第75話 代表者による定例会議



「えっと、この教室か」


「みたいだね」


 教室を出た私は偶然にもナタリアちゃんと遭遇し、共に教室を目指して歩いていた。

 よかった、ナタリアちゃんと会えて。私一人だったら、また迷子になっていたかもしれない。


 一応この数日、教室の場所とか案内はされたけど……

 それでも、覚えきれていないのが正直な話。


 そんなこんなで、ナタリアちゃんと共に、目指していた教室にたどり着き。

 私は、扉を開ける。

 教室の中にいたのは……


「ん、来たか」


「……先生?」


 教室に入ってきた私たちを見て、軽く手を上げる私の組の担任の先生……ヒルヤ・サテランの姿だった。

 来たか、って。まるで、私たちを待ってましたよと言わんばかり。


 教室には先生の他に、二人の男子生徒だ。

 一人は、残念なことに見覚えのありすぎる男、ヨル。残念なことに私と同じ黒髪は、よく目立つ。

 そして、もう一人のブロンドヘアの男の子が……


「どうした二人とも、早く座れ」


「はい」


「えぇと……

 なんで、ここに先生が?」


 それは、単純な疑問。

 私に、定例会議に出席しろと念押しして、私より先に教室を出ていった先生が、どうしてここにいるのか。


 私の質問が意外だったのか、先生は目を丸くする。


「言ってなかったか?

 定例会議には、各クラスの代表者とは別に、それぞれのクラスの担任が一人、週ごとに入れ替わりで付き添うと。

 今日は私の番というわけだ」


 聞いてないんだけどそんなこと。

 てか、そういうことならわざわざ私一人を行かせないでも、一緒に行ってくれればよかったじゃん。


 ナタリアちゃんいなかったら迷ってたよ私。

 ぷんぷん。


「付き添い、ですか」


「ま、付き添う、とは言葉通りだ。さすがに生徒だけでってわけにもいかないからな。

 今回は初回だし、会議の進め方なんかを軽く説明するが……それくらいだ。

 聞かれたことには可能な限りは答える等はするが、基本的に会議に口は挟まない。

 生徒の自主性を重んじるからな」


 ……そりゃそうだよな。いきなり、はい会議しろ、なんて言われても、なにをどうしたらいいのかわからないし。

 それに、先生もいない中で、どんな会議が行われているのか把握できないってのは、先生にとっても意味のないことだろうし。


 ……ん? 待てよ。先生が付き添いでいるってことは……

 ヨルが、変なことをしてくる可能性が減る!

 さすがに、先生のいる前で変な行動や言動はしないだろう。


 そんなこんなで、定例会議初回が始まった。

 メンバーはそれぞれ…

 


 「ドラゴ」クラス

 エラン・フィールド


 「デーモ」クラス

 コーロラン・ラニ・ベルザ


 「ラルフ」クラス

 ヨル


 「オウガ」クラス

 ナタリア・カルメンタール



 だ。

 それぞれ、席につく。四人が、それぞれ向かい合うような配置だ。上から見たら十字みたいな形。


「はじめましての人もいるし、ここはまず軽く自己紹介といかないかな」


 さてなにを話そう、と考えていたところへ、手を上げて口を開くのは、コーロラン・ラニ・ベルザ。

 このベルザ王国の、第二王子様だ。

 そして、ノマちゃんが恋する相手でもある。


 自己紹介。それに異論はないので、小さくうなずいておく。

 まあ私がはじめましてなのは、王子様だけなんだけど。


「構いませんよー。ね、ナタリアちゃん!」


「もちろん」


「なあ俺は?」


「では、言い出しっぺの私から。

 「デーモ」クラス代表の、コーロラン・ラニ・ベルザ。立場としては、この国の第二王子ってことになってるけど……

 みんな、敬語なんかもなしで、気にせず普通に接してくれると嬉しい」


「オッケー、王子様!」


「……私が言うのもなんだけど、適応早いね。

 あとせっかくなら王子様以外の呼び方でお願いしたい」


 なんだ、王子っていうからどんな堅物かと思ったけど、爽やかないい人じゃんか。

 人当たりもいいし、うんうん。こういうのが理想的な、初対面の男子、だよね。


 簡単な自己紹介ということで、その後はナタリアちゃん、ヨルと進んでいく。


「こほん。えー、「ドラゴ」クラス代表のエラン・フィールドだよ。

 気軽に、エランって呼んでくれると嬉しいな!」


「エラン、そのカチューシャ似合ってるな」


「セクハラです」


「なんで!?」


 さてさて、一通り全員の自己紹介が終わったところで……

 自己紹介言い出しっぺだった王子様が、続けて場を仕切っていく。


「じゃあ、それぞれのクラスで報告を行っていこうか。

 まずは私から……と言いたいところだけど、それよりも話題のありそうな人から……」


 と、王子様の目がなぜか私に向く。

 ヨルも、ナタリアちゃんまでも私を見ているのだ。


 な、なんだよぅ……私に、しゃべれってことか?

 けど、そんな、しゃべれるようなことなんて……みんなが期待しているような、話題なんて……


「と、特にありません」


「そんなわけないだろう!」


 その場に響くのは、私たち四人の誰のものでもない……

 ハッとして、口を押さえる先生のものだ。

 思わず口が出てしまったんだろう。思わずツッコんじゃったみたいな。


 私たちの視線を受けて、先生が諦めたように口から手を退ける。


「特にないわけないだろう。

 フィールド、お前適当に終わらせて帰ろうとしてないか?」


「そ、そんなことないですよー?」


「こうならないために、一人は教師が立ち会って……

 まあ、ベルザがいれば軌道修正してくれそうな気もするが」


 頭を押さえる先生。頭痛いのかな?


 うーん、特にないことはまあ、確かにないんだけど……

 別に私のクラスだけに関した話でもないしなぁ。


「魔獣騒ぎのことなら、組ってより私個人が絡んだだけだから、別にいいかなって」


「よくない。組に関してじゃなくても、そういう重要なことは言わなきゃだめだ」


「じゃあヨルでもいいじゃないですか。あの授業に参加してたでしょ」


「魔獣を倒したのはエランだって聞いてるよ。

 なら、エランが言うべきだろう?」


「ちぇ」


 別に、わざと言わなかったわけではない。すでに全クラス、いやもしかしたら全生徒に伝わっている話だから、私から改めて言わなくてもいいだけかなと思っただけだ。


 けど、はぁ……

 だめかぁ。


「わかった、言うよ。

 って言っても、みんなが知ってる情報以上のものは出てこないと思うよ」


「いいんだ。

 これはあくまで定例会議……報告しあい、情報を共有することが目的なんだから」 


 先生曰く、細かいことは気にしなくていいらしい。

 というか、三人とも私から話を聞きたそうな目をしている……


 やれやれ、仕方ない……話すか。

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