第24話 二人が呼ばれたわけ
さて、理事長室に呼ばれた私と、とヨルという名前の男の子。
この国で初めて見た、私以外の黒髪黒目の人。他にカラフルな人が多い中で、その色は目立つ。
私たちに共通するのは、【成績上位者】というもの。
もう一人、三人目がいたはずだけど……
「私たち、だけですか?」
理事長がなにかしら話を始めようとする前に、私は手を上げて聞く。
私と、ヨルって男の子と、もう一人ナタリア・カルメンタールという名前が書いてあったはずだ。
【成績上位者】に話があるのなら、三人に話を通すはずだ。
だけど、ここにいるのは二人だけ。
そんな私の疑問を受けて、理事長は……
「えぇ。あなたたちと彼女とでは、少々勝手が違うようなので。
予想しているとおり、あなたたち二人は【成績上位者】なのでここに呼びましたが、正確には【成績上位者】のあなたたち二人だから呼んだのです」
「?」
それは、どういうことだろう。
ここに呼ばれたのは【成績上位者】だから。でも、【成績上位者】である三人じゃなく私とヨルって男の子だけ……
コホン、と理事長は咳払いする。
「改めまして、魔導学園現理事長。
フラジアント・ロメルローランドです」
名前長っ。それが普通なのかな?
「ヨルさん、エラン・フィールドさん。
二人を呼んだのは、筆記試験の内容を確認し、お聞きしたいことがあったからです」
「ひ、筆記試験の内容?」
その言葉を受け、私はドキリとした。
筆記試験……確か、魔導に関することにはわりと答えられたけど、魔導学園の歴史に関することは、さっぱりだったんだよなぁ。
もしかして、「魔導学園の歴史を知らぬ者に、学園の敷地をまたがせるわけにはいきません! ぺっ!」って合格を消されてしまうんじゃ!?
いやいや落ち着け……それなら、わざわざ合格だって貼り出す必要もないはずだ。
だから別の理由、のはずだ。
「あなた方【成績上位者】は三名とも、実技試験の成績はトップクラス。
正直、これだけの成果を出す者が三名もいるなど異例のこと……今年は、量より質、優秀な者が多いようです」
「は、はぁ……どうも?」
えっと……とりあえず、褒められているってことで、いいんだよね?
私も、ヨルって男の子も、もう一人も。実技試験の成績はトップだった。
だけど、先ほどの話を加味すると……実技試験ではなく、筆記試験に問題がある。
「あなたたち二名と、残る一名。
明確な違いは、先ほども言ったように、筆記試験の結果になります」
「違い、ですか」
「えぇ。
あなたたち二人と、もう一人のナタリア・カルメンタールさんは、こちらも優秀な成績を収めています。
ナタリア・カルメンタールさん……彼女は現在の知識について完璧とも言える回答を示しています。
ですが、あなたたち二人は、少々知識に偏りがあると言いますか」
「偏り?」
「そうですね……簡単に言えば、ナタリア・カルメンタールさんは現在の知識を持って回答をしたのに対し、ヨルさん、エラン・フィールドさん両名は、過去の知識を持って回答している、という感じで」
私たちの回答は、間違ってはいない。間違ってはいないが……
その知識に、少々厄介なことがあるのだという。
それが、現代の知識と過去の知識……?
「……簡単に言われても、よくわかんねえんだけど」
と、ここに来てようやく、ヨルという男の子の声を聞いた。
なんか、足組んでて偉そうだな。
けど、理事長はそれを気にした様子もない。
「そうですね……通常であれば、たとえば魔力とはなにかという質問。
一般的な回答は、己の中や大気中に存在している、ありふれた力のこと。
しかしあなたたちの回答は、魔力という存在の根源にまで触れている。
知識が深いのは結構なことですが……一個人が、まして長寿なエルフでもないあなたたちが知るには、あまりにも過度な情報です」
「勉強熱心、てだけだろ?」
「しかし、中には今や人々に忘れ去られてしまったような、知識もあります。実は、あまりに高度な回答内容だったので、恥ずかしながら我々の知識不足から不可の採点を付けようとすらしてしまって。
私が知りたいのは、あなたたちがどこで、そのような知識を知り得たのかということ。
もちろん、知っているからどうというわけではなく……そのような知識を持った生徒の存在を、嬉しくさえ思っていますよ」
う、うーん……なんか、むつかしい話に頭が混乱してきたぞ?
要は、一+一を二って答えるか、二と答えた上でどうして二となるかその理由まで答える……
私たちが回答したのは、後者だったってことか。
現代知識だけでは、説明できない回答。それを導き出した私たちが気になって、呼び出し……どこでその知識を手に入れたか、聞いたのか。
「私は……師匠に、教わりましたけど」
師匠が、魔導についての知識を教えてくれた。
てことはあの人、私にかなり古い知識を教えていたってことか?
もしかして、エルフの知識をそのまま受け継いだから、私の中で古い知識が常識、みたいになってしまったのか。
しかも、それがわりと高度な知識だから、一般の人にはレベルが高すぎて逆に理解されない……ってこと!?
「俺もまあ、似たようなもんかな。俺にいろいろ教えてくれた人は、もう死んじまったけど。あとはちょいとした特典みたいな」
「? ……私の師匠はエルフですから、そういう知識には豊富だったんだと思います」
「……エルフの……そうですか、わかりました。
確認したかったのはこれだけです。二人とも、いい師を持ったのですね」
え、へへへ……なんか、師匠のことを褒められると嬉しいなぁ。というか、なにげなくエルフの名前を出したけど、反応は薄いな。
それから理事長は、私やヨルって男の子の回答を見て、我々もまた勉強をし直す必要がある、なんて言っていた。
それから、労いの言葉を貰って……部屋を、出た。
「ふぅ。よかった、結果的に褒められた形になっちゃった」
「なぁ、あんた」
理事長室を出て、来た道を戻る。
クレアちゃんとルリーちゃんを、待たせているからだ。
足取り軽く足を進めていたところで、ふと、後ろから声をかけられた。
振り返ると、そこにいるのはヨルって男の子。
「えっと、私?
あのね、私はあんたじゃなくて……」
「エラン・フィールド。直球に聞かせてもらう」
私の抗議を聞くつもりもないのな……けれど覚えてくれていた名前を呼ばれて、私は肩を震わせる。
いつの間にか、彼は目の前にまで迫っていて。
彼のほうが、頭一つ分高い。
なので、私が見上げる形になり、彼に見下されて……
その黒い瞳に吸い込まれそうな……そんな気分になりつつあったとき、彼は口を開いた。
「あんたも……転生者か?」
……と。
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