第168話 楽しいお泊まり会へ
ルリーちゃんの話を聞いた感じだと、エレガ、ジェラと名乗る人物はなんらかの方法で、ダークエルフたちを殺していったという。
実際には、半数くらいは魔獣が暴れてその犠牲になったみたいだけど……エレガとジェラには、なんらかの目的があったように思う。だから、殺し方にこだわった。
その方法は、ダークエルフの口の中になにかを押し込み、そのダークエルフは身体中の血を流して死んだ……というもの。
それは間違いなく、今で言う"魔死者"……つまり、彼らがダークエルフを殺した方法は、魔石を体内に取り込ませること。
魔石が体内に取り込まれることで、体内の魔力と魔石の魔力とが膨れ上がり、魔力が暴走して体の内側から破裂する。
その結果、死に至る……それが、"魔死者"だ。
今、その"魔死事件"を起こしているのが、他ならぬルリーちゃんのお兄ちゃん、ルランだ。
「……同じ方法で殺してる、か」
ルランは、人間に強い恨みを持っていた。
人間は、ダークエルフたちを殺した……だから、ルランも同じ方法で、人間を殺そうと考えた。そして、実行した。
ダークエルフが住んでた森には魔石がたくさんあったっていうし、エルフ族ならその方法に気づけても不思議じゃない。
ルランは、自分たちがやられたやり方で、人間に復讐している。その上で、なにかをしようとしている……?
「ルリーくん、よく話してくれたね。よしよし」
「な、は、恥ずかしいです……!」
……そういえば、ルリーちゃんの話に出てきた魔獣、アルファ、ミュー。その片方について。
ミューってのはあれ、魔獣騒ぎのときに私が凍らせた魔獣と、特徴がそっくりじゃなかろうか。巨体とか、首から上がないとか、その部分から触手が生えているとか。
まさか、あれってそれと同一個体ってことは……
……いや、ないな。魔獣騒ぎの魔獣を、ルランは"オレの魔獣"と言っていた。
もしもあれらが同一個体なら、ルランは自分の仲間も故郷も滅ぼした奴が操っていた魔獣を使っていることになる。今人間に復讐しているルランが、そんなことはしないだろう。
ってことは、あれとミューは別個体。というよりは、ルランがミューを真似て魔獣を作った、というべきか。
……なんのために。それに、いくら魔物に魔石を食べさせても、あんな魔獣は簡単に生み出せるものでもないしな。
「うーん……って、なにやってんの二人とも」
「いや、エランくんがなにやら一人考え込んでいるようだったからね。
ルリーくんの頭を撫でていたんだ」
「文脈のつながりなくない?」
まあ、私が考え事に集中していて、二人を放置してしまったのは確かだし。
それにしても、手慣れているのかナタリアちゃんに撫でられて、ルリーちゃんは嬉しそうに目を細めている。
ふと、ルリーちゃんが私の視線に気づいた。
「ぁっ? や、この、これは、んっ……ちが、うんですっ。な、ナタリアさんの、撫で撫で……んぅ、気持ち、よくて……別に、っ、それだけで……深い意味は、ぁ、ないんです。それだけ、なんですぅ……っ」
「…………」
なーんでちょっといかがわしい感じになってんだよこの子は!? 頭撫でられてるだけだよね!?
気持ちいいというのは本当なのか、ほっぺたどころか耳まで赤くなっている。
……まあ、私も師匠に頭撫でてもらったりしたとき、あの大きな手に安心したりしたから、気持ちはわからないでもないけど。
ただルリーちゃんは、なぜか「見ないで」とばかりに顔を背けている。だからいかがわしいんだよ。
「それで、なにを考えていたんだい?」
「あ、続けるんだ。別にいいけど」
私は、ルリーちゃんの話を聞いて……本格的に、わからなくなっていた、
"魔死事件"に犯人はダークエルフであることは話した。けれど、それがルリーちゃんのお兄さんだとは、話していない。ただでさえ、ルランのことは死んだ、と思っているのだ。
そこに、実はキミのお兄さんは生きていて、彼が犯人なんだよ……と言ったら、どうなるだろう。ルリーちゃんにとっては、残されたたった一人の家族だ。
私はルランのしていることを許せないけど、その真実をそのまま、ルリーちゃんに伝えるのは……
「ちょっと、いろいろ混乱してて」
"魔死事件"に加えて、ダークエルフを殺して回った人間のことも。考え事が増えるなんて、まさか思わなかったしなぁ。
まあ、この件に関しては考えても仕方ないか。ルリーちゃんは明確にどれくらい昔かとは言ってなかったけど、エルフ族の言う昔ってのは人にとってかなり昔のはずだ。
もし生きていても、もう死んでいるくらいだろう。
「そう……ま、ちょっといろんな情報が入り過ぎたね。
難しい話は、一旦ここまでにしないかい?」
ルリーちゃんの頭を撫でながら、ナタリアちゃんは言葉を続ける。それは、私にとってもありがたい申し出だった。
"魔死事件"にダークエルフにルリーちゃんの過去……いろいろ、ありすぎて聞きすぎて。情報を整理しようにも、ちょっと、休みたいかも。
ナタリアちゃんがいてくれてよかった。私とルリーちゃんだけだったら、答えのない考えを延々と巡らせていたことだろう。
せっかくのお泊まりなんだし、難しい話は一旦おしまい。その方が、私としても整理できるはずだ。
『アタシや、ルランと会ったことはあの子には秘密にしておいてほしい』
ふと、リーサの言葉を思い出した。あの子も、ルリーちゃんにとって大切な存在のはずだ。
けれど、彼女は言った。時期を見て、自分から会いに行くと。
なら、私が余計なことをしない方が、いいのかなぁ。
「さ、今度はボクの話を聞いてくれよ」
「ん、なになに?」
「実はこないださ……」
暗くなりかけた場を、ナタリアちゃんがほぐしてくれる。今までとはまったく関係のない、取り留めもない話で、笑わせてくれる。
それだけでも、私も、きっとルリーちゃんも、ずいぶんと気が楽になったはずだ。
しばらく話し込んだ後、そろそろ寝ようということになった。二人は、いつもどの配置で寝ているのか。
二段ベッドの上を、ナタリアちゃんが使って、下をルリーちゃんが使っているらしい。ナタリアちゃんの気遣いなのか、私がルリーちゃんのベッドで一緒に寝ることになった。
誰かと一緒の布団で寝るなんて、ずいぶん久しぶりだ。ノマちゃんとは、さすがにそんなことはしないからね。
ルリーちゃんは恥ずかしがっていたけど、せっかくのお泊まりだしね!
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