第104話 一進一退の攻防



「せぇええええ!」


「……」


 大声を上げて迫る私と、無言のままに淡々とそれを捌くゴルドーラ。周囲には、まるで金属がぶつかりあったような激しい音が響いている。

 けれど、衝突しているそれらは金属ではない……魔力だ。


 ゴルドーラの正面へと突っ込んだ私は、魔力強化した杖と『魔力剣マナブレード)』をそれぞれ片手ずつに、振るっていた。どちらも、剣のように鋭いが実態は魔力だ。

 両手に持ったそれはいわば二刀の剣。それを振るい、ゴルドーラへと迫るが……


 ゴルドーラは、同じく魔力強化した杖一本で、私の猛攻を全て捌き切っている。


「押し……切れない!」


「全身への魔力強化で全身の動きを大幅に強化。杖と魔導具で、俺に反撃の隙を与えまいというわけか……

 なかなかに手強いな」


「余裕ぶっちゃって!」


 私の攻撃を全て捌く反射神経、動体視力。焦り一つ見せないなんて……!

 しかも、相手は杖一本……つまり、片手のみしか使っていない。


 ということは、残された片手は今自由になっているわけで……


「っ……」


「どうした、気が散っているぞ」


「ちぃ」


 いやらしいのが、自由な片手は私を攻撃するわけでもなく……攻撃する"かもしれない"、と思わせる程度にしか動かしていないということ。

 これは、私の注意力を分散させるためのものだ。いっそのこと、片手でも攻撃なりしてくれたら、そっちを防御することに集中できるのに……


 中途半端に自由なだけで、いちいち気にしないといけない!


「……ほぉ」


 そんな中、なぜかゴルドーラが感心したように、言葉を漏らす。

 それに一瞬気を取られた。その隙を狙ってきたのか、今度こそ放たれた拳が、私の顔面を狙う。


 とっさに、『魔力剣』でガードする。刀身と拳とがぶつかり合い……衝撃までは殺せず、後ろにふっ飛ばされる。

 けれど、そのまま飛ばされるわけにもいかない。すぐさま一時的な浮遊魔法を使い、動きを止め、その場に着地。


 正面を見据えると、ゴルドーラは私を殴った方の手を、握ったり開いたりしている。


「いくら決闘で結界の中とはいえ、女の子の顔を躊躇なく狙う?」


「……なるほどな」


 私の言葉を無視し、ゴルドーラは感心したようにうなずく。


「その魔導具は、身体強化の魔力も吸収するわけか。

 道理で、違和感があったはずだ」


 納得がいった、とゴルドーラ。今の衝突で、確信したらしい。

 『魔力剣』は魔力強化の魔力も吸収する。それが魔法である以上可能だ。どうやら、さっき杖で打ち合っているときに、杖を強化した魔力が減っている違和感を感じていたらしい。


 そして、身体強化した拳で、『魔力剣』の刀身を殴った。その際、身体強化の魔力もわずかながら吸収されたわけだ。


「やはり面白い魔導具だ。これまで様々な魔導具を見てきたが、そんなものは初めてだ。

 今度、それを作った人物と話をしてみたいものだな」


「……きっと喜びますよ」


 第一王子にそこまで評価されるなんて、ピアさんも嬉しいだろう。本人が萎縮するかはわからないけど……ピアさんだし、第一王子相手でも堂々としてそうだ。

 考えてみれば、ピアさんは二年生。つまり、この学園に在籍してまだ一年だ。たった一年で、こんなすごい魔導具を作り出すなんて……すごい!


 ……それにしても、さっきから攻撃が全然当たらないなんて。


「まるで、魔導剣士みたい」


 まあ、私が戦ったことのある魔導剣士はダルマスだけだし、もっと強い人がどんな感じかはわからないけど。

 それでも、あれだけ攻撃したのに全て捌き切るなんて、並の芸当じゃない。


 私の言葉が聞こえたのだろう。ゴルドーラはピクリと肩を反応させて……


「魔導剣士……? いいや、まったく違う」


 と、言った。


「杖に魔力を込めれば、なるほどそれはあるいは剣のように映るかもしれない。だがな、これは剣ではない。一方で、魔導剣士は剣を得物とする者だ。

 それを剣のように使うことと、魔導剣士とでは意味合いがまったく違う。軽はずみな言動は慎むといい」


 さらに続けて、こんなことを言うのだ。

 た、ただ私は、ちょっと思ったことを言っただけなのに……なんでこんなこと、言われなきゃいけないの!?


 ムキッとした直後に、ゴルドーラの周囲には光の弾が浮かぶ。

 それは、さっきの光景と同じもの。


「無駄ですよ。いくら魔法を撃ってきても、この『魔力剣』で吸収すれば意味はありません」


「だろうな。

 ……それが、無限に魔力を吸収し続けられるのなら!」


 叫ぶと同時に、光の弾は放たれる。しかも、さっきより数が多い。

 あの、ゴルドーラの口振り……やっぱり、試してる! 魔力を吸収できる許容量があると、それを確かめようとしている!


 もしも、この剣はどんな魔法でもどれだけでも吸収できますよ……とアピールしたいなら、魔力を吸収させ続けるべきだ。

 けれど、それを続けたら許容量を超えてしまう!


「せい!」


 ここは……魔力吸収と、攻撃を防ぐのを、同時にやるしかない! まずは、魔力吸収。

 続けて、光の弾に向けて杖を向ける。さっきは、魔力壁を壊されてしまったから、防御でかわすのはなしだ。


 攻撃を、受け流して……


「ほぅ」


 風を操り、風の道を作ることで光の弾の軌道を変える。これで、攻撃が当たるのは防げる。

 だけど、やっぱり数が多い!


「どうした、やはり魔力吸収には限界があるか!?」


「っ」


 魔力を際限なく吸収できるなら、別に他の方法で攻撃を防ぐ必要はない……そうしない時点で、答えを言っているようなもの。

 少なくとも、ゴルドーラはそう感じたらしい。


「接近戦は不利のようだ、悪いがこのまま押し切らせてもらう」


「くっ!」


 接近戦になれば、ゴルドーラの体に触れた瞬間、『魔力剣』は魔力を吸収する。それをさせないために、離れて戦うことを選んだ。

 そのやり方は、多分正解だろう。現に、私が動きを制限されている。


 頭がキレる人だなぁ!


「それに……それは、魔力を吸収する、のだろう?

 ならば、物理攻撃には弱いだろう」


「!」


「不死たる身体を形成されし人造なる人形よ、我が下僕しもべとなりて眼前に姿を現せ!」


 私が光の弾を捌いている間に、ゴルドーラは杖を構えて……詠唱を、開始する。

 これは、魔術を使うための詠唱。


 この『魔力剣』は、大気中の魔力を使う魔術は吸収できないが、ゴルドーラはそれを知らない。なので、闇雲に魔術を撃つわけではないはずだ。

 それに、さっきゴルドーラは「物理攻撃に弱い」と言った。


 本来魔術には、物理的な要素は必要としない。だけど例外はある。

 そして、ゴルドーラは……あの兄妹の、兄だ。


人造人形ゴーレム!!!」


 詠唱が完了し、そして魔術が放たれる……瞬間、見ている景色に異変が起こる。

 固い地面の一部が……ゴルドーラの周辺が、まるで波のように揺れ……次々と、形成されていく。


 泥が、土が、石が……様々なものが、くっつき、それが人の形を成していく。それは、間違いなくゴーレム……コーロランのような巨大なものではなく、コロニアちゃんの人並みの大きさの複数ゴーレムに近い。

 ただし……その数は、十にも登る。単純に、コロニアちゃんの倍だ。


「さあ、行け!

 そして、見せてみろ。これをどう切り抜けるか」


 その合図と共に、ゴーレムは……一斉に、私に向かってくる。もちろん、光の弾は撃たれ続けるままで。

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