518話 私のほうが仲良いヨ
「思ったんだけど、私だけなら透明化の魔法使って学園に潜入すればクレアちゃんに会いに行けるんじゃない?」
「なんの話ですの?」
「いやでも、それ不法侵入か」
部屋を出て、王の間へと戻る最中。隣を歩くノマちゃんとレーレちゃんを見る。
レーレちゃんはノマちゃんの手を握り、ニコニコしながら歩いている。
こうして見ていると、姉妹みたいだなぁ。
二人とも金髪だし、見た目もそう変じゃないし。
「レーレちゃんは本当に、ノマちゃんが好きなんだね」
「うんっ、ノマおねえちゃん大好き」
「まーっ、かわいいですわ」
レーレちゃんの告白を受けて、ノマちゃんはレーレちゃんを抱き上げる。
いきなり抱き上げられても、レーレちゃんは「キャーッ」と言うが喜んでいるようだ。
ノマちゃんとレーレちゃんの関係は、要はメイドと雇い主。
でも、二人の関係は……それ以上のものを、感じさせた。
「さ、着きましたわ」
レーレちゃんはノマちゃんに抱っこされ、足をぷらぷらさせている。
そんな中、王の間へとたどり着く。
ここまで迷わずに戻ってくることができた。
ノマちゃんったら、すっかりお城の道を覚えたんだな。
「国王様、戻りましたわ」
コンコン、と扉をノック。ノマちゃんは部屋の中に語りかける。
ノマちゃんは、あの国王が何者なのか疑問に思っていない。その謎を解き明かすために、自らここに残ることを選んだ。
ノマちゃんは、お城の中でここの人たちを調べる……そして私が、外のことを調べる。
これはさっき決めたことだ。こうやってノマちゃんと会う機会を作れば、情報共有もできるし。
「あぁ、入れ」
部屋の中から返事があると、ノマちゃんはそっと扉を開けていく。
部屋の中に足を踏み入れると、部屋を出ていく前と同じ光景……というわけでもなかった。
エレガたちの姿が、消えていた。
「再会の挨拶は、済んだか?」
「はい、ご配慮ありがとうございますわ。
それと、先ほどは取り乱してしまい、申し訳ございません」
「構わぬ」
おぉ……ノマちゃんがすごく、できる人っぽい!
普段あんなんだけど……ちゃんと、してるんだな。
「おとうさまー」
「おぉ、レーレー!」
ノマちゃんに抱かれたままだったレーレちゃんはノマちゃんの腕の中から飛び降り、両手を広げて国王へと駆け寄っていく。
国王もまた、両手を広げて娘を迎えた。
もはや王の威厳もなにもあったもんじゃない。
まあ、あんなかわいい生き物が駆け寄ってきたんだから気持ちはわかるけど。
「やっぱりお父上が大好きなのですわね」
「……そういえばノマちゃんのご両親は、ノマちゃんがここで働いていることにどう思ってるの?」
「王族の下で働けるなどこれ以上の幸福はない、と喜んでおりましたわ」
私は小声で、ノマちゃんに聞く。
娘のこの状況を、両親はどう思っているのだろうと思っていたのだけど……
……なるほどね。私は貴族社会のあれこれとかには疎いけど、確かに……
『王族の下で働く』なんてとても光栄なことなんだろう。
……その王族自体が怪しいとは、かけらも思ってないんだろうな。
それと、ノマちゃんの顔がどこかげんなりしているように見えるのが、気になる。
「はじめましてー、リーはリーメイだヨ!」
「! あら、これはご丁寧に」
ノマちゃんの表情に気付いてかそうでなくか、リーメイが声を上げてノマちゃんに挨拶をした。
多分なにも考えていないんだろうけど、ナイスタイミングだよリーメイ!
手を上げて、ぶんぶんと振っている。
「ノマ・エーテンと申しますわ。以後お見知りおきを」
「ノマかァ……ノマはエランのお友達?」
「え、えぇ。もちろんですわ」
「そっかァ、お揃いだネ! でもリーはずっとエランと旅をしてきたから、リーの方が仲良しだヨ!」
おっとリーメイさん? なぜに立ち上がって、私と腕を組む?
「あ、あらあらあら。おほほほ」
そしてノマちゃんはなぜに笑っている? あと笑顔が怖いよ。
リーメイが組んでいるのとは逆の腕を、ノマちゃんにがしっと掴まれる。
「旅、とは……せいぜい数日のことでしょう? わたくしは、魔導学園に入学してから、クラスは違えど寮の部屋は一緒で、何カ月も一緒でしたのよ? わたくしの方が仲は良いですわ」
「仲良いのに時間は関係ないヨ。それに、リーたちは時間は短くても濃密な時間を過ごしてきたからネ!」
「ののの、濃密!?」
痛い痛い痛い! ノマちゃん腕引っ張らないで! 摘ままないで! 外れちゃう、腕外れちゃうから!
なんだか知らないけど、二人の間でなにかが起こっている!?
このままじゃあかんことになる! 助けてヨル!
「……」
あいつ、私たちの様子を見て口元押さえて肩を震わせてる……笑いをこらえてやがる!
ちくしょう、覚えてろよ!
「ごほん」
「あっ。し、失礼しましたわ」
このまま二人による引っ張り合いが続くかと思いきや、国王の咳払いによって正気に戻ったノマちゃんが、腕を解放してくれた。
た、助かった……あ、ちょっと赤くなってる。
ノマちゃんは恥ずかしそうに頭を下げたけど、チラッとリーメイを見ていた。
対するリーメイは、なぜか勝ち誇ったような表情を浮かべていた。
「ど、どうしたのリーメイ」
私は小声で、リーメイに聞く。
なんでこんな、ノマちゃんに突っかかるようなことを? いや、なにを突っかかったのかいまいちわかってないんだけどさ。
「別にー、なんとなク」
少し顔をそらして、リーメイはそう言った。
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