第77話 会議終わりにまさかの事態



 魔獣騒ぎについて、私の知っていることを改めて話した。魔獣がエルフとしゃべったこと以外。

 その結果、魔獣を凍らせた私スゲーって話になった。


 どうにも、私が氷系統の魔術を使ったのがみんなに刺さったようだ。

 精霊にはそれぞれ火、水、風、土と属性があるけど、それぞれの組み合わせによって、また違った属性の魔術を使うことができる。


 火の精霊は、火の魔術。水の精霊は、水の魔術。

 今回は、火と水を組み合わせて氷としたわけだ。


 とはいえ、単に二種類の精霊と契約すれば魔術を組み合わせられる、わけではない。魔術を組み合わせるには、精霊同士も仲が良くなくてはいけない。

 今回なら、火が強すぎたら水は蒸発し、水が強すぎたら火は消える。

 精霊同士も仲良くなってこそ、真に複合魔術を作り出すことができるのだ。


「魔獣を倒したエランさん、しかも二種類の精霊と契約しているなんて……

 これは、今のところ「ドラゴ」クラスが一歩リードかな?」


 と言うのは、王子様。

 クラスごとに、魔力量がほぼ均等になるように、それぞれ生徒が振り分けられた。


 この代表者による定例会議は、互いにクラスの力を高め合う情報交換会でもある。

 だから、現在、凄まじい力を持っている私が! いることで、「ドラゴ」クラスが他のクラスよりも一歩リード、と表現したわけだ。


 とはいえ、ここで素直にうなずくのも、嫌味ったらしい……

 ここは謙遜しておこう。


「いやぁ、私がすごいだけで、クラス全体はまだまだですよぉ」


「あはは、なんかエランくんの性格だんだんわかってきた」


「ん?」


 とりあえず、魔獣騒ぎの話の続き……に移ろうにも。結局、魔獣がどうやっていきなり現れたのかも、魔獣の目的も、なにもわからずじまい。

 なので、話はこれ以上膨らませられそうにない。


 私はあとは一応、ダルマ男との決闘のことは話した。

 授業の一環として、魔力の使い方を学ぶために……てな形で。


 他のクラスは、これといって目立った報告はなかった。

 ヨルも、同じクラスのメンバーが魔獣に襲われたって形では報告はあったけど、まあ私の話と被るし、短く済ませた。


 蓋を開けてみれば、あんまりめぼしい話はなかったな……

 いや、まだ入学して数日だし、これが普通なのか。むしろ決闘に魔獣遭遇に、私のクラスがなんかありすぎたのか?

 というか私が。


 さっきも、ヨルから「入学早々エランはすっかりトラブルメーカーだなー」って言われたし。

 ヨルの言うことだし無視してたけど、ナタリアちゃんも王子様もなにも言わなかったってことは、みんなそう思ってるの!?


「じゃあ、今日はこれまでってことで。

 いいですか、先生」


「あぁ。初めてにしては、悪くなかったぞ。

 ま、ざっとこんな流れだ。クラスであった出来事、学園での騒ぎ、それらの情報交換。

 あとはまあ……個人的に気になったことでも……」


「じゃあ、はい先生」


「ん、どうしたフィールド。気になることか」


「最近、視線を感じて」


「本当に個人的なものだな!? 知らん!」


 流されてしまった。先生雑じゃない?

 ちなみにさりげにヨルに視線を送ってみたが、無反応。やっぱりあいつじゃないのか?


 話も一段落して、解散の流れに。

 どうなることかと思ったけど、悪くはなかったかな。


 場を仕切っていた王子様が先生に確認を取り、定例会議も終了……

 と思われたところで、王子様が「あ」と声を漏らす。


「そうだ、大事なことを忘れてた。

 エランさん」


「はぇ?」


 その視線は、私に向けられる。

 お、なんだ? 大事なことって?


 王子様は、にこっと、見る者すべての心を鷲掴みにするような、爽やかーな笑顔で……


「来週、ウチのクラスと試合をしてほしい」


 ……と言った。


「し」


「あ」


「い」


 それは、聞き違い………ではないんだろう。

 ナタリアちゃんもヨルも、驚いた顔をしている。


 そして、先生も。


「えっと……

 試合? 私のクラスと?」


「そう。ウチと、キミたちとで」


 さも当然というように、王子様はうなずいている。

 クラス同士の、試合……それは、私とダルマ男とでやった決闘、とはまた違うんだろう。


 正直、面白そうではある。

 けど……


「なんで、私たちと?」


 疑問はある。入学して、まだ数日……クラス間の交流どころか、王子様と会ったのだって私は初めてだ。

 どんな人かは、ノマちゃんからよくよく聞かされてるけど。


 それとも……交流がないからこそ、だろうか。


「単純な話、興味があるんだよ、キミに」


「……私?」


「そう。入学時点で【成績上位者】、それに入学早々の数々のトラブルの中心にいる。

 興味を向けるなって方が無理でしょう。キミが所属しているクラスにもね」


 そんなもんなのかな?

 でも、だったらわざわざクラス対抗の試合じゃなくても……


「個人的には決闘をしたい気持ちもあるけど、立場的にそうもいかなくてね。

 クラスの力を見てみたいってのは、本当だし」


 残念そうに、決闘はできないと言う王子様。

 立場的……なるほど、王子様だからか。


 いくら学園では一生徒で、そう振る舞っていても……やっぱり、立場を完全に消し去ることはできない。

 貴族どころか、国を背負って立つかもしれない王子様なら、一存でおいそれと決闘はできないのか。


 うん、私もだいぶ、王族ってやつに詳しくなってきたぞ!


「先生、構いませんよね」


「え、あ、あぁ……

 この学園は、生徒の自主性を重んじる。よほどの理由がなければ、止める理由はないが……お前のクラスの生徒は、知ってるのか?」


「もちろん。許可はとってますよ」


 あぁ、どんどん話が進んでいく。

 王子様め、すでにクラスメイトから許可をとってるって……最初から、試合を申し込むつもりだったな?


 先生はどうやら、止めるつもりもないようだし。

 てことは、ここはクラス代表の私が、しっかりと答えなきゃだよね!


 単体の決闘ではなく、クラスメイト全員での試合……楽しそう。

 でも、そんな軽い気持ちで決めちゃだめ。クラスのみんなのことも考えて、慎重に答えないと!


「それで、エランさん、返答は?」


「クラス同士の試合……

 その申し込み、受けるか受けないか……その答えは……!」



 ――――――



 翌日、教室。


「というわけで、「デーモ」クラスと試合をすることになりました。

 以上、エラン・フィールドでした」


「「「なんでだよ!」」」


 うん、まあこうなるよね。

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