー!」


「?」


 クロガネは、考えるのは私らしくないって言ってたけど……

 それでも、いろいろ考えちゃうよぉー!


「おーい、ついたぞー?」

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