443話 躊躇なくなりましたよね



 思わぬところで、とんでもないことを知ってしまった気がする。

 この場所に立っている、デンチュウ……魔柱まばしらという柱が、魔力を放出しているという。


 魔力を放出してる柱……それはつまり、この柱が折れたり壊れたりしたら、魔力がなくなってしまう……?


「な、なにそれ……き、聞いたことないんだけど」


「じゃろうな。この魔柱の存在を知っとるものなど、ごくごくわずかじゃ」


 衝撃を感じる私とは逆に、じいさんはひどく冷静だ。

 というか、どこから出したのか……酒瓶を手に、一気飲みしている。


「だ、大丈夫なの? 何本もあるとはいえ、壊れたりなんかしたら……」


「魔柱はなにも、ここだけにあるわけじゃない。大陸の端……大陸を囲うように、同じように魔柱が立っていると聞く。

 それがすべて壊れれば、まあおしまいじゃろうがな」


 ぐいっと酒を飲みながら、じいさんは話す。

 視線は、一本の魔柱を見たままだ。


 他の場所にも、同じようなものがあるのか……


「あ、あの……」


「んん?」


「そ、そんな重要なこと、誰かに話して大丈夫なんですか?」


 ルリーちゃんが、聞く。その疑問は、もっともだろう。

 今の話を知った誰かが、悪意を持って魔柱を壊そうと考えるかもしれない。


 だけど、じいさんは首を横に振る。


「こいつが壊れれば、魔力はなくなりお前さんらは魔法も魔術もいずれ使えなくなる。

 それをわかった上で、これを壊そうなどと考える奴がいると思うか?」


「それは……確かに」


 これが壊れれば、魔力がなくなるというのなら。魔力を頼りに生活している人間は、これを壊そうだなんて思わないか。

 自分で自分の生命線を、切るようなものなのだから。


 だけど、それ以外の人なら……


「魔法を使えぬ人間ならば、どうかわからないと思ったろう。じゃがこれは、魔導によってしか壊れんらしい。それに、かなりの硬度を持つみたいだしな」


「なるほど……」


 魔導でしか壊せないけど、壊せば魔力のなくなるものを魔導を使って壊そうとは思わない……ってことか。

 確かに私だって、壊れたら困るというものを自分から壊そうなんて、思わないもんな。


 それにしても、これがそんなに重要なものだなんて。


「これが、大陸を囲うように立ってて……だから、魔力が発生している」


 もしかして、魔大陸でも似たようなものがあったのかもしれない。

 精霊さんが好まない魔力ではあるけど、魔導が使える場所であることには、変わりはないし。


「へぇ、こいつが魔力をねぇ」


 ふと、ここまで黙っていたエレガが、声を漏らした。

 いったいなにを考えているのか、じっと魔柱を見上げていた。


「まさか、変なこと考えてないよね」


 人では、魔柱を壊せない。でも、人以外ならどうだろう?

 魔物、魔獣……魔法じゃないと壊せないという魔柱だけど、それが本当に本当のことなのかは、わからない。


 このじいさんだって、言い伝えを聞いた話なんだろうし。でないと、壊れたことのない魔柱の詳細なんてわからないだろう。


「さあな」


 こいつはこいつで、素直にはいなんて言わないだろうなぁ。

 というか、素直にはいって言ったところで信じられないのが本音だな。


 こいつらは捕まえたままベルザ王国に連れて行くけど、万が一があってもいけないし……うーん……


「あ、そうだ」


 なにかいい方法はないかと考えていたところで、一つの魔法に思い至る。

 魔大陸じゃ魔力が制限されていたから、自然と選択肢から抜けていたけど……うん、これならいける。


 私は魔導の杖を抜いて、エレガの眼前に突きつけた。


「! てめっ、なにを……」


「『絶対服従』の魔法」


 私は、杖に魔力を決める。杖の先端が淡く輝き、目の前のエレガはそれにまぶしさからか目を閉じる。

 けれど、もう遅い。光を見たから魔法にかかったわけじゃなく、ただ魔法が放たれた合図として光っただけだ。


 同じく魔法を、ジェラとビジーにもかけていく。

 ちょっと解けかけているっぽいので、レジーにももう一度。


「なっ……これは……!」


「言ったとおりだよ。私の言ったことには逆らえなくなる。だから四人とも、この魔柱のことを他の人に話したり、壊そうとしたらダメだよ」


 四人に『絶対服従』の魔法をかけ、約束させる。口約束でも、これならば安心だ。

 四人の首には、紫色に光る輪のようなものが浮かぶ。というか首輪だ。


 これで、四人は魔柱のことを誰にも話せないし、壊そうともできないわけだ。安心安心。


「エランさん……わりとその魔法、躊躇しなくなりましたよね」


「そんなことないよ。こいつらがやな奴だから、躊躇なく使えるだけで」


 魔大陸だと、自分の魔力は満足に使えなかったからな。

 クロガネのおかげで問題は早々に解決したけど、あのときはクロガネがいたから私がそこまで警戒する必要もなかったし。


 けど、クロガネが休んでいる今、私がなんとかしなくちゃ。魔大陸を出たから、魔力には事欠かないしね。

 ……というか……


「なんかこの場所、魔力の濃度が高い?」


「そりゃそうじゃ。魔柱の真下にいるからな」


 私の疑問に、じいさんが答える。

 なるほどね。魔力を発生させている魔柱の下だから、普段よりも魔力を強く感じると。


 ただでさえ、魔大陸にいたんだ。魔力がないところからあるところへ……その高低差が激しいよな。

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