第126話 冒険者と依頼とダンジョンと
「で、今回の依頼っていうのは?」
そう言えば、私たちは冒険者のみなさんに着いていくばかりで、肝心の依頼内容……今回同行させてもらう、冒険者の依頼されたもの、について聞いてなかったな。
私の質問に、ガルデさんは振り返る。
「ありゃ、事前に聞いてるものだと思ってが」
「初体験ならば危ないことはさせられないだろう、って教えてくれなかったんですよ、あの堅物会長」
今朝のやり取りを、思い出す。ゴルさんめ、実はちょっと楽しんでたんじゃないか?
私の愚痴に、ガルデさんはくくっ、と笑う。
「なるほどな。なに、そう難しいことじゃない。
今回の依頼内容は、魔石採集だ」
指を立てて、得意げに話すガルデさん。ほほう、魔石採集……魔石採集かぁ。
……魔石採集?
授業でやったことあるなぁ。とはいっても、あの魔獣騒ぎの一件で、現在あの森は立ち入り禁止になっているから、魔石採集自体はあの一件以来だ。
「なるほど。
で、たどり着いたのがこの洞窟なわけですか」
「そうだ」
ガルデさんたちに連れられた先にあったのは、小さな洞窟。そこには憲兵さんがいて、ケルさんが中に入る許可を取っている。
以前魔石採集したのは学園裏の森だけど、今回は洞窟か。
それにしても、国内にこんな場所があったなんてなぁ。これまでいろいろ散策してきたけど、まだまだ知らないことばかりだ。
「許可取れたぜ」
「おう。……っと、どうしたそんな顔して」
「いや……この洞窟、どこに繋がってるのかなって」
洞窟って、もっと大きいものしか知らない。師匠と暮らしていたとき、少し家から離れたところにあったり、まああちこちにあった。
けれど、こんな大きなは初めてだ。人一人……いや二人が並んで通れるくらい?
「あぁ、この洞窟は、まあダンジョンの入り口ってやつだな」
「……ダンジョン?」
洞窟を指差し、さも当然のように言うガルデさんに、私は首を傾げるばかり。
その仕草に、ガルデさんは……いや、ケルさんにヒーダさん、それどころかルリ―ちゃんとキリアちゃんも目を丸くしている。
な、なんだいその目は。
「もしかしてだがエランちゃん、ダンジョンを知らないのかい?」
「まあ、聞いたことはある程度です」
師匠に、その存在を聞いたことはある。
けれど、こうして目にするのは初めてだ。
なぜなら……私たちが暮らしていた場所に、ダンジョンなんてものは出現したことがなかったからだ。
「あ、そういえばエランさん、グレイシア様と、人里離れた場所で暮らしていたって」
「あ、なるほど」
ポツリと呟いたルリーちゃんの言葉に、キリアちゃんは納得した様子。
ただ、それでなにを納得したのかわからない。私の頭にはクエスチョンマークが飛び交っている。
そして……ガルデさんたちは、丸くした目をさらに丸くしている。
「ち、ちょっと待ってくれ。グレイシアってあの……グレイシア・フィールドか?」
「うん、私の師匠だよ。知ってるの?」
その瞬間、ガルデさんたちは膝から崩れ落ちた。そういえば、私が師匠に育てられたって話はしたけど、師匠の名前までは言ってなかったっけ。
でも、そんなに大袈裟に驚かなくてもいいのに。
「そ、そうか……」
「マジかよ……あぁ、エラン・フィールドって、名前も……」
「な、なんてこった。そんな、とんでもねえ経歴とは……」
私の質問が聞こえていなかったのだろうか、三人ともかすかに震えている。
ただ、この震えは恐怖や怯え、ってよりも……
「ねえ」
「あ、あぁ、悪い……ちぃと我を忘れてた。
けど、驚いたぜ。なんせ、あのSランク冒険者、グレイシア・フィールドの弟子だってんだからな」
「……んん?」
なになに? Sランク? いきなりなに言っちゃってんの?
その私の反応に、ガルデさんたちはまたも目を丸くする。
「エランちゃん、もしかして冒険者のランク制度も……」
「知らない」
正直に答えると、ガルデさんたちは頭を抱えた。
なにをどこから話せばいいのか……そう、考えているようだった。
いや、実際にそうなのだろう。
「ええとな……エランちゃんの質問もあるだろうが、まず一つ一つ説明させてくれ」
「了解」
「まず、冒険者のランク制度。細かい説明は、まあ今のエランちゃんに説明しても意味ないから省くとして……
冒険者ってのは、ランクに分かれてる。大きく四段階だ。一番下をDとして、それからC、B、そしてAランクへと上がっていくのさ」
今は魔導学園に在籍している私に、必要最小限の知識を教えてくれるガルデさん。
彼は手をグーにして前に突き出し、それぞれ指を立てていく。
D……C……B……そしてA。なるほど、これで四段階。けれど、これじゃあ、Sランクっていうのがない。
そんな私の疑問を感じ取ったのか、ガルデさんは五本目の指を立てる。
「そして、Sランク。こいつは、最高ランクの証だ。けど、この目でそのランクのやつに会ったことはない。
名前だけは有名だけどな。その中でも、グレイシア・フィールドはSランクの中でもトップって話だ」
「俺たち冒険者の憧れなのさ」
「あぁ!」
私にもわかりやすく話してくれる……そして、実際に師匠を慕っているんだなっていうのが、伝わってくる。
なんだか、私まで嬉しいな。
それにしても師匠、魔導学園では首席で卒業し最強の魔導士だって有名で、世界一の魔導具技師で、冒険者としても最高ランクなんて……
やだ、私の師匠、すごすぎっ!?
「ところで、なんでAの上がSなの?」
「さぁなぁ。
聞いた話じゃ、
「ネーミングセンス……」
「エランさんみたいですね」
「ルリーちゃん……?」
「ひゃー、ごめんなさい!」
ルリーちゃんの頭をぐりぐりやってやる。もちろん本気で怒っているわけではない。
でも、この名前を考えた人、確かに私と似たセンスの持ち主かもしれない。いい酒が飲めそうだ、飲まないけど。
フード越しに頭をぐりぐりやったので髪は乱れていないが、乱れた着衣を正しながらルリーちゃんはガルデさんを見る。
あ、もちろん、フードが脱げるような力加減ではやってないからね?
「ちなみに、ガルデさんたちは何ランクなんですか?」
「はは、俺たちはBランクだ。グレイシア・フィールドの後じゃ、自慢にもならねえが」
「そんな、充分すごいですよ!」
Sランクが別格だとしても、Bランクなら全体の平均よりも上。充分すごいランクだ。
誇ってもいいと思う。それに、ゴルさんは、彼らのことを手練れだと言っていたなぁ。
ルリーちゃんの励ましに、ガルデさんは照れくさそうに笑う。
「そ、そうか?
ま、だからこそダンジョンでの魔石採集なんて受けることが出来るんだがな」
「そうそう、ダンジョン。ダンジョンについて教えて!」
出てきた単語に、私ははいはいと手を上げる。
師匠のインパクトが強かったけど、まだ聞きたいことはあるのだ。
そこで今度はケルさんが前に出る。
「ガルデにばっか話させるのもなんだし、次は俺の番な。
ダンジョンってのは、その仕組みは実はよくわかってない。だが、ある日突然……出現するのさ」
「出現?」
「そう。今回のこの洞窟が、いい例さ。昨日まで、ここにこんなものはなかった」
……つまりダンジョンってのは、なにもない場所に、突然出現するもの? にわかには信じられないけど……
いや、今朝のゴルさんの話が急だったのも、もしかしたらこのせいかも。突然出現したダンジョンを、早急に調べなければならない。だから……
「そして、ダンジョンが出現するのは、決まって人の多い場所、もしくはその付近だ。
この国の周辺にも、いくつかダンジョンはある」
これもまた原因はわからないけど、人の多い場所に出現する……か。
だから、さっきルリーちゃんとキリアちゃんは納得してたんだね。私と師匠が暮らしていたのは、人里離れた場所だったから。
同時に、私がダンジョンを見たことがない理由でもある。
次にヒーダさんが、口を開く。
「ちなみに、入り口はちっこいが、中はとんでもなく広い……
いや、別の空間に飛ばされているみたいだと言った方がいいか」
「別の空間?」
「こればっかりは、中に入ってみないと、だな」
ふむ、聞けば聞くほど、ダンジョンってのはわからないものだなぁ。
しかし、昨日出現したばかりのダンジョンなんて、危なくないのだろうか。
そんな私を安心させるように……
「どんなダンジョンも、入り口の階層は安全だから大丈夫だ。下に降りれば未知の世界だが……
今回俺たちの仕事は、ダンジョン一階層での魔石採集だ」
ヒーダさんは笑顔で答えてくれる。
それにしても、下に降りるだの一階層だの……ダンジョンってやつは、例えば地下に潜るみたいに何階も広がっている、みたいな言い方だな。
「でも、いいんですか? せっかく出現したばかりのダンジョンなのに、私たちのせいで……」
と、不安そうに言うのはキリアちゃんだ。彼女は、こう言いたいのだろう。
……私たち素人を連れているせいで、満足な動きが出来なくなってしまう。しかも、出現したばかりのダンジョンともなれば、他の冒険者も足を踏み入れていない。未開の地だ。
私は冒険者の仕事には詳しくないけど、少なくとも私たちのお守りがなければ、魔石採集以上のことが出来るはずだ。
「嬢ちゃんたちが気にすることじゃねえや。まあ、確かに嬢ちゃんの言うことも一理はある」
「基本的にダンジョン依頼は、個人ではなくギルドから出されることが多い。魔石採集、ダンジョンのマッピング、モンスター討伐……俺たちだけなら、魔石採集以外もできるかもしれない」
「だけど今回は、魔導学園からの要請でエランちゃんたちを引き受けることを、俺たちが決めた。俺たちの決定だ。お嬢ちゃんの心配は嬉しいが、それこそいらぬ心配ぜ?」
「皆さん……!」
「それに俺たちゃ、一番とかそういうのはあんま気にしないしな」
キリアちゃんの不安を吹っ飛ばすように……いや、文字通り笑い飛ばし、彼女の頭を撫でている。
その手を振り払うことはなく、キリアちゃんは嬉しそうだ。
うんうん、良きかな良きかな。これこそすばらしき人の繋がりだよ。
あたたかな光景を前に、満足にうなずく私。そんな私の隣に立つ、ガルデさんは……
「ところでエランちゃん……敬語は、やめたのかい?」
「あ」
意地悪な笑みを浮かべて、こう言ったのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます