412話 不気味な魔獣



 白い、魔獣……だけど、これまでの奴らとは、違う。

 さっき倒した、三体の魔獣。それ以外にも、白い魔獣と対峙したことは、あった。


 そのどれとも……違う。

 この圧迫感は……レベルが、違う!


「なんだ、あいつ……!」


 空にできた、ヒビ……亀裂の奥から、四本の腕が出てきて、亀裂を広げてなにかが、出てきた。

 そいつが、白い魔獣。


 人型のシルエット……けれど、とにかくでかい。クロガネと同じくらいだろうか。

 本来生えている肩と、横腹から生えている計四本の腕。ゴツく、あれに握りつぶされたら一瞬でミンチにされちゃう。


 全体的に白く筋肉質な体だけど、お腹のところと腕に、黒い鎧を付けている。

 顔にも、目だけが空いた無地の黒い画面を付けていて……黒い髪の毛も、生えている。

 目は、真っ赤に光っている。


「まさかこいつを出すことになるとはな……プサイ!」


「ォオオオ……」


 プサイ……それが、この魔獣の名前か。


 なんだろう、これまでの魔獣は、みんないたずらに吠えたりして自分の存在を主張するものが、多かった。

 なのに、この物静かな雰囲気は、なんだ?


「どんだけいるんだよ、白い魔獣……!」


 ルリーちゃんの過去に出てきたのだか、王都で暴れまわったのとか……思ったよりも、いっぱいいるのか…!?

 白い魔獣……いや、"最上位種"ってやつが。


 ……そういえば、マーチさんが言ってたな。"最上位種"ってやつが……


「……嫌なこと思い出しちゃったな」


 ……"最上位種"ってやつが、"魔人"と同じ存在。つまり、ノマちゃんと同じ状態になった人間が、魔獣になったって可能性の話。

 それを知っているのは、ごく僅かだ。


 ってことは、だ……アレも、元は人間である可能性が高い。

 元は、人間……


『契約者よ』


「……うん、大丈夫」


 クロガネの声に、私は大丈夫だと答える。

 そのへんは、もう割り切ってる。これまでだって、白い魔獣は倒してきた。


 知ってたか知らなかったか、だけの違いだ。


「クロガネ、あいつ強いよ」


『あぁ、わかる』


 私はクロガネに乗り、魔獣を見上げる。

 顔が仮面で隠れているから、どんな表情をしているのかは、わからない。


 ただ、私たちのことを、じっと見ている。


「先制攻撃! クロガネ!」


「ゴォォォオオオ!」


 なにをしてくるのか、わからない。だから、まずはこちらからの先制攻撃だ。

 クロガネは口から竜魔息ブレスを放ち、棒立ちの魔獣にそれが直撃する。


 この一撃で倒せていれば、楽なんだけどな……


「ま、そんなわけないか」


 ブレスが直撃し、煙が周囲を包み込む。

 それが晴れると……魔獣は、変わらない姿でそこに立ったままだった。


 エレガたちの自信満々な様子から、切り札的なものなんだろうとは思っていたけど。


『ほとんどダメージがない、か。さすがに傷つくな』


 クロガネの攻撃が、通用しない。ただ無言で突っ立ったまま、こっちを見ている。

 その姿は、なんとも不気味だ。


 このまま、なにも動かないのなら……放置しておくのもありなんだろうけど。

 ずっとこっち見てるのが、不穏なんだよなぁ。


「ブォオオォオオ……!」


「!」


 ただ黙って、こっちを観察しているだけ……かと思いきや、低い唸り声を上げ、こっちに一直線に向かってくる。

 スピードは、そこまでない。だけど、圧倒的な圧力が迫ってくる感覚に、体が動かせない……


「ゴギャアアアアアアアアアア!」


 だけど、それはクロガネには通じない。

 雄々しい雄叫びをあげて、迫り来る魔獣を迎えうつ。


 クロガネと魔獣が、まるで組み手をするように、その大きな手を重ね合わせる。

 巨体と巨体がぶつかり合うその感覚は、すぐ近くにいる私にはすごい迫力を与えてくる。


『むぅう……!』


「ゴォオ……!」


 クロガネが、押し切れない……両者の力は、拮抗している!

 いや、違う……


「ぁ……」


 魔獣には、両手が塞がっても残る二つの腕がある。

 それが、がら空きになったクロガネの腹部を狙って、放たれる。


 それを見て、私の体は動く。

 魔獣に対する圧迫感とか、そんなことを言っている場合じゃあない!


「えいや!」


 クロガネの腹部あたりに、魔力障壁を展開。

 魔獣のパンチを受け止め、クロガネへの直撃を回避する……けど……


「ぬぐぐ……!」


 す、すごい力だ、これ……!


 なんとか拳を弾き返し、クロガネもまた魔獣から距離を取る。

 表情が見えないから、魔獣がなにを考えているのか、わからない。


『すまぬな、契約者よ』


「ううん。けどあいつ……」


『うむ。これまでの魔獣とは一味違うな』


 さっき倒した魔獣くらいの強さなら、クロガネにぶん殴られただけで倒せてしまうのに。

 こいつは、クロガネの力に対抗してきた。


 クロガネのブレスが直撃してもほとんど無傷だし、体も固い。


「ブゴゴゴ……ゴゴゴ……」


「な、なんかさっきから言ってる……」


 言葉、というよりは、それはモンスターの唸り声のようだ。

 なんか、怒っているようにも見えるし……私たち、なんかした?


「言っとくが、そいつは今まで閉じ込められてた鬱憤が溜まってる。好き放題に暴れてえだろうよ」


「閉じ込めてたのキミたちだよね! てか遠っ!」


 いつの間にか、エレガとジェラは距離の離れたところにいた。

 つまり、近くにいたら呼び出したあいつらも、危害が及ぶってところか。


 自分たちで閉じ込めておいて、そのストレスを私たちにぶつけるとか、ホントいい趣味してるなぁ!

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