485話 次なる目的地へ



「それじゃあ、またね!」


「うん、またね」


 出発の直前に、パピリたちとお別れの挨拶を済ませる。

 案外あっさりしたものだけど、湿っぽくなるよりはいいかな。


 それに、また会いに来ることも出来る。位置さえわかれば、クロガネに乗ってひとっ飛びだろう。

 ただ、それまでには私も透明化の魔法をよく覚えておかないと。クロガネであちこち飛び回るわけにもいかないし。


 私たちは、それぞれクロガネに乗る。


「では、達者でな。いずれまた、来るといい」


「うん。またね」


「ばいばーい!」


 パピリたちは手を振ってくれ、ラッヘやリーメイもまた大きく手を振り返す。

 少し名残惜しくもあるけど、魔女さんの言うようにまたいずれ、ここに来よう。


 今度来る時は、ラッヘも記憶が戻っていたら……師匠と同じ顔の魔女さんを見て、どんな反応をするだろう。


「……透明化」


 魔女さんがクロガネの体に手を当てると、手のひらが淡く輝き出す。

 その光が一瞬強くきらめき、私たちの視界を覆ったかと思えば……視界が晴れた先には、別段と変わった様子はなかった。


 だけど……


「あれ!? おっきなドラゴン消えちゃった! エランちゃんたちも!」


 じっとクロガネの姿を見上げていたパピリが、驚いたように大きな声を出す。キョロキョロと首を動かしていた。

 その様子を見るに、私たちを含めたクロガネの姿が見えなくなっているのは、間違いない。


 パピリは嘘をつける性格じゃないし、他の村人も同じように驚いている。

 私たちからじゃわからないけど、外から見たらちゃんと姿は見えなくなっているのだ。


「へぇ、すごい」


 自分じゃ、自分が透明になったのかはわからない。

 それに、隣のルリーちゃんたちも私には見える。どうやら、一緒に透明になっている人同士は相手のことが見えるみたいだ。


 すっごい魔法だ。改めて、これをやる魔女さんのすごさがわかるよ。


「あ……」


「……」


 外から、私たちの姿は見えていない。それはパピリたちの反応を見ていれば、わかる。

 そのはずなのに……魔女さんは、じっとこちらを見ていた。


 魔法をかけた本人だからか、それともただの勘かはわからないけど……それでも、私とバッチリ、目があっていた。


『では、行くぞ』


 クロガネが言い、直後翼をはためかせて飛び上がる。

 大きな翼だ。バサバサと動かしただけで、周囲には突風が吹き荒れる。


 姿が消えていても、クロガネが動くことで起こる風までは消えはしない。

 パピリたちは風を受けて「わーっ!」と、慌ただしく騒いでいた。


 飛ばされないように気をつけてもらいたい。


「みんな、またね」


 誰にも聞こえないだろうけど、私は小さくつぶやいて……上昇するクロガネに掴まり、だんだんと小さくなっていく魔女さんたちを見ていた。


 空へと上がっていくことで、地上にいる魔女さんたちはあっという間に小さくなり……

 クロガネが移動を開始すると、魔女さんたちの姿は次第に見えなくなっていった。


「また、会いに来ましょう」


「うん」


 魔女さんたちと別れを告げ、私たちは進む。

 やっぱりクロガネに乗って移動するのは、徒歩で移動するのとは比べるまでもなく断然速い。


 これは楽ちんだ。クロガネにはやっぱり、負担をかけてしまうことになるけど。


『気にするな。この数日、ワレは存分に休ませてもらった。体力なら問題はない』


 と、私の心を読み取ったクロガネが答えてくれる。

 うぅん、なんと頼もしい言葉だ。なら、遠慮なく任せちゃおっかな。


 こうして飛んでいると、吹き抜ける風が気持ちいい。うっかり、飛ばされちゃわないように気をつけないとだけど。


「魔女さんは、こっちの方向だって言ってたけど……」


 出発の前、魔女さんにはベルザ王国の方角を占ってもらった。

 今飛んでいっている方角へ、まっすぐ。クロガネのスピードなら、そう時間がかからないうちにたどり着けるようだ。


 しっかし、こうして飛んでいると大陸って広いよなぁ……

 みるみる、国や村が見えては消え見えては消えていく。こんなにたくさん、人が住んでいるところがあるんだ。


 その間も、飛んでいるクロガネが見つかることはなかった。

 クロガネほどの強大な魔力なら、たとえ姿が消えていても察知する人はいるかもしれない。けれど、魔力を察知した頃にはもうその場から飛び去っている。


「……なんか、今思ったんだけどさ」


「なんですか?」


「これだけ速いスピードで飛んでいけるんだから、クロガネの姿が視認されて敵だと判断されても、攻撃される前にその場から逃げることできたと思うんだよ」


「…………深く考えてはためです」


 思ってしまったことに、ルリーちゃんは首を振る。しかも、私たちに気を遣って飛んでいるから本気のスピードはもっと速いんだよね。

 これはまあ、深く考えたらだめなやつだもんね。


 その後、ルリーちゃんやラッヘ、リーメイとお話をしたり……クロガネの背中で酔ったエレガたちが、上空から垂れ流してしまったり。

 いろいろなことがあったけど、空が薄暗くなってきた頃……


「あ……」


 なんでかわからないけど、わかった。

 私の知っているなにかが、近づいてきているということを。いや、なにかに近づいているんだ。


 そして、そのなにかは……

 視界の先に、一つの国が映った。上空から見たことなどない……けど、わかる。


 あれは……ベルザ王国だ!

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