568話 黒幕に会いに行こう



 気のせいだろうか。リーメイが今、すごく核心的なことを言った。

 私以外もそれに気づいたのか、固まってしまっている。みんな、じっとリーメイを見つめていた。


 その視線を受けて、リーメイはキョロキョロと首を動かして。


「ど、どうしたノ? みんな黙っちゃっテ……お腹痛いノ?」


 きょとん、とした様子で首を傾げていた。

 いや、きょとんとしているのは私たちだけど!?


「えっと……今、なんて?」


「エ? ……みんな、お腹痛いノ?」


「違う! もっと前!」


 顎に指を当てて答えるリーメイ。とぼけているわけじゃないんだろう……この天然め! 今可愛いこと言ってる場合じゃないのよ!


「あのブリエさんが、みんなを洗脳しているって聞こえた気がするんだけど……」


「ン? うん、そうだヨー」


 そうだよーって……そんなあっさり!?

 私は、開いた口が塞がらない。


「……それは、本当か?」


「間違いないと思うヨー」


 確認するようなシルフィ先輩の問いにも、リーメイはうなずいて答えた。

 やっぱり、嘘でも冗談でもないみたいだ。


 ……そういえばさっき、リーメイはぼーっとどこかを見ていたけど……あれってブリエさんの後ろにあった人形をじゃなくて、ブリエさんをだったの!?


「えっ、えっと……そういうのって、見ればわかるんですの?」


「まァー……他の人にはない、邪悪な感じがしたからネ。腹にイチモツ抱えてるのは間違いないと思うヨ」


 はぁー、それもニンギョの特殊能力みたいな感じなんだろうか。

 なんにせよ、黒幕がわかったってのは……思いがけずだけど、早いに越したことはないもんね。いいことだ。


 だけど、少しだけど話した感じ悪い人には見えなかったけどなぁ。


「なら、どうする。こっちがわかってるんだ、とっ捕まえて尋問するか」


「判断が早いよ! まだ確定してないのに!」


「お前……リーメイの言葉を信じていないと?」


「そういう問題じゃなくてね!?」


 というか先輩は、リーメイと会ってまだ数時間なのになんでそんなリーメイ推しになってるんだよ!

 私だって、リーメイの言うことは信じてるさ。


 でも、あの人が犯人ですだから捕まえましょう、ってのは展開が早すぎて整理できていない。


「ブリエさんですか……」


「ノマちゃんは、あの人の印象どんな感じ?」


「そうですわねぇ……年上の頼りになる女性、と言いたいところですが……しょっちゅうドジをしている記憶がありますわね」


「別に人間性などどうでもいいだろう。犯人がわかったなら即座に捕まえるべきだ」


 ノマちゃんが言うには、ブリエさんはドジだという。まあ、見てたらなんとなくわかる……

 対して先輩は、犯人であるならばそいつの人間性は関係ない、と言っている。


 そりゃそうなんだけど。


「ほら、こんなことした経緯とか、気になるじゃん」


「そんなもの、本人に直接聞けば済む話だ。あの女が国中を変にしたのなら、そのツケは払ってもらう。

 そしてゴルドーラ様を、新たなる国王として据える」


 あ、この人これが本音か! さっさと問題解決して、ゴルさんを国王にしたいんだな!

 確かに、今の状況はゴルさんを国王にさせないようにしているようなものだから……ゴルさん信者としては、我慢ならないのか。


「他にも気になるのは、国王やレーレちゃんに依頼されてやったことなのか、あるいは国王やレーレちゃんも自分が王族だと思わされているのか……」


「それも、聞けばわかることだ」


 結局、犯人がわかったならあとは捕まえることだ。

 幸運にも、向こうは私たちが気づいたって知らないはずだし。


 リーメイの言葉だけで確信するのも、なんだか危ない気はするけど。


「もし間違ってたら……」


「そのときは、ごめんなさいすればいいことだ」


 ……この人ホントに生徒会の書記なんだろうか。

 それだけ、必至ということか。


 ブリエさんを捕まえて、なんでこんなことをしたのか聞く。洗脳を解いてもらって、みんなに違和感が残らないようにしてもらう。

 リーメイが触れればすぐに洗脳は解けるみたいだけど……それは、最終手段ということで。


「では、早速ブリエさんにお話を聞きますか?」


「国中の人間を洗脳するような女だ、慎重にな」


 これまで……といってもたった数分の間しか接していないけど、あのドジなメイドさんにそんな大それたことができるのか。

 それも、本人に聞けばわかることか。


 まずは、ブリエさんを捕まえる。私とノマちゃんでさりげなく近づいて、リーメイと先輩は後方に控えてもらう。

 同僚のノマちゃんと、友達の私なら警戒させることなく近づけると思ったからだ。


 全員、お互いと視線をかわしてからうなずく。それから、部屋を出る。


「それで、ブリエさんは……」


「お嬢様の予定に付きっきりだと思いますので、おそらくこっちですわ」


 レーレちゃんのこの後の予定が忙しいからと、ブリエさんは言っていた。

 ってことは、レーレちゃんのいる先にブリエさんもいる。


 そしてノマちゃんなら、レーレちゃんの予定も知っているってことか。


「ここですわ」


 とある部屋の前に着く。立ち止まり、扉に耳を当てる。

 すると……部屋の中から、なにか音色のようなものが聞こえた。


 これは……


「ピアノ?」


「えぇ。この時間、お嬢様はピアノの稽古ですわ」

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