第578話 ぶっ殺してやる!
ノマちゃんが着替えてくると言ってから十分以上が過ぎた。
私たちはただ待つばかり。ノマちゃんにもいろいろ協力してもらったし、ノマちゃんのいないところでいろいろ進めるのもアレだろう。
まあ、ただ待つだけって言うのも暇なんだけどね。
「まったく、ただ着替えるだけでなにをしているのか」
「ダメですよゴルドーラ様、女性にはいろいろあるのです」
「そうだよゴル兄様。女の子にはいろいろあるんだから」
「う、うむ」
待っている間、ゴルさんがいろいろ言われているのが面白かったな。
それから、さらに十分ほど。
「お、お待たせしましたわ!」
パンッ、と扉を開け放ち、ノマちゃんが戻ってきた。
はぁはぁ、と肩で息をしている。急いで来たのだろうか。
せっかく髪を整えていたのに、またちょっとぼさぼさになっちゃってるよ。
まああのドリルは、そうそう崩れそうにはないけど。
「そんなに急がなくてもよかったのに」
「い、いえ……みなさんを待たせては、申し訳ないと思ったので……」
「ならば別に着替えなくても……」
「ゴルドーラ様?」
「……なんでもない」
戻ってきたノマちゃんは、露出が控えめなかわいらしい服装に着替えていた。
普段は、あまり露出なんか気にしないのに……やっぱり、王族の前だからわきまえようとしているのか。
……いや、王族の前だからじゃない。コーロランの前だからか。
「それで……この方が、ですの?」
「うん、そうだよ」
「黒髪黒目の……
いったい、どこのどなたですの? というか、なんで上半身裸ですの?」
「ノマちゃんはよく知ってるはずだよ。ブリエさん……彼女が彼なんだよ。上半身裸なのはなんかいきなりこうなった」
「……? …………??」
ノマちゃんが、口をぽかんと開けて首を傾げていた。
気のせいか、背景に宇宙が見える気がする。宇宙ノマちゃんだ。
あー……ノマちゃんは、ブリエをかっさらう場面を最後に状況はわかっていないんだよな。
あのときノマちゃんがレーレちゃんとピアノの先生を足止めしてくれたおかげで、難なく事を勧められて……
「そういえば、レーレちゃんとピアノの先生は大丈夫なの?」
「今気にする所そこですの!?」
それもそうか。
ノマちゃんからしてみれば、今まで同僚として働いていた人が実はこの筋肉おぞさんなんだよって言われたんだもんな。
レーレちゃんが知ったら泣いちゃうよ。ブリエのこと大好きっぽかったのに。
「そんな幼い子の気持ちを踏みにじって……最低なおっさんだよね」
「なんの話ですの?」
とりあえず、ノマちゃんに事情を説明。
それを知るにつれて、ノマちゃんの表情は青ざめていった。
そりゃそうだよね。同僚で先輩の美人メイドさんが、実はおじさんでしたなんて……
「そ、そんな……
わ、わたしく、ブリエさんの前で着替えたりもしましたのよ!?」
「よしぶっ殺してやる!」
「エラン!?」
ノマちゃんの驚愕に震える言葉を聞いた瞬間、私は手が……いや足が出ていた。
座ったままのイシャスの体を蹴り飛ばす。「ぐへっ」という声が聞こえた直後に体が横たわる。
「なに座ってんだこら! ノマちゃんの裸見といてずいぶんな態度じゃねえかおぉん!?」
「べ、別に裸まで見せてはいませんわよ! というか、座らせて縛っているのフィールドさんたちでしょうに!」
ノマちゃんに押さえられ、私は息を荒くしながらも落ち着きを取り戻していく。
そ、そうか、着替えたっていっても裸にはなっていないのか……
ノマちゃんもそこまでは気にしていないようだし、ならまあ……?
それにしてもこの変態黒髪野郎!
「わ、わたくしのことで怒ってくださるのは嬉しいですけれど。本題に入りましょう」
「そ、そうだね」
それから私は、私たちは自然とリーメイへと視線を向けた。
大勢から視線を向けられて、リーメイは少し照れているようだ。
「そ、そんなに見つめられると恥ずかしイ」
「リーメイ、と言ったか。本当に、洗脳を解けるんだな」
「解けるヨー。任せといてヨ」
初対面のゴルさんにも、臆した様子はない。
この手で触れればそれだけで完了だと、リーメイは自分の右手を振る。
「そうか。なら、よろしく頼む」
「はーイ」
ニコニコと笑いながら、リーメイは移動を開始。
向かう先は、蹴り飛ばしたことで倒れたままのイシャスのところ。
そしてリーメイは、腰を屈めて手を伸ばし……右手を、イシャスの頭へとポンと置いた。
「はい、おしまイ」
「はっ、なにをバカな。こんなもんで、俺の洗脳が解けるわけが……」
「ぬ……確かになにやら、妙な感じだ」
「えぇ、頭の中のもやが晴れていくような」
それは、とてもあっさりしたもの……イシャス本人が驚くのも、無理はないだろう。
国中に及ぶ大規模な力が、たった頭ポンだけで解かれたというのだから。
私には、洗脳が解けたかどうかの実感はないけど……ゴルさんたちを見るに、どうやら成功したらしい。
「そうだ、俺は王族……なぜ、その地位を失ったと、思い込んでいた?」
「えぇ……それに、新しく国王になっていたレイドという男に疑問をいだいていなかったのも、なぜ……」
洗脳によって無理やり書き換えられていた事実が、頭の中で修正されているようだ。
そしてそれは、外にいる国民のみんなも同じ。
さあここからは、ゴルさんの仕事だ!
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