482話 明日出発



「うわぁ……」


 日も沈み、周囲は暗くなりすっかり夜。

 今日も温泉に入らせてもらい、戻ってきた私たちの前には……豪華な料理の品々が、並んでいた。


 どこから出してきたのか大きなテーブルがいくつも並べられていて、その上には数え切れないほどの料理。

 その多さや豪華さに、開いた口が塞がらない。


「これはまた、ずいぶんと豪勢だな」


「魔女さん」


 驚いている私たちの下に、魔女さんがやってくる。


「これって……」


「やけに張り切っていたぞ。明日にはキミたちが出発するから、今日は豪勢にお祝いしたいとな」


 どうやらパピリがみんなに呼びかけてくれて、ここまで大きな規模になったらしい。

 お祝いと言うから、ささやかなものだと思っていたのに……


 まさか、村を巻き込んでのお祝いとは。


「わー、おいしそー!」


「そうだねェ」


 並べられた料理を見て、ラッヘとリーメイはよだれを垂らしている。

 私も正直、さっきからお腹の音が鳴ってしまいそうだ。


 そんな私たちの前に、一匹のうさぎ……パピリが姿を現した。


「みんな! ようこそ!」


「ありがとうねパピリ、こんな豪華にしてもらって」


 私たちなんて、この村に来てからまだ一日程度なのに。

 ここまで良くしてもらえるなんて。


「ううん、気にしないで!」


「あぁ、気にすることはないだろう。なにかにかこつけて、盛大に飲み食いしたいだけさ」


 腕を組み、周囲に視線を向ける魔女さん。

 その視線を追うように私も首を動かすと、その先ではすでに料理に手を付けているモンスターがいた。


 私たちのお祝いだというのに、もうパーティーが始まっているようだ。

 まあ、別にいいんだけどさ。


「ごめんね! 本当はエランちゃんたちが来てから、始めようとおもったんだけど! 始まっちゃった!」


「あはは、いいよいいよ。そのほうが私たちも気兼ねなく食べられるし。

 じゃ、みんないただこうか」


「ですね」


「わーい!」


 そういうわけで、私たちも料理に手を付ける。

 どれも、私たちが普段食べているものと変わらない。お肉や野菜と、様々な種類が並べられている。


 これを、モンスターが作るんだもんなぁ……しゃべって、会話をして……料理まで作れる。

 本当に、人と変わらないよ。


「うん、おいしい!」


 料理の味付けも、バッチリと言える。

 ……こうして賑やかな空間での食事は、久しぶりだな。学園での、食堂を思い出す。


 みんな、集まってお話しながらご飯を食べて……

 楽しかったよなぁ。


「ほらほら、これも食いねえ!」


「あ、ありがとう」


 通りがかった一つ目一本足のモンスターに、骨付き肉を渡される。

 それにかぶりついていると、ふと魔女さんが私を見ていることに気づいた。


 なんとなく、呼ばれている気がして……私は、魔女そんのところに向かう。

 ルリーちゃんも、ラッヘも、リーメイも。それぞれ村人たちと楽しそうに食事をしていた。


「いやぁ、こんなに祝ってもらって。嬉しいねぇ」


「それだけ、お前たちのことが気に入ったんだろう」


「そんなに関わりがないのに?」


「ないのに、だ」


 ここにいる村人は、パピリ以外ほとんどが知らない顔ばかりだ。

 昼間に買い物をしたときに、いろんなお店を回ったからそのときに、いろいろお話をした村人がいたかなってくらい。


 その人たちも、楽しそうにこのパーティーを楽しんでいる。


「魔女さんは混ざらないの? みんな楽しそう。

 あっちなんて、パピリが両手いっぱいににんじんを持ってるよ」


「あいつはいつでも自由だな」


 その様子に、魔女さんは笑っていた。


「……明日、出発するんだな」


「うん」


「透明化は完璧にしてやるから、まあ安心しておけ」


「うん。ありがとう」


 クロガネを透明化してもらえれば、クロガネに乗って移動できる。ただ私たちが歩くその何十倍も速い。

 透明なら誰かに見つかることも、それで騒ぎになることもない。


 私ではできないことを、この魔女さんはやってのける。すごい人だなぁ。


「どうせなら一度くらい、魔女さんと手合わせしてみてもよかったかもなぁ」


「なんなら今からやるか? 私はこの村の中では無敵だ、負けはしない」


「うわぁ、超余裕ぅ。

 ……でも、やめとくよ。戦ってみたいのは山々だけど、私たちのために魔力を溜めてくれてるんだもんね」


 この村では魔女さんはなんだってできる。それでも、戦ってみたいと思うのが私だ。

 でも、魔女さんはクロガネを透明化するために魔力を溜めている。その魔力を、私のエゴで消費させるわけにはいかない。


 ちょっと、残念ではあるけど……


「また、会うことがあればそのときに手合わせをしようじゃないか」


「……そうだね」


 また、会うことがあるだろうか。それは、わからない。

 でも、もう会えない……なんてことはない。少なくとも私は、会いたいと思っている。


 魔女さんとも、パピリとも、村のみんなとも。


「そうだ。さっき、ちょっと占いをしてみたんだ」


「占い?」


 思い出したように、魔女さんが言う。


「あぁ。

 ……エラン・フィールド。キミの周囲には、災いを呼ぶ存在が近づいている」


「災い……?」


「そうだ。災いを呼ぶ……それは、白髮黒目の、少女の姿をしている」


 魔女さんから告げられた言葉に、私は目を見開いた。

 白髮黒目って……それって、もしかして……


 フィルちゃんの、こと?

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